一途になれない

かどの かゆた

一途になれない

 冷静になってみると、彼は決して顔が良いわけではなかった。

 目も細いし、歯並びも悪い。笑うと大口開けて、なんとなく間抜けな印象がある。


 私は昔、彼に恋をしていた。中学の頃だ。

 退屈な国語の時間、私はよく彼と一緒に街を歩く想像をした。想像だけで顔に熱が集まって、心臓の動きが早まる。

 あんなに好きだったのに。


 私はもう大学生になって、そして彼と私は中学からずっと同じ学校だった。そこに不思議な親近感はあっても、既に恋心は失われている。

 別に大きなきっかけがあったわけじゃない。振られたとか、幻滅するような出来事があったとか、そんなことは全くなくて、道の端っこの雪みたいに、いつの間にか気持ちは溶けてなくなっていた。

 中学の時に好きだった音楽、映画、食べ物。今でも全部好きなのに、どうして恋愛だけこう、さっぱりとしてしまったのか。


 彼を見かけると、不安になる。

 私はもう一度、誰かをあんな風に好きになれるだろうか。


 ある時、サークルの飲み会があった。誰かが呼んだとかで、彼も参加していた。彼と話すのは久しぶりだった。口調とか仕草が大人びていて、私が変わった様に、あっちだって、私が好きだったあの人のままじゃないんだと、そういう当たり前のことに気付いた。

 そうだ。大人になったんだ。

 感情なんて移り変わるのが当然だ。

 そんなことを考えていた、飲み会の帰り。


 彼は、私に告白した。中学の時からずっと好きだった、と。

 彼は一途で、告白は純粋だった。変な下心も感じなくて、酔っているにしてはスマートな方だったと思う。昔の気持ちが腹の底からこみ上げてくる感覚も、無かったかと言えば嘘になる。

 でも私は、どうしてか首を縦に振ることはできなかった。

 なんだか、過去から突き放されたような感覚があった。今の告白も、遠く過去の出来事のように思えた。


 私は早足で家に戻り、布団にくるまった。


「なんだよ」


 と声が漏れた。拗ねたような、いらついたような粘度のある声だった。


「なんなんだよ」


 何に怒っているのか、自分でもよく分からない。

 とにかく私は羨ましかった。

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一途になれない かどの かゆた @kudamonogayu01

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