挑戦

黒星★チーコ

 チチュン、と雀の鳴き声がガラス窓の向こうで聞こえた。

 あ、朝チュンてやつだ。と思いながら君の背中を見つめる。知らなかった。こんなところにホクロが有るなんて。君自身は知ってる?

 ぴったりと触れていた肌の熱となめらかさを楽しんでいたら、その向こう側から、あきらかに後悔の色が滲んだ声が漏れる。


「なんでこんなことに……」


 君はそんなことを言ってベッドから出て、床に脱ぎ散らかされた服を探している。君が離れてしまったことで、さっきまで温もりを保っていた身体は急激に冷たくなっていく。まるで自分の心と比例しているみたいだ。

 なんで、こんなことに、か。無神経で残酷なその言葉と態度に軽く傷つく。でも傷ついたことを表に出してはいけない。バレたら終わりだ。もう友達にも戻れなくなる。


「なんでだろ……? 寂しかったから? 人肌恋しいとか、そういうやつ」


 あくまでもこれは過ち、という体でぼうっとした顔と声を作る。勿論こんなこと、やったことないから初めての挑戦だ。演技だと見抜かれてしまうだろうか、怖い。


「ごめん!」


 君が両手を顔の前で合わせた。あ、ヤバイ。演技を見抜かれなかったのはいいけど、謝られるのはもっと傷つく。


「ごめんってなに」

「え」

「別に謝る事ないと思うけど?」

「だって、好きでも無いのに……その、ヤッちゃって」

「ぷふっ、真面目か!」


 真面目だよね。そんなところも好きだ。でも今は絶対に言ってあげない。


「いいじゃん別に。お互い今は恋人も居ないんだし」

「や、だけど」

「うちら、意外と相性良かったと思うけど。そっちは良くなかった?」


 君の顔が、首筋が、みるみるうちに朱に染まった。昨夜の事を思い出したらしい。それは「良かった」って返事と取っていいかな。


「……もう一回、しようか」


 ベッドに寝たまま、朱くなって立ちつくしている君を上目遣いで挑戦的に誘う。

 君の弱い所全部知りたい。それを全部攻めて、グズグズに甘やかして、絶対に友達ではいられないようにしたい。そんな気持ちを閉じ込めた指先を君に向かって伸ばす。


「ん?」


 するのかしないのか問いかける様に言うと、君の指がおずおずと伸び、自分のそれに絡められた。


「ん」


 思わず笑みが零れてしまう。ああ、いけない。まだ気持ちは知られてはならない。君を手に入れるまで。


 挑戦はまだまだ続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

挑戦 黒星★チーコ @krbsc-k

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ