第5話 思いがけない入浴者
「ただいま~」
放課後まであやがうるさくて帰るのに手間取ったが、他の話題を振ってくれたイケメン男子たちのおかげで俺は何とか自宅に帰ることが出来た。
「遅いっ!! どこまで行ってたの! バカ兄き」
口は悪いが、可愛い妹が家にいる時は癒し空間が生まれるので、学校で積み重なったストレスが上手い具合に発散されるのが良かったりする。
「ごめんごめん、今日も芝居の相手役を付き合ってやるから」
「あ、うん。そのことなんだけど今日はいいや」
「ん? やる気がなくなったか?」
「そうじゃなくて~、今日は凄い人がいるっていうか~……」
いったい何を言ってるんだ?
この家には俺と美由の二人しかいないというのに。それとも、誰か演技の上手い友達でも連れてきたか?
変なことを言う妹でもあるが、幼馴染のあいつのせいで汗をかいたしシャワーでも浴びて落ち着くことにしよう。
「美由の部屋で待たせてるのか?」
「そ、そんなところ~」
「そっか。じゃあ俺はトイレに行ってくる。友達によろしく言っといてくれ」
「いちいち言わなくていいってば! 友達……友達と呼ぶのは失礼になりそうだなぁ」
ぶつぶつと何を言ってるのやら。
美由の部屋はリビングから出て、廊下の突き当りにある。その手前にあるトイレと浴室は隣接しているので、用を足してすぐに汚れを落としにいける。
俺はその流れでシャワーを浴びることが多い。
「ふぅ~……さてと汗を流すか」
トイレで用を足した俺は、いつもどおり服を脱ぎ捨てながら浴室の扉を開けて体を洗おうとシャワーヘッドに手を伸ばし、そのまま頭にシャンプーをつけて洗い始めたのだが。
「――!? このあたしがいるのにレン……お前という男は女子の裸体に何の興味も示さないというのか!?」
どこかで聞いたことのある声が聞こえているが、多分ヴェスタの声が記憶に残ったままだろうな。
気のせいだろうとそのまま頭を洗ってお湯で流していると、自分の手が増えたと錯覚するくらい洗い流す速度が早くなった。
「あれっ? 俺の手が増えた?」
……などと独り言を呟いていると、洗い流している自分の手が髪に引っ掛かったのか、指が全く動かなくなった。
「レン……もしかして、気づいていてわざと見えていないフリをしているのか? それともあたしなど眼中にないのか!?」
「へっ? まさかと思いますが、その声はヴェスタの……?」
「そうだ、あたしだ!」
なぜ浴室にいるのかはこの際気にしないでおくとして、今すぐ目を開けてしまうと俺は間違いなくヴェスタの裸体を拝んでしまう。
そうなると悲鳴を上げられ、美由がすぐに駆けつけたあとに通報されてしまうのは避けられない。
「な、何で俺の家にいるんですかね?」
「レンの妹の厚意で入らせてもらっている! だが、まさかレンが入ってくるとは正直驚いたぞ!」
意外に怒ってないように聞こえる。
「一応聞くが、入浴をするつもりなのか?」
「俺はシャワーだけで入浴はしないけど……とりあえず、洗い流したら出るので入浴してもらってもいいすか?」
「あたしはこれから体を洗うんだ。レンも洗うのだろう?」
「それならなおさら出た方が……」
「どうしてだ? せっかく入ったのに頭だけで済ませるつもりか? それはあまりに勿体ないぞ」
ヴェスタの裸体に全く興味がないどころか、滅茶苦茶見たい。だが、それは危険すぎる。
このまま目を閉じたまま浴室から脱出することだけを優先させるのが俺の助かる道だ。
「今日は頭だけでいいなと思ってるから、俺が先に……」
「目を閉じたままでか?」
そう、まさにそれが問題だ。
だが目を全開で見開いてしまえば、確実にヴェスタの全てを見てしまう。それだけは避けなければならない。
「こ、このまま出るから、だからヴェスタは体を冷やさないように湯船に浸かってくれ」
「むぅ、そうか。ではそうするか」
よかった、これで事故は起きない。
あとは入浴したのを確かなものにしたら出ていくだけだ。
「
げぇっ!?
お前が来るのか?
「えっ……お兄……ちゃん? はぁぁぁぁぁ!?」
あああ、終わった。
リゾート育ちの美少女さんになぜか恋愛勝負を挑まれている件 遥風 かずら @hkz7
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