訴訟
岸亜里沙
訴訟
依頼人「私の父を殺した、
弁護士「お父様を殺されたのですか?その門脇という人は、今、刑務所の中ですか?」
依頼人「いえ、門脇はまだ私の家の隣で、普通に暮らしております」
弁護士「ではまず警察の逮捕が先ですね。警察には通報されましたか?」
依頼人「もちろん通報しましたが、証拠が無いとして、取り合ってくれませんでした」
弁護士「お父様はどのように殺されたのでしょう?」
依頼人「農作業中に、心臓発作で」
弁護士「心臓発作?先程、門脇という人に殺されたと仰いましたが?」
依頼人「そうです。門脇が父に呪いをかけ、それで父は急死したのです」
弁護士「えっと・・・、呪い・・・ですか?」
依頼人「ええ。ここ数週間、門脇が毎夜、自宅の木に藁人形を釘で打ち付けているのを、目撃し、動画にも記録を残しました。しかし父が亡くなってから、その行為を一切やらなくなったのです」
弁護士「な、なるほど・・・。その門脇という人の行為により、ストレスを受けたお父様が急に亡くなられたというわけですね。藁人形を釘で打ち付けていたと仰いましたが、それは何時頃の話ですか?」
依頼人「深夜1時頃です」
弁護士「その事を、警察に相談されたりしましたか?」
依頼人「いいえ。確かに不気味でしたが、その時は目的を分かりませんでしたし、警察に言ってご近所関係をギクシャクさせたくないと、父も言っていましたので」
弁護士「そうですか。釘を打ち付ける音は、かなり響いていましたか?」
依頼人「はい。特に私の自宅は、隣同士ですので、はっきり聞こえました」
弁護士「なるほど。では・・・、一度、隣人による安眠妨害を受けたとして、民事訴訟を起こされるのが良いかと思います」
依頼人「安眠妨害?いえ、私は門脇を殺人者として訴えたいのです」
弁護士「申し訳ありませんが、法律上、民事訴訟が妥当かと思います。門脇という人が呪いをかけている現場の記録があったとしても、それとお父様の死を結びつける事は困難です。呪いを、科学的に証明する事が出来ないので」
依頼人「あなたも父の死は、自然死だと仰りたいのですね?」
弁護士「いいえ、私は法律上の話をしているだけです。私自身の考えではありません」
依頼人「では私が門脇と同じように、あなたに呪いをかけたら、世間にも信じてもらえますかね?」
訴訟 岸亜里沙 @kishiarisa
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