さぁ、物語を始めよう
その日、魔族は滅んだ。
正確には、魔王軍が壊滅しただけであって魔族という種族そのものはまだ存在している。
しかし、その王たる魔王は敗れたのだ。
新たな魔王が産まれることが無い限り、人類が滅亡することは無いだろう。
魔族の街は殲滅され、非戦闘員すらも皆殺し。
勇者とは到底思えない行動だが、実はストーリーのエピローグでも真の勇者は同じことをやっている。
アイツは魔族に対して慈悲がない。
俺もそんな奴を見習った形となる。
さて、そんなこんなで魔族に勝利した俺たちが、帰るまでが遠足だ。
イチル帝国を渡る事になるのだが、まさか自分たちの国を通らずに魔族を殲滅したとは思っていなかったのだろう。
少し不穏な空気が流れたが、そこは聖女様と皇太子殿下が居る。
権力万歳!!権力万歳!!
結果、俺たちは英雄として迎え入れられ、帰りの道中は特に問題もなく帰ることが出来た。
その間に、サリナにガッツリ襲われて、そりゃもう死ぬほど搾り取られたりしたが、まぁそれは割愛しておく。
一言だけ言うなら、俺を舐めるな。
夜の方だって熟練度上がるんだぞ。最初は滅茶苦茶にされたけど。
夜を終えた翌日の朝、聖女様の視線はマジで人を殺しそうなものだったが、俺は知らないふりをしておく。
そうして帰ってきたフリード王国。
俺達は英雄として称えられ、俺は勇者としてこの国の英雄となった。
が、そんなことはどうでもよかった。
帰りの道は約1年ほどかかったのだが、ユナは大きく成長していた。
大人しい子だったはずだが、随分と活発的な子になったらしく、帰ってきた俺達を見て笑顔を輝かせながら抱きついてきてくれた。
そして、俺達に花束を渡してくれたのだ。
もちろん、お金は払って。
最低限の約束は果たせたはずだろう。
しかし、嬉しい事ばかりではない。
あの激戦の中、誰一人として犠牲者を出さずに勝つことは不可能であり、少なからず犠牲者は出てしまった。
俺達の窮地に駆けつけ、共に人類の未来を守った英雄たち。
彼らの墓は城の敷地内に建てられ、誰もがその戦士たちに安らかな眠りを祈る事ができるようになっている。
当然、俺とサリナと祈った。
ありがとう。みんなのお陰で何とか勝ち取った勝利だ。
誰一人として欠けていたら、きっと俺達は敗北していた事だろう。
そして、旅の終わりはやってくる。
それぞれが各々の生活に戻り、やがて俺たちから人が離れていく。
そうして、最後に残ったのはサリナただ一人であった。
「すげぇ歓迎されたな」
「シスターからしたら、送り出した子が妻を得て帰ってきたんだからね。しかも、その子は英雄だよ。喜ばないはずがない」
「随分と愛されていたんだな」
「村のみんなには色々とお世話になったからね。流石に殴ってもらうことは出来なかったけど」
「当たり前だ馬鹿野郎」
そうして戻ってきたのは、俺の生まれ故郷。
俺が勇者になることを決意し、真の勇者ではなく偽りの勇者が生まれた地。
俺たちが帰ってくるなり、村のみんなは大騒ぎ。
どうやら、俺の噂は既に届いていたらしく、“棺の勇者”の名はこの国中に轟いていたそうだ。
俺以外の人を疑わなかったのかと聞いたら、“この世界で棺を武器に戦うのはお前しかいない”と言われ、何も言えなかったが。
そう言えば、武器を棺にしたのが原因で死ぬほど苦労したな。
そのお陰でサリナに出逢えたと思えば、悪くないイレギュラーだったが。
「なんやかんや、楽しかったね」
「そうだな。それと、そいつはどうするんだ?」
俺の手の中にあるのは、アトリエーシュの持っていた刀。
彼女だけは救えなかった。
アーティファクトと言う予想外の方法でニードはアトリエーシュを仲間にしたから。
彼女はどちらかと言えば被害者だ。汚名を被ることになってしまったが、それはそれとして彼女の墓を建ててやるべきだと俺は思っている。
しかし、事情を知る俺以外から見れば、アトリエーシュは反逆者。
当然ながら、英雄達の墓には入れない。
そうして、墓を立ててやる場所に困り、ここまで来てしまったのである。
「ここに立てよう。生まれ故郷でもない場所だけど、きっと気に入ってくれるさ」
「まぁ、悪くない場所だしな。グリード、旅が終わったらこういうのどかな村で暮らしたいぞ」
「え?無理でしょ。サリナの近くにいるとみんな離れていくし」
「お?急に喧嘩か?」
「旅に満足したら二人だけで暮らそうよ。街から近い、どこかの森の中でもね」
どうせ、魔物は脅威にはなり得ないしな。
ドラゴンとか出てこない限りは。
ドラゴンが出てきてもサリナなら普通に勝つよな?
流石に個体名がつけられているドラゴンは分からないが、それ以外なら余裕で勝てそう。
というか、俺も勝てる。
「それはつまり、グリードと────」
「サリナ。余計な事を言ったらこのプランは無しだからね」
「グリード大好き!!」
「よろしい」
俺はそう言うと、刀身を引き抜いて地面につきさす。
そこは、本来勇者になるべき者が眠る場所。
本来なら、彼らが出会って楽しく旅をしていたはずの世界。
せめてあの世でぐらいは、顔を合わせてやってくれ。
大丈夫。お前らは結構性格の相性いいから、仲良くやれるよ。
「さて、行こうか」
「もういいのか?せっかく帰ってきたんだし、もう少し居てもいいんだぞ?」
村に帰ってきてから3日。
初日はシスターに揉みくちゃにされたあと、いらん気の使われ方をした。
2日目は村のみんなと話し、世話になった人達にお礼を言った。
ついでに、壊れて使わなくなってしまった棺を作り直してもらった。
ミニチュアの棺だ。これで、歴代棺のストラップが全部揃ったな。
そして今日が3日目。
もう少し居てもいいのだが、俺は好奇心が抑えられない。
ストーリーは終わった。ようやくチュートリアルが終わったのだ。
このゲームの、この世界の最も楽しいところは無限とも思えるほどに広がるこの世界。
俺が守った、俺達が守ったこの世界を旅する事こそ、俺の物語の本編である。
エルフの国に存在する世界樹。
とある王国の跡地にいる壊れかけた謎の機械。
滅びたと思われていた帝国が実は地下に避難していた地下帝国。
ドワーフに伝わる伝説の武器。
この世界の頂点とも言える竜種の最強格に、未だ存在だけ仄めかされているだけの別大陸。
そして、まだ見ぬ罪。
見たいものは沢山ある。知りたいものは沢山ある。
こんな所で時間を食っている場合じゃない。
今すぐにでも飛び出すのだ。
新たな世界へ。新たな冒険へ。
「いいんだよサリナ。ここまでは勇者の物語、ここからは、俺とサリナの物語だ。誰も邪魔はできないし、その先を読むことも出来ないんだよ」
「そう言えば、この世界は物語だって言ってたな。そしてその大筋は終わったって訳か」
「そういう事さ。長い長いプロローグが終わって、ようやく本編なんだよ。今すぐにでも飛び出したくない?これは、俺とサリナだけの物語りさ」
「ハッ!!いいねぇそれ。私に至っては300年近くのプロローグだったが、生きてきた甲斐があったってもんだ。それで、最初はどこに行くんだ?」
「まずは、サリナと過ごせる時間を長くしよう。不老の奇跡、フェニックスから血を貰うよ」
「あー、そう言えば、聞いたことがあるな。不老不死の存在フェニックス」
長い長いプロローグ。偽物の勇者としての義務は果たして、ようやく俺達の物語が始まる。
勇者の代わりはもうおしまい。
ここからは、俺の思う方に歩みを進めていくとしよう。
「行こう!!この世界の全てを見に!!」
「おうよ!!何処までもついて行くぜ」
さぁ、物語を始めよう。
これは、勇者の役目を終えた転生者の本当のストーリー。
俺達の旅はここから始まるのだ。
完。
という訳で、完結でございます。
ここまで読んでくださった読者の皆様、本当にありがとうございます!!
書きたいものは全部書いたし、そこそこ綺麗に終われたかなと思います。まぁ「俺たちの戦いはこれからだ」エンドではあるんですけど。
さて、物語が終わったらどうなる?そうだね新作だね!!(いつもの)
という訳で、来週の木金辺りに新作を出す予定なので、どうぞよろしくをば。
改めて、ここまでのご愛読ありがとうございました!!また何処かの物語でお会いしましょう!!
勇者が負けイベで死んでしまって、俺が勇者になるしかない〜ストーリー通りに進まないんだが、どうしよう〜 杯 雪乃 @sakazukiyukino
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