第5話 列車内の異界

・ きさらぎ駅

ネット掲示板発祥の怪奇体験談・都市伝説に登場する架空の鉄道駅。我々が住む世界ではない「異界」に存在するとされている。


   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆


 気のせいかも知れませんがよろしいですか?

 先程から某私鉄に乗車しているのですが、様子がおかしいのです。

 そろそろ降車駅が近いはずですが、見た事のないトンネルに入りました。

 この沿線にトンネルなんてないのにです。

 居眠りしていませんし、乗り過ごしていないはずです。

 仮に乗り過ごしたとしても、その先にトンネルはありません。

 周りの人は全員眠っています。

 乗客は多くないです。

 座席にポツン、ポツンと、私のいる車両に数名だけです。

 携帯は圏外です。

 なぜでしょう、この掲示板だけ使えます。

 家族にメールを送りましたが返信はありません。

 今トンネルを抜けました。

 駅があります。

 停車するので降りてみます。

 駅には誰もいません。

 明かりは点いていますが駅員の姿はありません。

 駅の名前は『きさらぎ駅』です。

 見た事も聞いた事もありません。

 改札は切符を駅員が確認する、古いタイプです。

 タッチ決済が使えません。

 そのまま出ます。

 見渡す限り森です。

 道路も電気も何も見えません。

 真っ暗で怖いです。

 人っ子一人いません。

 遠くで動物の鳴き声がします。

 聞いた事のない鳴き声です。

 怖い!

 どなたかいますか?

 変な虫がいました……蚊?

 耳元で飛んで……大きいです!

 羽虫のような生物に襲われました。

 駅の中までは追って来ないみたいです。

 ここにいれば安全でしょうか?

 誰かいませんか?

 そうです、この掲示板だけ書き込めます。

 どなたか警察に連絡してください。

 ここがどこか分かりません。

 きさらぎ駅という名前です。

 時刻表はありません。

 次の電車がいつ来るか分かりません。

 何時間待っても電車が来ません。

 もう終電でしょうか?

 外が明るくなりました。

 朝です。

 始発はいつでしょうか?

 お腹が空きました。

 誰も来ません。

 駅員もいません。

 電車も来ません。

 暗くなりました。

 夜です。

 何も食べる物がありません。

 水道はあります。

 寒いです。

 駅の外に出ます。

 まだ羽虫がいました。

 寒いです。

 誰もいない。

 電車も来ない。

 朝です。

 まだどなたか掲示板にいますか?

 バッテリーがありません。

 明るくなったら駅の外に出ます。

 食べ物を探します。

 戻って来れるか分かりません。

 よろしければ母に連絡してください「今まで有難う」と。

 080-〇▽☆◇-▲■✖★


 こうして、また一人の日本人が異世界への門を通った。

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オカルト小説マラソン 武藤勇城 @k-d-k-w-yoro

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