赤紫色、それは目に見えない色
Fishing-me
第1話
◉登場人物
・三河健一(Ken-ichi Mikawa)この物語の主人公?。探偵事務所をやってい る。
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7月5日(土)
「何なんだよ、ムカつく。」
誰もいなくなった事務所で独りこう呟く。
俺は頭を抱えていた。
何故ならここ最近同一犯と思われる殺人事件が5件起きていたからだ。だからって頭を抱えてまで考えることはないだろう、そう思うかもしれない。だが俺はこの町で探偵事務所をやっている。この法治国家だから警察様が大抵のことはやってくれる。最近は特に依頼が減ってきた。そんな中での大切な依頼だ。やれることはやらないと客足がさらに減ってしまう。まぁ客足は減った方が良いのかもしれないが…。
「ガチャン…」
俺はドアの開いた音に思わず身構えてしまった。もしかしたら…。
「三河さ〜ん。依頼した件どうっすか。」
「こ、こんばんは。どうしたんですか。こんな夜遅くに。」
「いやぁ。推理が気になって夜しか眠れなかったんですが今日は夜も眠れなくて。」
相変わらず挨拶が上手い。彼、いやこの件の依頼主である小山翔太。22歳という若さで独立をし、今は町で小さいながら会社をやっている。業績も結構良いようだ。俺より一枚上手ということだ。そんな彼が何故俺みたいな小さな事務所に依頼をしたか。それは10日前に遡る。
十日前────
彼の会社の従業員であった服部葵(21)が殺されたからだ。死因は転落死。事件の手口を見る限りここ最近の連続殺人事件犯の仕業だそうだ。彼は自分の従業員が殺されたことに怒り、警察だけではなく俺に頼んで徹底的に捜査してもらうことにしたそうだ。
俺は小山にコーヒーを出した。
「それにしても不可解な事件っすよね。」
「はい。私もこの一週間考えを巡らせてみたんですがどうも手がかりがない、いやありすぎるが前例がなくて分からないんですよね。」
「そうなんっすよ。鑑識に調査結果を聞いたんすけど、どうも遺体の損傷的に自分で落ちたようにしか思えないらしいっす。」
「落とされたわけではないとすると、やはり弱みを握られて死に追い込まれたというところでしょうか。」
「そうなるっすよね。でもあいつに弱みなんてなかったと思うんすよ。だって仕事一筋で交際中の彼氏とも上手くやっていたらしいですし。」
「彼氏さんが犯人ということはあるでしょうか?」
「いやそれが警察に聞いたらその時彼氏にはアリバイがあるらしくて…。」
クソ、まるでコーヒーの煙のように掴めない。見えているはずなのに。
「まあ、ありがとうございました。また2,3日後に来ます。」
「あぁ。こちらこそありがとうございました。こちらもそれまでに考えておきます。」
「じゃあ。さよなら」
ガチャンと音がなってドアが閉まる。あの時、遅いから今日は泊まっていけとでも言っておけばよかったと後悔するとは思ってもみなかった。
7月6日(日)
第6の事件が起きた。小山が殺された。同一犯の仕業とみられるそうだ。何か踏み込みすぎたのだろうか。死因はまた転落死。死亡推定時刻は日を跨いだ午前1時30分。頭部にはコンクリートに打ちつけたような傷があった。
俺は朝のニュースでその事実を知った。そして思わず勘付いてしまった。次は俺の番じゃないかと。テレビでは星座占いをやっていた。俺とは対照的な明るい声のアナウンサーがラッキーカラーを発表していた。乙女座は、赤紫か。そんな色のもん、持ってるわけがないだろう。俺はテレビを消してベッドに寝っ転がった。今日は日曜日、事務所は休みだ。俺はスマホで軽く事件について検索したが、テレビの内容とさほどか変わらなかった。ふと下に出ていた広告に目をやった。『〜色について〜これを学べば服のセンスが2倍に!〇〇町公民館6月1日〜9月30日A.M.10:00〜P.M.12:00毎週末開催!参加費無料‼︎』ふーん。俺は服のセンスがないとよく言われがちだ。今は上下黒のスウェットを着ているくらいだからな。来週の日曜日に行ってみようかと思う。良い気分転換にもなるだろう。その日はこのニュース以外目立ったことはなかったようだ。
7月9日(水)
「所長、起きてください。お客様が見えましたよ。」
従業員の中瀬莉子に起こされた。うっかり居眠りをしていた。
「あぁ、すまない。お客様をお通ししてくれ。」
やって来た人を見て俺は声が出なかった。ありえない。これは夢だ、夢だ。そうとさえ思った。だって目の前に立っていたのは他でもない小山翔太だったからだ。
「お、お前3日前に死んだはずじゃ。何で生きてる。偽物か。」
「いや、気づいたら死んでたんっすけどなんかこうなってたんすよ。」
こうなってたんすよってなんだよ。俺は内心そう思った。
「伝えたいことが一つあるんすよ。それは見えているはずだけど見えていない。それに気づかなきゃ。」
そう言って彼は消えた。
「所長、起きてください。お客様が見えましたよ。」
「へ。」
「へ、じゃないですよ。仕事中に居眠りとかどういう神経してるんですか。」
あぁ。夢か。
「通してくれ。」
かくして30秒ほどしてドアが開いた。
「こんにちは。」
50代と思われる男性が入って来た。律儀に脱帽をしてスーツを着てくるということは何か地位のある役職にでもついているのだろうか。
「こんにちは。今日はようこそおいでなさいました。私、探偵事務所をやっております三河健一と申します。」
「こちらこそ。私は元警視庁捜査一課の小山孝雄と申します。」
元捜査一課。一体何をしに来たのだろうか。
「まぁ座ってください。今日はどのようなご用件でしょうか。」
「3日前息子が殺されました。」
「も、もしかして翔太さんのお父様でしょうか。」
「息子もここへ来ていたんですか⁈」
驚いたようにいう孝雄さんに思わずこちらも反応してしまう。
「いや、すみません。つい興奮してしまいまして。」
「いえいえ。いきなりなんですが、実は息子さんは殺される数時間前ここを訪れて来ました。」
「………そう、なのか。」
「はい。僕があの時とめていれば。」
「いや、気にすることはないよ。でも、最後に息子が来たところに来れて良かった。」
そう言って彼は帰った。やはり初手であの発言はまずかったか。
今日も新しい事件はなかったようだ。
7月13日(日)
〇〇町公民館に来てみた。予想以上に人が多い。やはり皆服に関しては自信がないのだろうか。
「ごほん。えー、まずは色の波長から説明していきます。」
もっともらしい咳払いに似合わず講師の先生は20代後半の男性。俺の1,2歳年上というところか。
「まず色の波長は長い方から順に赤、橙、黄、緑、青、紫となっています。これは可視光線という範囲内での話で、これより長い波長は赤外線、短いものは紫外線となってきます。」
はあ、俺は化学は苦手なんだよな。ここだけの話、高2の成績は五段階のうちの2、期末は赤点ギリギリの24点だった。
「ここで豆知識。知ってたら友達に自慢できますよ。実は赤紫色って見えないんです。長い波長と短い波長の中心は緑色のはずですよね。でも人間の脳は勝手に赤紫色を作り出しているだけなんです。見えるはずなのに見えない、不思議ですよね。」
何だよそれ、俺視力1,2だぞ。まあ赤紫色は見えるけど。それよりもさっきから眠気がすごい。昨日はナイト*グレート飲みすぎたか。オールするんじゃなかった。だんだん眠気が………。
気づいたら講義は終わってた。くそ、肝心なところが。まあいい。帰ったらまた推理するとするか。帰り道、近くのコンビニ、ビブンセキブンによって弁当を買った。途中コンビニで雑誌を読んだせいで帰りが遅れた。今日も事件、推理共に進展なし。
次の更新予定
毎日 22:00 予定は変更される可能性があります
赤紫色、それは目に見えない色 Fishing-me @Fishing-me_Yupe
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