けして消えない死体
ちびまるフォイ
少子高齢化の打開策
「うう……おじいちゃん……」
「どうか安らかに……」
「では火葬しますね」
棺が火葬場に移されて静かに煙が上がる。
やがて戻ってきたとき、おじいちゃんは五体満足。
「……燃えてないですね」
「火力が足りなかった?」
「火葬場に火力なんてないですよ。そんなバカな」
しかし何度やっても同じだった。
おじいちゃんの死体は常に新品同然で戻ってきた。
「お手上げです。どうなってるんですか」
死体処理の問題はおじいちゃんに限らなかった。
ある一定の年代を過ぎてから、人間の死体は処理できなくなる。
火葬しても無駄。
溶鉱炉に落としてもノーダメ。
鳥葬しても鳥がついばめないほど固い。
「しょうがない土葬するか」
「残念ながらもうこの国に土葬スペースないですよ。
今埋めようものなら地層の中に死体ミルフィーユができます」
「海は? 海に捨てれば……」
「海でも死体は分解されません。
海水浴で死体だらけの海が爆誕しますよ」
「ええ……」
行き場に困った死体の処理は社会的に問題となった。
見た目がいい人はアートや家具として使われるようになり、
そうでない人は遊具や道路の交通誘導の人形として後世を過ごす。
死体は日常的に目にする当たり前の世界となった。
「ねえダーリン」
「なんだいハニー」
「私、行ってみたいところがあるの。
この〇〇県にある▲▲城というところ」
「なんでこんな辺境の地に?」
「有名人のXXの死体が展示されているのよ。
せっかくなので見たいわ」
「もちろんだよハニー。ぜひ行こう!」
著名人や有名な死体はそれだけでランドマークとなり、
観光地としても扱われるようになった。
週末のおでかけの予定を立て、ウキウキとその日を待つ。
しかし当日だった。
当日のはじめの連絡は彼女からではなく、警察からだった。
「YYさんですね?」
「え、ええ? なんですか?
もしかして子どもの頃に外でおしっこした罪が今さら……」
「ちがいます。あなたが恋人だと知ってご連絡しました。
実は今朝、あなたの恋人のZZさんが亡くなりました」
「そ、そんな……」
「急性ヒステリック心不全でした。死体をご覧に?」
「見ます」
彼女は部屋で亡くなっていた。
大好きなアイドルのコンサートチケットを当選したが、
日取り間違えていたことにショックを受けたときに心臓に負担がかかり心停止。
生きているときはケガもすれば燃えもするだろう。
しかしひとたび死んでしまえば人間の体は文鎮と化す。
燃やすことも、切断することも、なにもできない。
「どうします? 生前に彼女からなにか死後の要望は?」
「こんな若さで死を考えるわけ無いでしょ。なにもきいて無いですよ」
「では遺族に話をきいて処理を確定します」
「それまでこのままなんですか?」
「すぐですよ」
警察は遺族に連絡を取ることを試みた。
けれど彼女の両親と連絡はとれない。
生前にいくらか親の話をきいてもはぐらかされた。
きっと自分のように親の顔も記憶もないのだろう。
わざわざ話したがることでもない。
「ダメです。連絡とれませんでした。
3日後に死体保健所が死体を回収しにきます」
「彼女、どうなるんですか?」
「保健所で死体を安置します。
使い道があれば家具やインテリアに使われるでしょう」
「使われなかったら?」
「さあ……そこまでは。今日はもう遅いです。帰りましょう」
死後硬化により手が付けられない置物となった彼女。
貰い手がなければ自分が引き取れないかと悩んだ。
その日は家に帰ってもずっと同じことを考えていた。
やがて決断する。
「やっぱり彼女は俺の家のインテリアとして引き取ろう!」
死体の引取には身請け代金が発生する。
でも知らん富豪の家に持ってかれるよりは良い。
夜中に自転車を漕ぎちらかして彼女の家に到着。
合鍵で中に入るとそこはすでに無人だった。
「い、いない!? 業者の回収はまだ先のはず!?」
死体はもう消えていた。
業者じゃなければ誰がーー。
「まさか、闇死体バイヤーか……?」
最近ニュースで話題になっている犯罪集団。
業者の回収前に死体を持ち去って、闇市で売りさばく。
闇で取引された死体は本来禁止されている
エッチな用途にも使われるようロックが解除されるとかされないとか。
「そんなこと絶対にさせない!!
彼女が死んでも守り抜く!!」
彼女にプレゼントしたデバイスはまだつけっぱなしだった。
タグが現在地を教えてくれる。
どうやら現在の場所は人里離れた山奥。
「待ってろ! 俺が君の死体を守るから!!」
ふたたび自転車を漕いで山奥へとすっ飛んでいく。
GPSのたどり着いた先はきれいな病院だった。
「本当にここか……? もっと犯罪集団らしいアジトかと思っていた……」
こぎれいでまともそうな病院。
中に入れば看護師が普通に仕事している。
受付で彼女の名前を出すと部屋に案内してくれた。
「犯罪集団じゃ……ないのか?」
部屋に入ると彼女の死体が寝かされていた。
服も着ている。
首をかしげていると白衣のおじさんが入ってきた。
「君は誰かね?」
「こ、この人の恋人です」
「なるほど。ここまで追いかけてきたわけか」
「ここで何を?」
「何をって……。法律に沿った処置をしてるんだよ」
「は?」
医者は流れ作業のように死体へ注射を行う。
特殊な加工がされている注射針は死体に滑り込む。
注射された死体はみるみる若返り、しだいに子どもへと戻る。
「なにをしたんですか!?」
すでに彼女は子どもの姿から、赤ちゃんに戻ろうとしている。
「なにって……君は何も知らないのかい?」
彼女の姿は死体から、生まれたての赤ちゃんへと戻った。
やがて元気な産声をあげる。
「今は死んだ人間はすべて命をリサイクルしてるんだよ。
生命循環法さ。そんなことも知らないのか?」
その言葉をきいて、自分の親の記憶がない理由がわかった。
生まれたての女の子を見て医者に問いかけた。
「これ、前世の記憶を引き継いで生まれ直すこと、できますか?」
「別料金のオプションになりますよ」
医者にお金を払って注射針が打ち込まれた。
自分の体はみるみる若返り赤ちゃんとなった。
けして消えない死体 ちびまるフォイ @firestorage
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