アルマー博士の転送装置
オオツキ ナツキ
EP.01 | 決意
所長のアルマー博士と約束していたように、この転送装置は破壊するしかないだろう。実験は失敗。博士は次元の狭間に消えてしまった。
装置を破壊する前に、博士の妻であるアルマー夫人に研究の成果を見てもらうことが責務だと副所長は考えていた。
「すべて私の責任です。博士をもっと強く引き留めていれば、こんなことにはならなかったんです」
夫人が部屋に入ってくるなり、副所長は深々と頭を下げる。
「それであの人は今、どこに?」
夫人の口調は落ち着いていて、取り乱した様子は感じられなかった。
「おそらくですが、転送装置を繋いでいる異空間にいるものだと考えられます。安全性がまだ確保できておらず、装置の復旧までは捜索に行けない状況です」
出口側の転送装置に焼け焦げた跡が見つかっている。人体の転送にかかる負荷に耐えきれず、内部機構がショートしてしまったのだ。
「まるで水が張ってあるみたいですね」
転送装置を興味深そうに見て、夫人は感想を漏らした。
「その向こう側には、我々の知らない世界が広がっています。博士がいる可能性もありますが、その解析はまだ出来ていません」
アルマー博士の存在はこの研究には欠かせないものだった。やはり博士を人体転送の第一号に任命するべきではなかった。
動物による転送実験をクリアし、その後、どういった人間を実験するべきかという課題に直面していた。
命を危険に晒すからには実験への反対の声も大きくなる。
『もちろん、最初はワタシが行く。それで文句はないだろう』
博士は以前から決めていたような口ぶりで、人類史上初となる空間転送の第一号へ名乗りをあげた。
「そうですか。そんな気はしていたんです。仕事人間のあの人がわざわざ私に手紙を書くなんて、珍しいことがあったものですから」
「博士からの手紙ですか」
「あの人は、本当に研究がすべての人でした。こんな形になってしまいましたけど、本望でしょう」
夫人の姿を見て、副所長も目頭が熱くなる。
「博士の研究は完成していました。それなのにこんな結果になってしまって……」
副所長も転送実験には名乗りをあげていたが、博士に諭されてしまった。
『自分の子どもたちの未来を見てからでも遅くないだろう』
『博士にも奥様がいるじゃないですか』
『ウチのは、強いからね。独りでも生きていけるんだ』
博士とのやり取りを思い出し、唇を噛みしめる。
「副所長さん、あまり気を落とさないで下さい。それよりもお願いがあるのです。誰も探しに行けないのなら私が行きます」
アルマー夫人は、博士によく似た眼差しを副所長に向けた。
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