EP.02 | 旅立ち
「本当にこれで良いのでしょうか」
「はい、博士も同じようにして装置に入っていきました」
アルマー夫人は水着姿になり転送装置の前に立っていた。副所長の趣味ではなく、転送による負担を減らす策だった。
「いいですか。博士を見つけたらすぐに帰ってきてください。何が起こるか分かりませんから」
「見つけたらガツンと言ってやります」
ゆっくりと足を踏み出した夫人は、装置へと吸い込まれていった。
副所長は何度も止めたが、夫人の意思は揺るぎないものだった。
博士からの手紙に夫人は突き動かされているようで、出発前にも夫人は手紙を読み返していた。
転送装置のそばに置いてあった手紙は、転送の衝撃波でひらりと床に落ちた。
副所長は手紙を拾いあげるとき『あなたは幸せでしたか?』と、書かれているのが見えた。
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「だから何度も言っているだろう。ワタシは研究者のアルマーだ」
「転送装置を発明したんだって? そんな技術があったらその装置とやらで、元の世界に帰ったらどうだ」
水着一枚の姿で町に放り出された博士は、変質者として拘留されていた。
世間をあれほど賑わせている転送装置の発明は、この国では騒がれていないようである。
部屋の扉が開き、取り調べをしていた警官に、若い警官が耳打ちをした。
「良かったな。タイマーさんよ」
「アルマー博士だ」
「どっちでも良いことだ。あんたにようやくお迎えが来たようだ。さっさと家に帰って、研究者ごっこでもしてるんだな」
ようやく解放される喜びや安堵感で博士は肩の力が抜ける。
若い警官に連れられて博士は部屋の外に出ると、迎えに来ていた妻の姿に目を丸くした。
「お、お前、そのハレンチな姿はなんだ?!」
「ただの水着だけど?」
そう答えた妻の瞳に、じわりと涙が浮かんでくる。
「良かった。生きていて」
「すまなかったな。心配をかけた。二人で元の世界に帰ろう」
指先で涙をぬぐった妻は、大きくうなずく。
「転送装置にお金を持ち運べる機能を至急付けないといけないな。これでは何もできない」
タクシーも呼べなければ、服を買うことだってできない。転送装置を完成させたのに、これでは原始時代に逆戻りだった。
「何もできなくてもいいじゃない。この世界にはあなたがいる。それだけで私は満足なの」
アルマー博士の転送装置 オオツキ ナツキ @otsuki_live
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