女性専用電車の静かなるバトル
達見ゆう
女性の戦いは陰険……いや静かなる戦い
朝の通勤電車。私はまたも女性専用車両に乗っていた。いつもギリギリになってしまう私は時短のためにこの車両に乗らないとスムーズに乗り換えをしなくてはならない。そのためには階段のある所に降りるのがこの車両のためで、痴漢対策とかではない。
そして、男性は時折間違えて乗って目撃したこともあるかもしれないが、女の園は恐ろしく、ギスギスしている。
うっかり男性が乗り込もうなら子どもでもない限り「ここは女性専用ですっ!!」とヒステリックな声が上がる。正直、同じ女性でも不快である。
その日はなんだか混んでいたので思わず「遅れて女性車両中止なのでは?」と口を挟んでしまったが「違います!アナウンスも表示もありませんっ!」とさらに火に油を注ぐ結果となったこともある。
とにかく、男性の目が無いためか女の園というより開けっぴろげな無法地帯である。自分は共学出身だからわからないが、女子校もこんな感じなのか、いや若いからヒステリックな人はいないのか。
そうやって、ぼんやり考えていたとき電車が揺れた。満員電車なので吊り革に掴まれるわけがなく、身体も揺れて隣の女性に触れた。
するとその女性は倍以上の力で押してきた。
(うわ、出たわ。『押し返し女』の隣だったとは)
私は心の中でうんざりした。女性ばかり狙う「ぶつかりおじさん」という人が時々話題になるが女性にもこういう「やたら強く押し返してくる人」がいる。不可抗力でわざとぶつかったわけではないのに、倍以上の力で押し返すのだ。
男性にもいるかもしれないが、少なくとも私の経験則では全て女性である。なので勝手に『ぶつかりおじさん』の対義語として『押し返し女』と名付けている。『女』なのは年齢は関係ないためだ、老いも若きも彼女らは押し返してくる。
朝の満員電車はいろいろとトラブルは多い。今度は急ブレーキがかかったため、強く揺れてしまい、またその女性にもたれるようにして傾いてしまった。
やはり、エネルギーを倍返しするような力で押し返してきた。
こっちは不可抗力で悪意ないのに、なんでこんなに悪意ある押し方をしてくるのだろう。本人は身を守るためで正当防衛なのかもしれないが、私は女性だ。いや、それ以前に女性専用車両だ。痴漢や暴行でもないのに理不尽である。
三回目の押し返しの時、さすがに「押さないでください」と小さく注意した。
「てめえが押してるんだろ」というお上品な返事が帰ってきたのでこちらもお上品に返すことにした。とは言え、同じレベルに落ちたくない。
「まあ、独創的なお言葉どすなあ。お強い育ち方されてはるわ」
エセ京都弁作戦である。京都弁は怖い反面、上品な言葉が多いから嫌味にはピッタリであると思っている。なお、私は生粋の関東民であるし、知り合いにも京都の人はいない。
「うっせぇよ!」
さらに煽ってきた。どうもテリトリー意識強く、短気なようである。ならばこちらもお上品かつのんびりした京都人を装わなくては。
「そないな言葉は大人げあらへんどす。京の女性ならそげな言葉遣いはありえへんし、譲り合いの精神がありますんで縄張りを主張しまへんわ。やはり
とりあえず、近くに関西地方の人がいませんように。エセ京都弁とバレたらこっちが別の意味でダメージを受ける。
「ぐっ……」
すごい顔で睨んできたが、ここはスルーしよう。こちらも朝から喧嘩にしたくない。
「ちょっと、そこうるさいで!」
後ろの女性が声をかけてきた。しまった、返し文句が長すぎたか。
「それにそんな京都弁はあらへん、あんた偽者やね」
しまった、バレてしまった。押し返し女もニヤニヤしている。
「でも、大阪にもこんな乱暴な言葉使う人はありえへんからそこは合ってるわな」
お? 味方ができたか?
「そりゃあ、大阪弁はそのままでも粗暴だもんね」
押し返し女が反論してきた。って、突っ込むところはそこ?!
「なんやて、聞き捨てならんわ。大阪をバカにするとたこ焼き食べられへんで」
「別にぃ。糖質制限してるから食べないし」
なんか、変な方向に進んでる。
「そんなこというとお弁当の冷凍たこ焼きを口にツッコむで」
え? お弁当にたこ焼き?
「冷凍たこ焼きぃ? 大阪人ならそんな市販品なんて食べないのじゃないのぉ?」
押し返し女がディスりながら反論してくる。
「失礼な。ちゃんと家で自分で焼いてから冷凍したもんや」
「やっぱり大阪人はたこ焼きばっかりなんだ、ダッサ」
「何やて、東京の人間だからと変なプライド持ってディスるんかい。そっちだってもんじゃ焼きなんてありえへんもの食べとるやないか」
なんだか、どんどん東西戦争に変わっている。私は火に油を注ぐか鎮火するかわからないが、一言添えることにした。
「あの、今はまだここは都内に入ってませんよ。だから、この人もS県だかT県の人ではないでしょうか?」
「あっ……」
押し返し女がしまったという顔に変わった。
「S県はいろいろあるけど、T県ならしもつかれでしたっけ? 県民でも好き嫌いが別れるやつ。そういう名物あるのにたこ焼きを悪く言うのもどうかと」
私はエセ京都弁を止めて冷静なツッコミを入れてしまった。どうもT県民だったようで顔がどんどん赤くなっていく。
「あ、あんたもS県民だろ!上品ぶるんじゃねぇよ!」
「別にコンプレックスは無いし、元は東京生まれの横浜育ちだけど、S県が気に入って引っ越したのですし、草加せんべいに十万石まんじゅうは好きだし。五家宝はまだ食べたこと無いけど」
「ちょっと待った!五家宝なんて口が乾くだけの菓子だ!あれは認めんっ!」
うわ、第四の勢力が出てきた。
「なんですって、五家宝大好きな私に喧嘩売ってるのですか?それにあなた、O駅から乗ってきたからO人ね。やはりあの美味しさはわからないのだわ」
「そんなことを言うなんてU人ね、新幹線止まらないくせにお高く止まるんじゃないわよ」
「県庁所在地でもないのにデカい顔しないでよ」
「お二人とも落ち着きなさいよ」
「あんた、Y駅から乗ってきたからY人やね。Yはすっこんでろ!」
もはや、ぶつかったどうのではない。私を差し置いて、東西やS県ローカル論争となってしまった。駅に到着しても誰も降りないし、論争が白熱している。発端は私だがもはやどうしようもない。私は小声で遅れる連絡をするのであった。
〜〜〜
『えー、ただ今K線は車内トラブルのため運行を見合わせております。お客様には大変ご迷惑をおかけしております』
駅のホームにいた者たちは「なんだよ、車内トラブルって」や「もしかして人身事故?」とざわついているが、真の原因は知る由もない。
女性専用電車の静かなるバトル 達見ゆう @tatsumi-12
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