17 あ、そうなんだ……?

ガラガラと揺られ揺られて街の中へと入った揺りかごは、街で帰還のバレードをしている街人たちに迎え入れられたわけだが……恐ろしい程の沈黙に晒される。


「え……え、なに??」


「一人……??……あれ?乗ってるの男じゃない??」


ヒソヒソ……ボソボソと呟く街の人達の中を堂々と通ったアレンは、とうとう町外れの俺の家へとたどり着いた。


「さぁ、結婚の報告をしないと。 

これで俺達、正式な夫婦になるんだね。……あ〜……幸せ。」


ニヤァ〜!


アレンはどす黒い笑みを浮かべて笑い、そのまま玄関に刺さっている角を邪魔だと言わんばかりに抜いて投げ捨てる。

そしてそのままドアをドンドン!と叩くと、「は〜い!」という母さんの声とパタパタと走る2つの足音が聞こえた。


「チリル〜!おかえりなさ〜い!だからあんたには無理だって言ったじゃない!も〜……!

それなのに心配掛けて、あんたって子は!母さんとリアがどんだけ心配したと──────……。」


母さんが文句を言いながらドアを開けると、そこにはウルウル目を潤ませている母さんとリアがいる。

しかし、その目は揺りかごに乗っている俺を見ると……乾いて白目へと変わった。


「か……かあしゃぁぁぁぁん……リアぁぁぁぁぁ〜……!」


「「…………。」」


二人は黙って固まったまま、何も答えてくれない。


こんな酷い嫌がらせをしたアレンを止めてくれるのは、もう母さんとリアしか……!


泣きながら目で訴えたが、直ぐに母とリアは俺の後ろにズラズラ〜と山の様に積まれている希少素材の数々を見て、明らかにパァ!と明るい表情に変わった。


「あらあら〜!アレン君、もしかしてウチにまたお裾分けしに来てくれたのかしら〜!凄いわ!全部高級素材じゃない!」


「素敵〜!アレンさん。来年是非是非、私をお嫁の一人に〜♡ 」


明らかに媚び出した二人の目はアレンしか見てない。

捨てられた事を察した俺は、上機嫌のまま荷台を切り離していくアレンに向かってビシッ!と指を差した。


「いつもいつもいつも!!何で俺にだけそんな意地悪するんだよ!!

何で何で何でぇぇぇぇぇ────!!!」


「????意地悪???」


本気で分からないという顔をするアレン。

俺はそれにカァァァ!!となって、勢いよく立ち上がりアレンを睨みつける。


「意地悪以外なんなんだよ!!いつも俺の前に現れては酷い事ばっかり!何でいつも俺んところに来んの!」


「────えっ?好きだからだけど……???」


サラッととんでもない事を言い出したため、上がっていたボルテージは凄まじい勢いで下がっていった。

動きを止めた途端タジタジし始めた俺に、アレンは追加攻撃をしてくる。


「な、な、な、何言ってんだよ……。だっていつも見せつける様に、凄いモノを色々自慢して来て……。」


「??俺はチリルが欲しいかもと思ったから、取ってきただけだよ。

チリルはあんまり欲しいモノ言ってくれないから、とりあえず周りが欲しいっていうモノを取ってきて全部あげてみたんだけど……。

でも、チリルがいらないっていうから全部ゴミになっちゃったね。」


「だ、だってだって!他の皆に俺に近寄るなって言ってたんじゃ……。」


「だって嫌だったから。俺以外の男と一緒にいるの。」


パチンパチンと頬を連続して叩かれるような言葉の数々に、体から力が一気に抜けてしまった。

その場にヘナヘナ〜と座り込むと、揺かごの中に敷いてある最高級のクジャクックの羽毛クッションが優しくお尻を包み込んでくれる。


このクッションのお陰で、ここまでの道中、ダメージが半端ないお尻も全然痛くなかった。


も、もしかしてアレンって優しかったり〜……?


フラフラ〜と嬉しい気持ちの方へ気持ちが傾きそうになったが、直ぐにハッ!!として、首を横に振る。


「だっ、大体俺の事好きとか言うけど、どこに好きになる要素があるんだよ。

だって俺、弱いし、不器用だし、カッコよくないし……お嫁さんの一人も養うことができない情けない奴なのにさ……。」


自分で言っててズンズン!と心は沈んでいき、クジャクックのクッションに体も沈んでいく。


俺は何にもできないし、男の魅力は皆無。

だからといって、女性が持つ美しさや気配り上手さとか、女性的な魅力だって一個もない。


それは、すぐそこでウンウン!と大きく頷いている母さんとリアを見れば一目瞭然だ。


更に顔を下に下げて、ズーン……と凹んでいると、突然の浮遊感を感じて顔を上げた。


目の前にはアレンの羨ましくて堪らないカッコいい顔。

俺はアレンに抱っこされる様に持ち上げられて、目線を真っ直ぐに合わせられる。


「何でも一生懸命頑張るチリルは、世界で一番カッコいいでしょ?

出来なくても辛くても、チリルはいつも諦めない。それって凄いことだと思うよ。

俺はそんなチリルを見るのが大好き。だからチリルが大好き。

ねぇ、俺と一緒にこれから生きて行こうよ。」


キッパリと言い切るアレンを見て、俺の目からはさっきとは正反対の涙がボロボロと流れていった。


俺の努力を見てくれていた人がいた!

認めてくれた!


それが嬉しくて嬉しくて涙が止まらない。


「そ、そうだよぉぉぉ〜。俺、俺、いつも頑張ってんだよぉぉ〜。

畑だって頑張って作って美味しい野菜作れる様になったし……。」


「うん、そのせいで血豆潰れて毎日泣いてたね。

でもやりたいって言ってたから、ちゃんと新居に大きな畑作っといたよ。

あとキノコの栽培用の小屋もあるから。」


「む、麦豆虫の粉で作ったお焼きだって普通のより美味しく作れる様になったんだ。取り方を工夫して〜……。」


「チリルのお焼き、甘くて美味しいよね。これから俺も毎日食べれる。」


グスグスと泣きながら言う言葉の全てに、俺の努力を認める言葉が返ってくる。

それが嬉しい!


「あらあら〜。良かったわねぇ〜チリル。夢が叶ったじゃな〜い。」


母さんが貢物の中にあるドラゴン肉にかぶりつき、ジーン……と感動した顔をしながら言う。


「夢……?」


キョトンとした俺に、貢物の中にある宝石をウットリ眺めているリアがそれに答えた。


「寂しいのは嫌だって言ってたじゃない。

お嫁さんになっちゃったけど、その夢は叶ったから良かったわね〜。

私も夢叶っちゃった♡こんな巨大なダイヤを、一度は身につけてみたいって思ってたから。」


キャーキャーと嬉しそうにはしゃぐ母とリアに思わず遠い目をしてしまったが、そのままアレンに抱きしめられて、視界は遮られる。


「……まぁ、嫌だって言われても逃さないけど。」


ムッツリと不機嫌そうに抱きしめてくる腕の中は、暖かくって幸せで…………一緒に生きるのも悪くないなって思ってしまった。



それから────まぁ、結局全てが台無しになってしまった今年の嫁取りは、異例のやり直しが決行されて、アレンと俺抜きの嫁取りがスタートしたようだ。


お嫁さん候補達は上位陣を抜かし、さっさとアレンに見切りをつけて、それぞれが納得する男性参加者のお嫁さんになった様で、後日男性参加者達から俺に沢山のお礼の品物が届いた。

曰く────……『最強のライパルを引き取ってくださってありがとうございます!』のお礼だそう。


「…………。」


そのお礼全てを、よく分からない嫉妬で燃やそうとしているアレンを止めて、遠慮なく貰う事にした。



その後のアレンと俺は言うと────……まぁ、個人としては変わったところはないが、関係性と環境はガラッと変わった気がする。


俺は必死に野菜やキノコを作ったり、麦豆虫のお焼きを作ったり、クジャクックに餌をあげたり洗ったりと、そんな日々。

アレンはマイペースにモンスターを討伐しては肉やお金、途中で見かけた素材を拾ってくるので、ご飯は格段に豪華になった。


とりあえず寂しいと感じる事はなくなったので、俺の夢は叶った様だ。


ちなみにあの夜嫌で嫌で堪らなかった卵おろしは、今では毎日の様に行われている。

初めての時は死ぬほど抵抗したし、痛かったし、よく分からない状態のせいでいいイメージがなかったが、今ではまぁ……悪くないモノになったから本当に不思議だ。


要は気持ち次第って感じなのかな?


スリスリ、チュッチュッとされる事に安らぎすら感じ、大きく首を傾げてしまった。


ただ、フッ思うのは最初の時、アレンはあんなに俺が泣き叫んでいるのに嫌な気持ちにならなかったのか?と言うこと。

ちょっと気になったので、ある日の朝、俺がそれを質問すると……なんと、とんでもない答えが返ってきた。


「?すごく喜んでたよね??チリルが嫌がっている時なんて今まであった??」


……もう、絶句!

しかも、俺が毎日虐められて、怒ったり泣いたりしていたのも、全て喜んでいると思われていたらしい。


そんなわけあるかー!!……と怒鳴ってやりたかったが、あえて寝た子を起こすのもめんどくさい。


────ま、いっか!


結局俺は、美味しいお肉に免じて許すことにした。


お嫁を取りに行ったらお嫁に取られちゃったけど、これでいいと思うぐらいは……今の俺は幸せだ。

ただ────ある朝畑に行ったら、やたらカラフルな卵が三十個くらいあったのには、流石に腰を抜かしたけど……。


男同士でも貰えるんだ、卵。

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お嫁取りに行ったのにキラキラ幼馴染にお嫁に取られちゃった俺のお話 バナナ男さん @bananaotoko

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