新しい日
それからあっという間に時間は過ぎていった。
「そう言えばお姉さんはなんであそこにお店を開いたんですか?」
ミントグリーンの色をしたお姉さんの小さな軽自動車の助手席に乗り、私は運転席でハンドルを動かすお姉さんに目を配る。
「前の経営者がトンズラした訳アリ物件を買い取ってね。構え状は本屋なんてしているが、実態は私が読みたい本をストックしているだけの倉庫みたいなものなんだよ」
「ならどうしてお店に?」
「私が人と話す口実を作るためさ。今日だってほら、お嬢ちゃんにこうして巡り合えただろ?」
「なるほど」
妙に説得力のあるような理由で丸め込まれた私は車窓に移る青い海を静かに見つめる。そうこうしているうちに車の停車音が鳴り、私が港に戻ってきたことを知らせた。
「さあお帰り」
車の扉を開けお姉さんが私を外へと促す。
「また来てもいいですか?」
「勿論」
「じゃあ、絶対また来ます。送っていただきありがとうございました」
私はぺこりと深くお辞儀をし、船のチケット売り場へと向かおうとする。
「あ」
そこでふと、私は聞きたかったことを思い出し、すぐさままた背を向けた方へと体を向けた。
「お姉さん!」
「なんだい?お嬢ちゃん」
「あ、あの!お名前!聞いてもよろしいでしょうか?」
「ああ。そんな事かい」
お姉さんは耳に垂れた髪をかき上げ、私と目線を合わせる。
「幸だよ」
「さちさん、ですか」
「ああ」
「いいお名前、ですね」
「そうだろう」
「はい」
私はもう一度ぺこりと頭を下げ幸さんに背を向ける。なんだか明日は明るい日が来る、そんな気がした。
幸と燐 @asanoto1226
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