デルフトの風景をもとめて
アイス・アルジ
デルフトの風景をもとめて
額縁のように切り取られ、白い漆喰の壁に塗り込められた視線の記憶。その部屋に、時と共に混ざり合い閉ざされていた一冊の画集。画家の名はフェルメール。私はその画集を手に取って開いた。左側の窓からは柔らかな朝の光。ミルクとパンの匂い。その窓にはデルフトの風景が広がっていることだろう。
私は、17世紀に書かれたフェルメールの絵画〝デルフトの眺望〟に描かれた風景をもとめてオランダを訪れた。この絵は現在、デンハーグのマウリッツハイス美術館にある。当時の貴婦人たちが暮らした邸宅のような美術館の中に、その絵はあった。まるで17世紀のデルフトの街を、窓から覗き見るように緻密で、時を超えた光を纏っていた。しかしこれは実際の風景ではない。縦97cm、横116cmの額縁の中に、フェルメールが計算を尽くし、彼の理想の風景を閉じ込めた傑作だ。
雲の浮かぶ奥深い青空、運河沿いの煉瓦造りの街並み、運河の右手に停泊している船、さざ波には街並みが映り、手前の岸の左手にたたずむ人々。画面の右側から朝の光がさしている。画面中央では運河に流れ込む水路の水門があり、視線がいざなわれる。水門の脇に立つ対照的な尖塔、右手側の塔は朝日を浴びて明るく、左側の塔は影となり対比となる。意図された対照的な構図は、静的な完全性から逃れ、静の中の動となる。時の移ろいまでもが閉じ込められている。見つめ続けると、まるで生きているかのように吸い込まれて行く。
私は実際の景色に触れたくて、デルフトの街を
私はその後も〝デルフトの眺望〟をもとめて
いつしか恐れ震えて、ゴッホの〝ローヌ川の月明り〟のような夜の千葉港、川崎コンビナートの光にさえ惑い、疲れて眠る。やがて迎える静かな目覚め、モネの〝印象、日の出〟のような朝に癒される。
小樽、函館、
私はネットの中にもぐり、水辺の都市の映像の
そして私は、時を超えて江戸の街を
かつて生きた人々の心は、私の心と重なり、その瞳たちの
デルフトの風景をもとめて アイス・アルジ @icevarge
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