第4話 負けられない相手?
う~ん……それにしても。
「食べないのか? レン」
「今日は適当に済ませるつもりで来たから、俺のことは気にしなくていいよ」
帰りにコンビニに寄る時間を考えれば、店に入って数十分で出る予定だった。それがまさか俺についてきたうえ一緒に食べるなんて思うはずもなく。
しかも入店前に甘えた声を出していた彼女とは思えないくらいの豪快な食べっぷりを目の前で見せられては、俺の食欲なんてすぐに失われてしまうわけで。
というわけで、俺だけドリンクバーである。
それはそうと、こんな突発的イベントなんてそうそうに起こらないと思われるので、彼女には今回の狙いを訊いてみることにする。
「え~と、ヴェスタって呼んでいいんだったか?」
「うむ! レンには特別に呼んでもらう」
「その……ヴェスタは何で俺を? 昨日出会ったばかりなのにこんな親しげになるのがちょっと分からなくて……」
俺の幼馴染というと、煽りっぷりだけは一人前の美由がいるし、ガキの頃から仲がいい陸、それと妹の――妹は身内だから除外しとくとして。
少なくとも俺の知る限りではここまで接近してきた女の子は記憶にない。
それなのに。
「偶然は必然……じゃなくて、あたしとレンが出会うのは必要だった。ただそれだけ。だからだぞ」
名言っぽいことを言ったようだが答えになってないんだよな。
「つまり、俺と出会って俺のことが好きになった……ってやつ?」
こういうのをいきなり聞く俺もどうかしてるが、帰国子女だからというのは理由にはならないしはっきりさせておかねば。
「あたしがレンを好き? ……むむぅ、そういう考え方になるとは勉強になるな。それともこれが正解だとすれば……」
「へ?」
変なことを訊いたはずなのに、それに対してヴェスタは感心するように頷いている。
「いやっ、違うだろうし軽い冗談だからそこまで気にしなくても――」
「レンは彼女がいるのだな?」
「えっ……い、いや、そういうのは特には」
「なぜだ? あたしに好きになられたら困るような言い方だったぞ?」
あれ、そんな勘ぐられるような言い方じゃなかったよな?
……というか、やはり『あたし』がヴェスタの素っぽい。
「困るってことはないけど、俺をいいパートナーとか紹介してたからそうなのかと」
「ああ、あれか。あれはもちろん、ライバルとしていい相手という意味だぞ! 昨日出会った時から、レンには負けられないと感じたのだからな!」
ライバル?
負けられない相手?
「え、何の勝負?」
「それはもちろん――」
――って、やばい。結構時間経ってるじゃないか。
「悪い、時間がない!! 学校戻らないと!」
話の途中で気にはなったが、ヴェスタはともかく俺は昼休み中だ。すでに自由の身になっているヴェスタと一緒にいる時間なんてあるわけなかった。
「お金は支払っとくから、俺は戻る! じゃあ!」
「……あっ!」
奢るつもりもなかったが、一人だけ店に置いていく状態になるし俺が払っておくのが正解だ。
――で、コンビニに寄る時間もなかったわけで。
「この裏切り者~!! このあやさまを飢え死にさせるなんてあんまりだぁ~」
……などと、餌を待つ子犬のように教室の出入り口で待っていたこいつに握りこぶしで腹の辺りを攻撃されている。
だが、あやの席近くの女子たちが首を左右に振りながら俺に苦笑しているところを見れば、飢え死になるという言葉はただの文句で間違いなさそう。
あやの口元を見るとケチャップらしき赤の色がついているので、その感想を聞いておくことにする。
「あ~、ところでオムライスはソース派だったか?」
「ケチャップ一択!! 舌でぺろりと頂けちゃうのはケチャップだけだ~!」
「じゃあ、ケチャップをたっぷりかけたんだな?」
「もちろ……はわっ!?」
ようやく気付いたようで、証拠を消すために舌で口のまわりを舐めまわしている。
「……ったく」
こいつが飢え死にすることはもちろんあり得ない話だが、単純に俺が買ってこなかったことが気に入らなかっただけの話だ。
そして、教室内の大体の奴は俺とこいつがそういう仲なのだと思っているようだが、これはあくまでただのじゃれあいに過ぎない。
あやとの関係は単なる幼馴染だからいいとしても、ヴェスタ……彼女との関係は一体どういう関係として見られていくのだろうか。
「あれ~? そういえばあの子は?」
「どの子だ?」
「蓮ちゃんの彼女……じゃなくて、パートナー? ハスキーボイスの~……くっ、いきなりライバルだなんてヒドイ」
わざと言い間違えてるつもりだろうが、自分で悲しくなったのか目に見えて落ち込んでいる。
「帰った」
「ええ~? 初日からサボりちゃんとは、やるねぇ」
サボりじゃないと思うが、とりあえず俺は彼女のライバルなんだろうか?
それとも恋愛的な何かでライバル?
「お前は俺のライバルか?」
「ううん、あやは蓮ちゃんの幼馴染にして可愛い可愛い幼な妻で正統な婚約者?」
「幼馴染か。なるほど」
負けられない相手なのだから何かを賭けて勝負されてるっぽいな。
「こら~! 愛する婚約者の話を聞け~!」
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