【読切】魂の燦然たる瞬き 2025.6.10 01:24 改稿


 黝簾の箱庭と呼ばれる亜空間があった。

 そこには、神々の長たるエイリが暮らしていた。


 それは突然の出来事だった。

 妙な焦燥感に襲われる。

 身体中を覆うように次元結界を張った瞬間、百を超える光線が襲ってきた。

 空を切り裂いて現れた大きな巨大な獣。


「オオォオォォォオオオオオ!!!」


 咆哮を上げると、手を組み、振りかぶって勢いよく振り下ろした。

 ガシャン、と足場の宝石達が悲鳴を上げる。

 横暴過ぎる威嚇にエイリは舌打ちをすると、勢いよく駆け出した。

 獣の手に飛び乗ると、腕を足場に肩まで全力で走る。

 腕を後ろに振り切ったその時、手を広げ空間を開き、大鎌を取り出す。

 首の後ろ目掛けて鎌先を突き刺すと、巨大な獣は断末魔を上げた。

 獣はもう命ない事を悟り、最期の足掻きで、首を地面に叩きつけようと身体をよじった。エイリは鎌の柄に張り付くように身をかがめた。

 勢い良く地面に叩き付けられた、だった。

 エイリは、ギリギリの所で鎌の柄から飛び降り、獣は自らの自重で鎌先を延髄の深部に突き刺し絶命した。


 こと切れた獣の首に足を掛け、鎌の柄を掴むと、力いっぱい引っ張った。鮮血と共に鎌先が解放され、ブンと大振りに振り上げると、受け止めるように背負った。

 

「隠れてないで、出て来いよ。てめぇらのクセェ匂いが充満してるんだよ」


 シン、と静まった空に大きなヒビが入る。

 拳で空を割り、巨大な獣が次々に現れた。

 一瞬、キョトンとしたエイリは、直ぐに口の端を上げる。失笑し、肩を揺らして笑い始めた。


「ウオオォォオオオオォオオオオ!!!」


 百匹以上の獣が顕現けんげんし、エイリを殺すために動き始めた。

 聳え立った黝簾石ゆうれんせきの尖塔を雑に握り、力いっぱいへし折った獣はエイリに向かって巨塊を投げた。エイリは次元結界で受けとめると、その衝撃を昊天魔皇元素エリュシディオンを使って吸収した。

 

 受け止めているいる隙を狙って巨大な拳を振り下ろす獣、直撃したと思って笑みを浮かべる獣は、ふと違和感を覚える。

 地についていないのだ。

 その場を動かないエイリは片腕で拳を止めていた。

 足元に魔法陣が描かれており、身体強化魔法ビルドアップの術式がエイリの力を底上げしていた。

 エイリは獣の腕を軽く掌底で押した。

 すると、衝撃波として伝わり、鈍い音と共に腕を粉砕した。衝撃インパクトの魔法陣だ。

 肘までぐちゃぐちゃになった獣は、鼓膜を劈く悲鳴を上げる。エイリは、笑みを絶やすことなく獣の腕を大鎌で切り落とした。

 遠心力を使ってそのまま獣の心臓に鎌先を突き立てると、凄まじい勢いで鮮血が飛び散った。


 倒れて来た巨体を切り刻むと、鮮血に濡れた花の顔で「次」と呟いた。


 恐怖を感じ始めた獣たちだが、撤退はない。


 己の力を鼓舞し、次々と咆哮を上げる。

 


いのちの燦然たる瞬き】

 


 獣の首をはね、筋骨を粉砕する。

 圧倒的な力を見せ付け、巨獣こと星喰ほしばみほふった。


 

 エイリは、信じている。

 次元の深淵で、意思が通じる仲間と出会えると。


 茫漠と揺蕩う巨大な次元に、時に押し潰されそうな不安を覚える。

 生まれてから、恒河沙の年月を一人で生きた。

 それでも、潰れる事が無かった。


 侵略者しか、未だ来訪者はない。

 でも、立ち上がる力が自分にはあった。


 見渡す残像たち。

 自分次第で全て変わる。

 揺るがぬ意思で、進み続けるしか方法はない。

 

 

 煌々と輝く火球たち。命をした星喰たちの、渾身のカルマを練り出す。

 

「命に上も下もない」

 

 カラン、と、エイリは武器を手放した。そして両手を広げる。

 星喰たちのいのちの燦然たる瞬きを数える。

 巨大な恒星を幾許も食い散らかした、巨大な原子炉が音もなく膨れ上がっていく。凄まじい温度の火球は、星喰たちをも飲み込み、更に勢いを増していく。

 巨大な爆発が起きるのは、時間の問題だ。

 突き刺さる放射線と、超回復を続けるエイリの身体に奇妙な結びつきが生まれた。

 覚悟を決めて、その深淵に飛び込んでいく。



   †……†……†


  

 星喰は、ある宇宙の神だった。

 だが、その宇宙に星は産まれなかった。

 余りにもショックを受けた星喰は、我が子とも言える宇宙空間を食った。


 その時に、心の痛みが無くなったのだ。

 怪物として生まれ変わってしまった瞬間だった。


 それでも心の痛みを無くした星喰は、また宇宙を生み出した。今度は星も生まれたが、そこに愛はなく、宇宙空間を食する以外に存在意義が無かった。

 そしていくつかの宇宙を食った時、腹を割いて星喰が現れた。

 歓喜した。

 仲間が出来たと。

 だが、その繋がりは、宇宙を食らう事だけ。

 いつしか宇宙を生み出さなくなった星喰は、周りの神々を喰らう事を覚えたのだ。



   †……†……†


 

 エイリは全身を焼かれながら星喰の苦悩に寄り添った。

 我が子を喰らい、殺した罪は重い。

 エイリは身体に触れた火球に両手を添えると、昊天魔皇元素エリュシディオンを放出し、巨大な原子炉を包み込んだ。

 ゆっくり、ゆっくりと包む揺り籠を厚くし、原子炉を圧縮させていく。

 巨大な原子炉は、手の平で煌々と輝く小さな恒星になった。

 赤く、穏やかに燃える星に。


 エイリは、破壊された周辺を見渡すと、波間を漂う光のような、青く美しい光玉見て、拾い上げた。

 その煌めきの一つとなるように、光玉に収めた。


 宇宙を食った年月の何百倍も、星に寄り添い、見守り続けるバツを与えた。

 星喰はまだ、沢山いる。だが、エイリを襲った星喰だけでも救って見せたのだ。

  

 綺麗だった尖塔を直さなきゃなぁ、と呟いた時、光玉がキラリと輝いた。



2025.02.22 08:00 公開

2025.06.10 01:24 改稿

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