黄泉送りの鈴 if

黄泉送り if


琴:こと

照:てらす

久遠:くおん

医者は久遠が兼。


途中までは元の話と全く同じ展開が続きます。




0:鈴の音は、あちらとこちらを繋ぐ音-


琴:おばーちゃーん!来たよー!おばーちゃーん?


琴:いないのかな……

琴:まぁいいや、来ることは伝えてたし、上がって待ってよ。


琴:それにしてもでっかい家だよなぁ…この家にひとりで住んでるばーちゃんって何者なんだろ…


琴:蔵もあるし…いつから建ってるんだ?


0:玄関が開く音


琴:お、ばーちゃん帰ってきたかな?


0:間


照:おぉ琴、待たせて悪かったね、回覧を届けに行ってたら佐々木さんとこのじじいが離してくれなくてね


琴:また佐々木さん?ばーちゃんモテモテだねぇ!

ギリシア:「」

照:やめとくれよ、あんな変態じじいにモテても嬉しくもない


琴:またまたぁ!


照:それより、明日からこの家の大掃除だけど、覚悟はあるかい?


琴:1週間で終わる事を願う…


照:それはあんたの働き次第だね!さぁ、ご飯にしよう。なんでも食べたいもんいいな!


琴:いいの!?じゃあステーキ!


照:……片道1時間かけて買い物に行ってくれるなら作ってやろう


琴:調子に乗ってごめんなさい…


0:夕食後


照:そうそう、言い忘れていたけど…


琴:なに?


照:蔵にある物は絶対に音を鳴らしてはいけないよ


琴:…?どゆこと?


照:それだけ気をつけていれば問題ない。いいね?絶対に、音を出すんじゃないよ


琴:わ、わかった…


0:翌日


琴:うっわ、、高そうな着物がたくさん…しかも穴ひとつ開いてない…すご


照:こんな古いものでも大切に管理してればいつまでも綺麗を保てるんだよ。あんた達はすぐに新しい物を買っては使わなくなると仕舞いこんだりして…物は大切に扱いな


琴:ばーちゃんから言われると、何も言えなくなるわ…


照:着物は後にして、奥の間の掃除をしとくれ


琴:はーい


琴:M/昨夜のあれってどーゆー意味なんだろ…そー言えば、私蔵の中って入ったことないな…ちょうど蔵も掃除してるし、ちょっと行ってみよ。


琴:音を出すな…音を出すなか…何があるんだろ……。


0:蔵の中


琴:……なにこれ…なんもない…


琴:M/蔵の中はガラリとしていて、想像していたものと全く別の光景が広がっていた...ただそこにあるのは、台に置かれた鈴ひとつだけ。ただそれだけ…こんなだだっ広い空間にある物を……音を出すな…?意味わかんない


琴:…広いだけ、掃除も楽そう…こっちからやっちゃお


0:奥へ進み床を履く。


0:しかし、どこからか飛び出してきたネズミに驚いて琴は尻もちをついてしまう


琴:あぃだ!うわぁびっくりした…どこから出てきたんだよ…


0:立ち上がろうと台に手をかけた時、その手は台ではなく鈴に触れてしまった


0:リィィィン


琴:…おぉ、いい音…。……あ、しまった、早速いいつけ破っちゃった…!


0:いつまでも響き渡る鈴の音…そして琴は意識を手放した


0:間


琴:……ん


琴:…冷たい…んぇ!?水!?


久遠:…誰じゃ


琴:え!?


久遠:鈴の音が聞こえたからと来てみれば…お主、照(てらす)では無いな…


琴:照…は、ばーちゃんです。私は孫の琴…


久遠:ほぉ、孫か。アレにも子を成すことが出来たのだな。


琴:あの、あなたは…


久遠:儂は久遠(くおん)…此方(こちら)と其方(そちら)の狭間を守るもの…三途の川の番人とでも言えば良いかの


久遠:鈴の音は合図。儂が魂を迎え、そしてあの世へ送るためのもの…しかしお前、照から何も聞いていないようだな。鈴の意味を。


琴:私、立ち上がろうと台に手をかけた先に鈴があって、間違いで鳴らしてしまって…


久遠:そしてこの有様…照にも困ったものだ。


琴:私…音を出すなって言われただけで……どうしよう…


久遠:(溜息)まぁ鳴らしてしまったものは仕方ない。ここは見ての通り三途の川だ…間違えても渡るでないぞ


琴:それだけは間違えたくない…


久遠:分かったらさっさと帰りなさい。


0:久遠は先程と同じ鈴を鳴らす。するとあっという間に景色は先程の蔵の中に戻っていた


0:間


照:琴!


琴:…ばーちゃん…ごめん、鈴、鳴らしちゃった…


照:…久遠様に会ったのかい…?


琴:すんごい美人だった


照:脳天気な…まぁいい、何か言ってたかい


琴:特に…


照:そうかい…今日はもう家に入ろう。ついでにこの鈴のことを説明してやろう


琴:…うん、


0:間


照:あの鈴の事は、久遠様に聞いただろう?


琴:ざっくりと…


照:この家は昔払い屋をしていてね。妖怪退治や幽霊騒ぎと言ったらこの家と言われるほど、名の知れた名家だった…。しかし、当時当主だった私のひぃじーさんが、祓ってはいけないモノを祓ってしまった…


琴:…何?


照:神様…だよ


琴:絶対ヤバいやつじゃん…


照:そう、まさにその通りにヤバくてな…神の怒りを買ってしまったこの家の者は、祓い屋家業を続けられなくなり、代わりに黄泉送りをすることになってしまった…


琴:…死神みたいな事をさせられるようになった、ってこと?


照:まぁ平たく言えばそうなるかねぇ…死期の近づいた人や、既に亡くなった人の魂をあの世へ送るのが私らの仕事になってしまった…鈴の音が聞こえると誰かが死ぬ。鈴の音が聞こえると誰かが死んだ。あの鈴は死神の鈴だ…とね


照:だから私の代でこの嫌われた家業を終わらせるつもりだった…なのにお前は…


琴:ご、ごめん…


照:私が死んだらあの鈴ごと燃やしてあの世へ持っていくつもりだった…そうしたらこの仕事は私で終わる…嫌われるのは私だけでいい…けれど、そうもいかなくなった…


琴:…どうすれば、いいの…?


照:………。


0:間


久遠:……なんだ、今度は照じゃないか


照:久遠様…孫が粗相(そそう)をしませんでしたか?


久遠:ちょっと話して大人しく返した。


照:ありがとうございます…


久遠:お前、孫が生まれたなど一言も言わなかったじゃないか


照:申し訳ない…しかし久遠様…孫にこの仕事は…


久遠:お前たちの先祖がした事、忘れたわけではあるまいな…神を払った代償…一族の血が絶えるまでこの定めから逃れることは出来ない。


久遠:まして途中で終わらせるなど…私は許さぬぞ


照:久遠様…どうか…どうか孫を見逃して下さい…


久遠:お前が死後、私の下に就き黄泉渡しを魂が擦り切れるまでやったとしても、お前たち一族への呪いは晴れない

久遠:照…罪を重ねて何になる…


照:わかっております…ですが…!


久遠:2度は言わん…照、大人しく孫に黄泉送りの鈴を継承しろ


照:…はい……


0:間


琴:ダメだったのかぁ…


照:私が死んだ後、この鈴は琴が継ぐ……やはり、神様に嘘をつこうなど、浅はかな事を考えるものではないね…


琴:…こんな鈴がある事も、ばーちゃんがその黄泉送りってのをやってる事も、何も知らなかった…


照:知らせても辛い思いをするのはお前だからね…だから墓場まで持っていくつもりだったんだ


琴:……ごめん


照:過ぎてしまったことは仕方ない…と言いたいところだけど、こればっかりは仕方ないで済ませられるものでは無い…お前には黄泉送りを継ぐため、必ず覚えてもらうことがある


琴:…何?


照:なにがあっても、決まった時間に鈴を鳴らす事…


琴:それだけ?


照:簡単に言うんじゃない…毎日欠かさず3時と8時に8秒間、鈴の音が途絶えないように鳴らすんだ……眠いからとサボれば祟られるよ…


琴:……深夜3時と朝8時と昼の3時と夜の8時…ってこと……?


照:そうだ。


琴:ばーちゃんは、毎日これを…今までずっとやってきたの?


照:死ぬまでやらなければならない。そして、私が死んだら、お前が黄泉送りの鈴を鳴らすんだ…。



琴:……


照:そうやって受け継いできたんだよ…


0:間


久遠:孫には伝えたか?


照:困り果てておりました…先代を送り、そして跡を継ぐ事に……


久遠:仕方ないだろう。


照:…はい……


久遠:諦めろ。それに、お前…照よ、もう先が長くないぞ?自分でもわかっているだろう?


照:…でなければ家の掃除をしようなどと思いません…あんな広いだけの家…これさえ無ければさっさと潰してしまえたのに…


久遠:残念だがそうはいかない…神は、粘着質なんだ……。


0:間


琴:ばーちゃん…


照:おはよう琴、なんて顔をしているんだ…洗っておいで


琴:うん…


0:少しの間


照:眠れなかったのかい?


琴:ちょっとは寝た


照:昨日の事を考えていたんだろう?


照:私も最初は困り果てたよ…ひぃじーさんの墓の前で恨み言を言った事もある…でも、そんな事をしても何も変わらなかった


琴:ばーちゃんは、いつこの事を知ったの…?


照:ちょうど琴と同じぐらいの歳の頃……母親から聞かされたよ…しかも死ぬ間際にね


琴:ばーちゃんのお母さんが先代だったんだね…


照:その後事情は久遠様から聞いた…母親は死の間際、あの鈴を鳴らせ、そしてごめんなさい、と言って死んで行った…気持ちの整理も何もつかないまま私は黄泉送りを継いでしまったんだ


琴:だから、ばーちゃんが終わらせるつもりだったんだね…


照:そう。でも、神様に嘘をついても、いずれバレてしまう……嘘はつくものじゃないねぇ…


琴:ばーちゃん……


照:さて、今日も掃除の続きだよ。無駄に広い家だ、気合い入れてやっとくれ!


0:


久遠:……忙しない。今日は孫か…


琴:内緒で、来ちゃいました…


久遠:いい度胸だ…で、何をしに来た


琴:ばーちゃんが死んだら、私が鈴を鳴らさないといけないんですよね…?


久遠:そうだ、そして魂は私が黄泉へ渡す


琴:例えば、もし私がこの先子供を作らなかったら…どうなりますか…?


久遠:馬鹿なことを聞くものでは無いぞ…猫でも恨みは7代先まで祟ると言う…神の恨みを買ったお前たちだ、7代ごときで恨みが晴れると思うなよ?


琴:……。


久遠:力があるからと己を過信し、力を*誇示こじするために神を払うような阿呆の血筋…つける薬も祓う呪(まじな)いもあるわけが無いだろう。


琴:でも、もう十分じゃ…


久遠:…ならお前は、自分の親族が…まぁ照で例えてやろう…照が見知らぬ人間から刺され、そして死んだらどうする?しかもその動機がプライドの為だったらどうする?許せるか?仮にそいつが死刑になったとして、それだけでそいつを許せるか?


琴:嫌な例え方…でも、許せないかもしれない…その人だけじゃなくて、その人の家族まで恨むかもしれない…


久遠:そういう事だよ…


琴:…。


久遠:わかったら従え…大人しく、死ぬまで、私に従え。


0:間


照:琴…ばばぁの寿命を縮めさせる様なことをするもんじゃないよ?


琴:…ごめん


照:私の事を思ってしてくれたのはありがたい…けれど、相手は神様…滅多な事をするもんじゃない


琴:ねぇ…ばーちゃん、祓われた神様って…


照:あぁ、久遠様だ……もう意地になっている部分はあるかもしれない…けれど、それでも、許せないと思っているのは確かなんだ…


琴:…うん


照:ばばぁの老い先は短い…だから、最期までやり遂げてから死ぬさ…


琴:…うん……


照:すまないねぇ、辛いことをさせてしまう…


琴:(泣き出す)…ぅん…


照:さぁおいで……泣くんじゃないよ……ばばぁの涙腺は、ポンコツなんだ…


琴:ばーちゃん……


0:間


久遠:……照、お前……明日死ぬぞ


照:そうですか……よる年波には敵わない…あの子に、酷なことをさせる……

照:誰が自分のばばぁを、しかも魂を送るなんて事をしたがるだろう…


久遠:それがお前たちの*運命さだめ…儂を祓った代償だ


照:あぁ……もっとあの子の笑顔が見たかった……もっと、あの子のために色々してあげたかった……


久遠:……しかし、死期には逆らえない


照:そうでしょうとも…。


照:久遠様、黄泉送りを辞めさせてくれとはもう申しません…ただ一つ、お願いがございます…


久遠:…聞くだけ聞いてやろう。


0:間


琴:掃除、何とか終わって良かったね


照:琴が頑張ってくれたおかげだよ、ありがとうね、


琴:予定より時間かかっちゃったけど、家が綺麗になってよかった。


照:そうだねぇ…これで、この家をお前に渡せる


琴:…でっかい贈り物だね


照:私が渡せるものなんてこの家と少しの財産ぐらい、あとはあの着物…お金に困ったら着物を売ってもよし…好きに使いなさい


琴:何言ってんのばーちゃん、まだまだ長生きしてよ


照:…。


琴:ばーちゃん……?


照:琴……ばばぁはもう、お別れなんだよ…


0:照はその言葉を最後に倒れる


琴:ば、ばーちゃん…ばーちゃん!


0:救急車を呼び浅い呼吸の照に必死に呼びかける琴


0:到着までの時間が泥沼に使ったかのように重く感じた


0:そして、救急車が到着した頃には、照は既に虫の息だった…


0:病院


琴:…手遅れ…ですか……


医者:既に手の施しようがない状態です…こんな爆弾を抱えながら……さぞお辛かったでしょう…


琴:もう、何も出来ないんですか…


医者:残念ながら…


琴:延命も…意味が無いんですか…?


医者:かえってお祖母様に辛い思いをさせるだけです…


琴:そんな……


医者:もう長くはありません…お別れの準備を、してあげてください……


琴:……ばーちゃん。


0:


久遠:…鈴の音もなしにこちらに来るとは…お前、死んだのか?


照:いいぇ、まだ、辛うじて死んでません…死にそうですけどね


久遠:ならさっさと孫のところに帰れ。どうせすぐこちらに戻ってくる羽目になるがな


照:お別れも言わずに旅立つ薄情なばばぁになるのは御免です…ちょっと行って来ますよ…


久遠:ふん。


0:間


照:……こ、と。


琴:…ばーちゃん、


照:びっくりさせて、わるかったねぇ、


琴:私の寿命が縮んだよ…まだ、逝かないでよ……


照:残念だけど……お迎えを呼んでもらわないといけないんだよ……


琴:……っ!


照:最初の仕事が、ばばぁを送る事だなんて、辛い事をさせて、本当にすまない…でも、これが、私らの業なんだ……


琴:……(溢れる涙を必死に堪える)


照:…鈴は、持ってきているかい…?


琴:うん、


照:目の前で人が死んだ時…その時だけ、鈴は3秒間鳴らす……それが、お前の最初の仕事……


照:その音が止むまでは、ここに居るよ…


琴:……鳴らしたら、本当にお別れなの…?


照:…そんな顔をしなさんな……年寄りがあの世へ行くだけだよ…


琴:……ただの年寄りじゃない…


照:お前は、優しい子だ……だから鈴は墓場まで持っていきたかった…なに、久遠様の機嫌を取って、お前が生きているうちに解放出来るように計らってみるよ


琴:…。


照:琴、ありがとうね……


照:…さぁ、お迎えを呼んどくれ……


0:ポケットから鈴を取り出す。


0:震える手で、鈴を鳴らす……


琴:…出来ないよ…


琴:大好きなばーちゃんをとさよならするための鈴なんて、鳴らせないよ…


照:……琴


琴:もっと色んなことしてあげたかった…もっと料理を教えてもらいたかった…もっと色んなところに行きたかった…!もっと、もっと…っ、


照:…琴、ばーちゃんも、同じだよ…お前にしてやりたいことが沢山ある…沢山、あったんだよ…


琴:ばーちゃん……お別れ、したくない…嫌だよ……!


照:こらこら、年寄りを困らせるんじゃないよ…やっと覚悟を決めたのに…馬鹿な子だねぇ……


琴:(泣き出す)


照:琴、ばーちゃんは、いつもお前の近くにいる…大丈夫…お迎えは来てしまうけど、そう簡単にあの世には行かないよ


照:大丈夫


0:優しく琴の頭を撫でる照


0:震える手を取り、そして…


照:いいかい?ばばぁは自分であっちへ行くんだ……琴は、何もしていない…手が触れただけ…それでいい…ね?


琴:…


琴:……会いに行く…死んだなんて嘘だったって思えるくらい…今まで通りばーちゃん家に行くみたいに…会いに行く…


照:はっは、久遠様がなんて言うかねぇ!


琴:…


照:……


0:何も言わずに鈴を鳴らす照

0:ほぼ同時に2人は言葉を発する


琴:ばーちゃん、大好き


照:琴、大好きだよ


0:間


久遠:やっと来たか…


照:琴が大泣きしましてな…


久遠:お前の願い、聞き入れよう


照:感謝します、久遠様……


久遠:ふっ、あの孫の間抜け面が楽しみだ


照:おやおや、そんな言い方は酷いですよ?


久遠:言わせる様な願いを言ったのはお前だ


照:さて、どんな顔をするでしょうねぇ…


0:間


琴:M/ばーちゃんの死後、ご丁寧に遺言書が遺されていた為、私はそれに従って諸々の手続きをした


琴:M/何かと慌ただしく過ぎ去る毎日……それでも、鈴を鳴らす事を忘れず、言い付け通りに、時間通りに黄泉送りを行えていた


琴:M/やりたいことが沢山あった…けど、1番言いたいことが言えたのが大きかったのだろう…


琴:M/いずれ私もばーちゃんと同じように、この役目を誰かに渡す日が来るかもしれない…それまでは、ばーちゃんとの約束を守り続けよう…


0:間


琴:…早いもんだ…あれから70年…結婚も出産もした…孫もできた…約束を守り続けて*幾星霜いくせいそう…ただの一度も絶やしたことの無い鈴の音…遺書も書いた……この鈴は、私が持っていく……

琴:…悲しいことばかりではなかった……そう思えるようになったよ、ばーちゃん……でも、これは、私が終わらせる…。

琴:安心してくださいな…最後は、私のために、この鈴を鳴らします……。


0:黄泉送りの鈴が鳴る。


琴:たくさんの人を見送り、たくさんの魂を迎える鈴の音…これを聞くのも、もう終わり。

琴:ばーちゃん…、私、頑張ったよ…頑張りましたよ…


0:黄泉。


久遠:久しいな琴。


琴:(若返る)おぉ、さすが神様…じゃなかった、お久しぶりです、久遠様。


久遠:やってくれたな?


琴:なんの事でしょう?


久遠:お前、まんまと家族を*あざむいて、鈴の事を隠し通すとは……さすが照の孫か。


琴:強制終了出来るならします。それに、久遠様も同じものを持っているならここからでも出来るってことですよね?


久遠:……はっはっは!あの時の事を覚えておったのかっ


琴:しかも鈴1回で済むとか……意地悪がすぎるじゃないですか?なんなら時間関係ないですよね!?一応言われた通りにやってましたけど!


久遠:(笑いながら)あぁ、関係ない。そもそもの時間が違うのだ、いつ鳴らそうが関係ないよ


琴:久遠様、実はいたずら好きなんですか?


久遠:バカを言うでない!人間を……儂を祓った阿呆共に仕返しするにはこれが一番手っ取り早い方法だったのじゃ!


琴:うわぁ、なんか子供みたい。


照:これ琴…あまり久遠様をいじめるでない。


琴:え、誰?


照:お前は自分が送ったババァの顔を忘れたのか?


琴:…いや、だって……ばーちゃんは、私が鈴で送って…ここには居ないはずで…それに…


照:魂に外見は関係ない。実際、お前もあの頃の…鈴を継いだ時のままの姿だ。


琴:……ほんとに、ばーちゃん…?


照:そうだよ。70年ぶりだねぇ琴。


琴:…ば、ばーちゃん…!!!(泣き出す)


照:おっとっと…急に抱きつくんじゃないよ…ビックリするだろう


琴:ばーちゃん…会いたかった…私頑張った…頑張ったよ…!


照:あぁ、ずっと見ていたよ。ありがとう。終わらせてくれて。頑張ったねぇ琴…


琴:(すすり泣き)ぅ…うぅ…


照:全く。いつまで経っても泣き虫な孫だ…


琴:……こんなに美人なんて聞いてない!!


照:……は?


久遠:(吹き出す)


琴:嘘でしょ!?ほんとにばーちゃんなの!?めっちゃ美人!え!?肌ツヤツヤ…髪キレイ!!うわぁぁぁぁ爪もキレイ…


照:こ、琴?


琴:なんで私ばーちゃんに似なかったんだ!?羨ましい!


久遠:(震えながら)……てらす…残念だったな…感動の再会……ぷぷっ


照:笑い事ではありません久遠様!

照:70年川を渡らず待ち続けたばばぁですよ!?もっとこう…あるでしょう!?感動の再会のあれこれが!


久遠:残念ながら…琴はお前の昔の姿にご執心だ…ぷぷぷっ


琴:ばーちゃん!


照:なんだいこの薄情者!


琴:…待っててくれて、ありがとう……


照:…琴


琴:えっと…久遠様!


久遠:なんじゃ?


琴:私、今度はこっちで黄泉送りやるね!


照:はぁ!?


久遠:ほぉ……


照:な、何言ってるんだい!散々鈴を鳴らし続けて、死んでもなお黄泉送りを続ける!?私がどんな気持ちで待っていたと…!


琴:いやぁ、勝手に終わらせちゃったからさ、責任というか…


照:ダメだ!なら私がやる。


久遠:冗談じゃない、お前はさっさと川を渡れ。


照:久遠様!?


琴:大丈夫だよ、好きな時に鈴を鳴らして久遠様こき使うだけだから!


久遠:…おい。


照:…ぷぷっ


久遠:……全く肝が座った娘だ。

久遠:良いだろう。ちょうど川を渡す*船頭せんどうも欲しかった。

久遠:実を言うとな、ひとりでこれやるの結構きつくてな。お前らバイトとして雇ってやるから、存分に働けよ?


琴:…なんか嬉しそう


照:久遠様、実はツンデレなんだよ。


琴:あぁ。神様の*威厳いげん的な?


照:そう。それ。


久遠:聞こえてるぞ!?


琴:あははっ


久遠:M/実に面白い娘だ…思えば、私を見ても恐怖する素振りはなかったな…だからこそこうして神相手に冗談が言えるのだろう…退屈せずに済みそうだ……しばらくはこのふたりに相手をしてもらおう。


琴:じゃ、鳴らしまーす!


0:リィィィィン。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

黄泉送りの鈴 夜染 空 @_Yazome_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ