天才博士とおとぼけ助手の実験記録 ~変身洗濯機~
よし ひろし
変身洗濯機
「おはようございますぅ、博士ぇ。――あれぇ~、何です、その洗濯機?」
「おう、星奈くん。これはな、新たに開発した画期的
そう答えた白衣姿の男はこの研究室の主、
「ただのぉ、ドラム式洗濯機ではぁ、ないんですか~ぁ?」
いつもの間延びした感じで言う星奈の言葉通り、そこに置かれていたものは、どこにでもありふれた洗濯機に見えた。白い四角い箱型で、正面に丸い大きな扉が付いているドラム式のあれである。
「ふふ、一見するとそう見えるが、中身は全く違うのだ。こいつは“変身洗濯機”。かつてないほどの大発明だ!」
拳を握り上げ声高々と宣言する芥川。こわもての顔に得意そうな笑みを浮かべていた。
「変身洗濯機――? それってぇ…、スーパーマンの電話ボックスみたいなものですかぁ?」
「そうそう、この中に入ってスイッチを入れるとスーパーヒーローに変身――違う!」
「ええぇ、それじゃあ、もしかしてぇ、この洗濯機そのものが変身するとかぁ?」
「おお、ガシャンガシャンとトランスフォームして、悪と戦うロボットに――ならん!」
「ええーっ、それじゃ、何が変身するんですぅ?」
「それはだな――」
お約束のようなボケとツッコミの会話を終えて、芥川が真面目に説明をする。
「この洗濯機、中に入れたものを分子レベルまで分解、汚れ成分など余計なものを取り除いた後、再構成し、まるで新品同様に変身させるのだ」
「ほへぇ~、凄いですねぇ…」
「論より証拠。少々微調整をしてこれからテストをするところだったのだ。見ていたまえ」
そう言うと芥川は作業机の上からかなり汚れたハンカチを取り上げた。元は白かったのだろうが、今は黄ばみ、油汚れのような物もこびりついている。
「こいつは作業時の手拭きとして使っていたハンカチだ。かなり年季が入っているが――」
芥川がそのハンカチを洗濯機の中に放り入れ、スイッチを押した。
微かな振動と甲高い機械音をあげて洗濯機が動き出す。中に水は入っていないようだが、透明の丸い窓からハンカチがぐるぐる回っているのが見えた。ところが十秒ほどするとその形が崩れだし、白い霧のような渦が中を覆う。その渦が回転を増し、そして徐々に緩やかになっていくと窓の向こうにハンカチの姿が戻ってきた。一分ほどで終了を知らせる電子音が鳴る。
「よし、終わりだ」
洗濯機の扉をあけ、ハンカチを取り出す芥川。その手に握られたハンカチは、先程説明したように新品同様真っ白になっていた。それを芥川は星奈へと手渡す。
「どうだね、星奈くん。凄いだろう」
「ほへぇ~、本当にぃ、新品みたいになってますねぇ」
「ふふ、そうだろう。でもこれだけじゃないのだよ。この
「リフォーム? リメイクではなくてぇ?」
「ああ、作り直すというより、全く新しい形に変身すると言った感じだ」
「ふぁ~、それは本当に凄いですねぇ~」
「ふふふっ、更に複数の物を入れて合体させることもできるのだ!」
「合体! ゲッターとか、コンバトラーとかみたいな感じですかぁ?」
「よく知ってるな星奈くん。きみいくつだ。――まあいい、当たらずとも遠からずというところだ。その現物が実はここにある!」
芥川が自らの白衣の襟を持ち、胸を張ってどうだとばかりに見せびらかせた。
「この白衣、いつもと変わらぬように見えるが、実は下着からズボン、シャツまで全てを合体させて一体化した物なのだよ。どうだ、凄いだろう。ふふん!」
「それは――、どうやって着るんですかぁ?」
「ツナギのように足から――まあ多少脱着に難があるが、これはあくまでも一例だ。この変身洗濯機、凄いだろう!」
「はい、確かに……。あ、あれ、博士、何か変ですよぉ。白衣の袖がボロボロと――」
「何――?」
指摘され芥川が見ると、着ている白衣の袖が砂の様に崩れていくところだった。
「な、なんだとぉ!」
崩壊は見る見るうちに広がり、芥川の着る服全体が、ボロボロと崩れ落ちた。
「これは――、分子の結合が定着しなかったのか?」
頭を抱え呟く芥川。
「あのぉ…、博士、そのぉ…、丸見えですよ、下……、ふふっ」
星奈が顔を背けながらも、しっかり視線を下に向けて指摘する。
「えっ、――ぬあああぁっ!」
慌てて股間を押さえる芥川。その顔は真っ赤に染まっていた……
変身洗濯機の開発は今も続いているが、問題は解決していない。
おしまい
天才博士とおとぼけ助手の実験記録 ~変身洗濯機~ よし ひろし @dai_dai_kichi
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