人間洗濯機
敷知遠江守
新発売
一九七〇年。
商人の町大阪で万国博覧会が開催された。
岡本太郎氏デザインによる太陽の塔、テーマソングの「世界の国からこんにちは」、そしてアポロ十一号が持ち帰った月の石。そして多くの人が無駄に乗ったという動く歩道。
その大阪万博のサンヨー館にとあるものが展示されていた。
三洋電機の「ウルトラソニックバス」。通称「人間洗濯機」である。
形状は波止場で船の綱を縛り付ける係船柱を超巨大にした感じ。
上のカプセルのようなところに首から上を出して、カプセル内部の椅子に腰かける。するとカプセル内部に張られたお湯が、洗濯機の中のように撹拌されて自動で体を洗ってくれるという代物である。ただ洗うだけじゃない。ちゃんと熱風が出て乾燥までしてくれるのだ。
当時の洗濯機の主流は二槽式で、向かって左の槽で水洗いし、それが終わってから人力で右の槽に洗濯物を移動させて脱水をしていた。もちろん、脱水が終わったら人力で物干し竿に干す。
そんな時代に、体を全自動で洗ってくれるという人間用の洗濯機を作って展示したのだ。
近未来的、きっと近い将来うちのお風呂はこうなるんだろう、当時「ウルトラソニックバス」が稼働しているところを見た人たちは期待に胸を膨らませた。
そんなお祭り騒ぎから五五年後、もう一度大阪で万国博覧会が開かれる事になる。
だが、残念ながらその時点でもまだ日本人はバスタブの横で自分の手を使って体を洗っていた。
「ウルトラソニックバス」を展示していた三洋電気も消滅。
そんな状況でかつて「ウルトラソニックバス」を企画した人物が再度二〇二五年版の「ウルトラソニックバス」を万博に展示した。
今回は前回のように顔を外に出すのではなく、カプセル内にすっぽりと入り込んで、美しい風景などを見ながら全身を洗ってもらえるという代物。
「ウルトラソニックバス」の夢は、密かに日本人の夢となってしまっていたのかもしれない。
そこから十年以上の月日を重ね、ついに「ウルトラソニックバス」は一般に発売される事になった。
自動で衣類を洗濯してくれる時代を経て、自動で車を洗ってくれる時代を経て、自動で食器を洗ってくれる時代を経て、かつて大阪万博で未来のトイレとして紹介されていた自動でお尻を洗ってくれるトイレを経て、ついに自動で体を洗ってくれる時代がやってきたのだ。
ただ、もしかしたら一九七〇年の大阪万博や、二〇二五年の大阪万博で「ウルトラソニックバス」を目にした人々が想像しているものは少し赴きが異なっているかもしれない。
販売したのは家電メーカーでは無い。そもそも日本の家電メーカーは衰退が著しく、そんなものを作る余裕はない。
製造販売したのはなんと寝具メーカーであった。
『新時代のウォーターベッド』
それがコンセプトであった。
キャッチフレーズは『夢の住人から企業戦士へ! 寝ている間に変身できる未来の洗濯機』。
形状はいわゆるカプセル型。SFアニメなんかで出てくる『タンクベッド』というのがイメージしやすいだろうか。
ありふれたデザイン過ぎてダサいという批判もあるが、ありふれているから王道とも言えるだろう。
実は、最初は設置の事を考えて直方体でデザインしたらしい。さらに昨今ブームである和室にも映える木目調でデザインしたのだそうだ。
木目調で直方体のガワで、顔の部分だけが内部が見えるようになっているという形状が、どこからどうみても棺桶にしか見えなかったようで、駄目出しをされてしまったらしい。
寝る時には水着を着用して中に入る。
カプセル内部は一見するとごく普通のウォーターベッド。横になるとまず体形に合わせて枕の高さを調節してくれる。さらにその枕からほんのりとその日の体調に合わせてアロマが焚かれ、ヒーリングミュージックが小さな音だが流れてまずは気分をほぐしてくれる。
気持ちがほぐれたら今度は肉体、ベッドの中の気泡が全身をマッサージしてくれる。
早い人で五分、遅い人でも三十分もあれば寝てしまう。
寝ている間カプセルは蓋を閉じ、温度、湿度、酸素量を管理して快適な眠りを提供し続けてくれる。
朝、利用者が寝ている間に、ベッド内にお湯が張られる。お湯には洗剤が含まれ、気泡によって泡が立ち、寝ている人を『洗濯』してくれる。さらには髪まで洗ってくれる。『洗い』の後は『すすぎ』。温水によって血行を促進してくれる。
『すすぎ』の水が排水されると温風が吹きつけられる。その時の感覚はまるで真綿に包まれているかのような錯覚を起こすだろう。
丁度この辺りで枕からは小鳥のさえずりが聞こえて来る。睡眠のサイクルに合わせて洗濯機能を動かしてくれるので、寝ている人は実に快適に目覚める事ができるのである。
後は朝食を食べ、歯を磨き、スーツを着て出かけるだけ。
ただし、人間洗濯機はまだ発売されたばかり。
お値段の方は……
人間洗濯機 敷知遠江守 @Fuchi_Ensyu
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