Caelum Plumbeum
椿谷零
Caelum Plumbeum
鉛色の空は、重く、冷たく、まるで私の心を映し出しているようだった。灰色の雲が渦巻き、今にも泣き出しそうな空を見上げても、私の心は何も感じなかった。ただ、空の色のようなどす黒い感情が、胸の奥底に沈んでいるのを感じた。
私は、葦原 碧(あしはら あおい)。高校2年生。私は所謂陰キャというものだった。口数も少なく友人も少ない。私は最近、両親を殺した。今更、何を言っても言い訳にしかならない。あの家での日々は、私にとって地獄だった。
父の拳は、いつも雨雲のように重く、私の頬に叩きつけられた。母の言葉は、鋭利なナイフのように私の心を切り裂き、血を流させた。痛みは、熱い鉄板を押し当てられたように、私の皮膚を焦がした。屈辱は、泥水のように私の魂に染み込み、決して洗い流せなかった。愛されない悲しみは、深淵の闇のように私の心を覆い、光を奪い去った。
それらが、私の心を蝕んでいった。私は耐え切れる自信がなかった。
ある日、私の心は、ぷつんと音を立てて、何かが切れた。父の拳が、また私の顔に近づいてくる。恐怖と怒りが、私の体中を駆け巡る。もう、耐えられない。私は、手にしていた包丁を、まるで操り人形のように振り上げた。父の悲鳴が、耳をつんざく。うるさいなぁ。やっと動かなくなった。次は、母だ。母の顔は、憎悪に歪んでいる。私を、化け物を見るような目で睨んでいる。私は、包丁を振り下ろした。何度も、何度も。気づいた時には、二人は血だらけで倒れていた。壁にまで返り血が飛び散り、私の手は赤く染まっていた。
その後私は、警察に連行された。
取り調べでは、ただ、自分の犯した罪を認めた。
法廷は、息が詰まるような静寂に包まれていた。傍聴席には、親族や、事件に関心を持つ人々が座っている。私は、被告人席に座り、緊張で体が震えていた。
裁判官、検察官、弁護士、そして私。それぞれの役割を果たすために、この場所に集まった。
検察官は、私の生い立ちと犯行の詳細を述べた。両親からの虐待、そして、私が衝動的に殺害に至った経緯。検察官の言葉は、淡々と、しかし、確実に私の心を抉っていった。
弁護士は、私の生い立ちを考慮し、情状酌量を求めた。両親からの虐待が、私に深い傷を負わせたこと。そして、私が精神的に追い詰められていたことを訴えた。
裁判官は、私の目を見つめ、静かに言った。
「被告人、葦原 碧。あなたは、両親を殺害した罪で起訴されました。 この罪は、非常に重く、決して許されるものではありません。しかし、あなたの生い立ち、そして、犯行に至るまでの経緯を考慮すると、情状酌量の余地があると認められます。」
裁判官は、少し間を置いて、続けた。
「よって、被告人、葦原 碧を、懲役15年に処する。」
私は、判決を聞いても、何も感じなかった。 ただ、15年という歳月が、私の人生から失われることを理解した。
傍聴席のざわめきが、耳に届く。親族の啜り泣く声が、聞こえる。私は、目を閉じた。瞼の裏には、両親の顔が浮かんでくる。父の怒りに歪んだ顔、母の憎悪に満ちた顔。私は、震える手で、自分の腕を抱きしめた。
裁判官の言葉が、再び聞こえる。
「被告人、顔を上げてください。」
私は、ゆっくりと顔を上げた。
裁判官は、私を真っ直ぐに見つめていた。
「あなたは、両親を殺害しました。 この事実は、決して消えることはありません。 しかし、あなたの人生は、まだ終わっていません。 あなたは、これから、自分の罪と向き合い、償っていかなければなりません。15年後、あなたが社会に戻った時、あなたは、新しい人生を歩むことができるはずです。 そのためには、今回の判決を真摯に受け止め、二度と過ちを繰り返さないことを誓ってください。」
裁判官の言葉が、私の胸に突き刺さる。
私は、小さく頷いた。
「はい。」
裁判官は、満足したように頷いた。
「以上で、本件の判決を言い渡します。」
裁判官が、判決文を読み上げる。私は、それをただ、静かに聞いていた。
判決後、私は、弁護士に付き添われて、法廷を出た。外は、鈍色の空が広がっていた。私の心は、鉛のように重かった。刑務所での生活は、辛かった。
鉄格子に囲まれた狭い部屋。孤独が、私を押し潰す。他の受刑者からのいじめ、そして、自分自身への嫌悪感。なぜ、私は、あんなことをしてしまったのだろうか。後悔と絶望が、私の心を蝕む。
なぜ、私は、あんなことをしてしまったのだろうか。
両親を殺したことへの後悔、そして、自分自身への絶望。
それらが、私の心を締め付けた。
私の手からずっと血の匂いがすると思い、暇さえあればずっと手を洗うようになった。
15年後の夏、溶けてしまいそうなほど暑い日に私は、刑務所を出た。
しかし、社会は、私を簡単には受け入れてくれなかった。
犯罪者の烙印を押された私は、どこにも居場所を見つけられなかった。
仕事を探しても、面接で過去のことを知られると、すぐに断られた。
数少なかった友人たちも、私を避けるようになった。
私は、孤独だった。
誰にも頼ることができず、ただ、一人で生きていくしかなかった。
それでも、私は、生きなければならない。
両親を殺した罪を背負って、それでも、私は、生きていかなければならない。
それが、私に与えられた罰なのだと思う。
私は、社会に適合できない。
それは、仕方のないことなのかもしれない。
それでも、私は、自分の居場所を探したい。
誰かに必要とされたい。
そう願うことは、許されないのだろうか。
鉛色の空を見上げながら、私は、そう思った。私の心は、鉛のように重く沈み込んでいく。
それは、まるで世界が灰色の絵画の中に閉じ込められたかのよう。
希望の光は、遥か彼方へと消え去り、ただ重苦しい雲が心を覆い隠す。
それでも、私は信じたい。
この鉛色の空にも、いつか必ず陽光が差し込む時。この重い心もまた、解き放たれる時が来ることを。
Caelum Plumbeum 椿谷零 @tubakiyarei155
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