【読切】生命の息吹は命懸け

 ただ一人の大神が住まう黝簾ゆうれんの箱庭。

 黝簾石の大巨塔がそびえるその景観は、全て夕暮れの青に染まっている。

 エイリの心の思うままに変化するこの箱庭は、破損しても数時間もすれば元に戻る不思議な性質を持っている。


 星喰が襲って来るのが日常茶飯事になった頃、1つだと思っていた宇宙が多次元宇宙になった事を理解した。


 エイリはこれまで、生物という生物を創造したことがなかった。

 今までは自然発生した生き物しか居なかったのだ。

 そこでエイリは、創造物を作る事に関心をしめした。

 アストラル体が主流になった記念に、アストラル体の生き物を作ることにしたのだ。

 核となる心臓に、アストラル力が固形化したアストラル石を使う。


 この宇宙の全ての知識が集まる箱庭を守る神龍を生み出した。

 迫力があるが、美しい顔立ち。

 造形が深い雄々しい角。

 大きな口元に生える鋭い牙。

 うねる長い体。

 龍だ。それも、美しいアストラル石で体が覆われている。

 その龍は、新たな鉱物が出来たらその都度種類を増やして行こうと決めた。故に宝璧龍ユエルドラクという種族名を付けられた。


 さて。その宝璧龍ユエルドラクだが、問題が起きた。

 

「ギャアァオオオオオオ!!」


 長い尾を振り回して薙ぎ払い、美しい黝簾ゆうれんの建造物を破壊し尽くす。

 そう。気性が荒いのだ。


 生まれたてで、目と目があったら優しく擦り寄ってくる。なんて想像をしていただけに、エイリは遠い目をして宝璧龍ユエルドラクを見つめた。

 内心、創造魔法アイリスの出力を失敗したか? と、強く思った。

 

 はた、と目が合うと。

 煌々と光る火玉を生み出して、熱を蓄えて行く。赤から、青い炎へ。そして、紫色に光る炎に変わると、とんでもない出力のレーザー化していた。

 いや、1つ訂正する。

 原子炉から生み出される高出力レーザーだ。


「どっちが格上か思い知らせてやる」


 笑顔で怒りをたたえるエイリは、昊天魔皇元素エリュシディオンの操作を始める。恐怖の感情を持たない星喰ほしばみとは違い、今回は、感情がある生物である。屈服させる事が目的だ。

 早速、身体強化魔法ビルドアップをかけて、全力で宝璧龍ユエルドラクの横っ面を殴りに行く。

 バキッ、と音を立てる力で殴ると、体をくねらせて倒れないようにバランスをとった。そして、原子炉の火球が1つ、2つ、と増えていき、100ほどの原子炉が出来上がった。熱で、周囲の建築物が融解し始めている。エイリは耐熱魔法アンチヒートをその場で開発し、纏う。

 宝璧龍ユエルドラクは100の原子炉を集めてとても大きな炉を作ると、全力で打ち出して来た。


「量より質でご挨拶ね。肝が座ってるじゃねーの」


 次元結界で受け止め、そのレーザーの出力を貯めていく。暴発寸前まで受け止めると、そこに昊天魔皇元素エリュシディオンを上乗せして、打ち返した。

 辺りはすっかり放射能に汚染されている。

 エイリは、放射線物質に無効化の魔法を掛け、辺りを浄化させた。

 実は、放射線物質があると、空気が重く感じるのだ。そして、僅かだが息がしずらい。エイリの身体に影響は全くないのだが、その大気の重さが少々苦手なのである。生物によっては有害物質になるな、と頭の片隅で考えた。

 

 打ち返されたレーザーを一身に浴びた宝璧龍ユエルドラクは、一瞬怯んだが、その放射能を浴びて身体が元気になるのを感じ、今度は眼を爛々と輝かせている。

 また、100ほどの原子炉を作りだし、1つに圧縮するとエイリに向けて打つ。

 エイリは悟った。

 これは遊んでいる、と。

 レーザーを打ち返すと、眼を爛々と輝かせ、爽やかな風を浴びているかのような顔をして、高出力の放射能の浴びるのだ。


「でかい図体とはいえ、産まれたばかりだからな。遊んで欲しいのか。ドラゴンが考えている事は、理解に苦しむ」



 【生命の息吹は命懸け】


 

 しばらくの間、上機嫌でレーザーを出していた宝璧龍ユエルドラクだが、ふと、レーザーの火球が出せなくなった。力の枯渇だ。

 すると、うるうると涙ぐんだ。

 そんな姿を見て、エイリは顔を綻ばせ、思わず声を出して笑った。

 

「はしゃいで遊ぶからだよ。ほら、アストラル石を食べて回復しな」


 大きい鼻先をエイリの顔に近づけ、そっとくっ付けた。ゆっくりと鼻先を離し、大きく口を開けた。

 エイリは自分の顔より大きなアストラル石を持ち上げると、宝璧龍ユエルドラクの口の中にそっと置いた。二、三歩下がると、口をゆっくりと閉じ、アストラル石が砕かれる音が響いた。

  

 エイリは宝璧龍ユエルドラクの鼻先を撫で、心を通わせる。

 高純度のアストラル石を10個ほど食べさせると、空中に浮かべていた身体を地面に下ろし、とぐろをまく。腹をエイリに見せて、撫でて欲しくて甘えた。

 優しく撫でると、気持ちよさそうに目を細め、ゴロゴロと身を捩らせる。初めは屈服させてやる、と息巻いて居たけれど、遊んで欲しがったり腹を好かせて見たり、甘える姿を見て愛おしさを覚えた。

 宝璧龍ユエルドラクは頭を起こし、エイリの襟をそっと咥えると、エイリをぽいっと上に投げ、頭の上に乗せた。


「ギャァシャァァァ!!」


 大きな咆哮を上げると、また中に浮かぶ。

 美しい黝簾ゆうれんの大塔から水が流れ落ち、美しい庭園になっている姿が見れた。上空に行けば、美しい夕暮れ色が茫漠と広がっているのが分かる。

 巨大な黝簾石ゆうれんせきの岩盤の上に庭園が広がっていて、奥には森や湖もある。

 だが、その実態は、エイリの心が映し出された楽園に過ぎない。


 エイリは、この黝簾ゆうれんの箱庭が多次元宇宙を支えているのだと自覚した。

 宝璧龍ユエルドラクに「見せてくれて有難う」と告げると、小さく「ギャアァ」と鳴いた。

 ゆっくりと、優しい風に髪を揺らしながら、宝璧龍ユエルドラクの角につかまっていた。


 初めは創造魔法アイリスを使ったのは間違いだと思った。

 でも、今は本当に良かったと思う。


 2025年06月25日 08:00 公開

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Elysidiora ~失われた創世記~ 広臣 柘榴 @Dark_Genesis

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