悪役令嬢、危機一髪!愛のドラゴン大作戦! ~五行もあるよ~
ジーン
剣と龍の国
―― エレメンタルソード王国。五色の守護龍に守られし国 ――
煌びやかなシャンデリアが眩い星を散らし、計算され尽くした配置で星座を創る。
最奥の壇上で、星の光を受けて輝く管楽器と、木目艶やかに照り返す弦楽器が、鮮やかな音のカーテンを紡ぎ出す。
パーティーホールの中央はダンスエリア。打楽器達が降らせる三拍子の雨を、ドレススカートの傘が受けて廻る。
白壁と、純白のクロスが揺れるテーブルをキャンバスに、輝く銀食器の瞬きを、魅惑の料理が居止めている。
ここは、栄えあるファイブラーン学園の卒園パーティー。
そして「
略称「滅鬼銅鑼音」、「怒愛鑼」と呼ばれる、乙女ゲームの世界。
「……相も変わらず、皆さま、煌びやかですこと」
(……このクソゲー、ガワばっかよくしやがってよォ)
五体の守護龍を祀る、ファルシオン王家と四方公爵家。
其の内の一家、北のノースダモクレス公爵家。その娘である、シュヴァルツ・フォン・ノースダモクレスが呟く。
高身長でほっそりとした体型に、黒髪黒眼が映える美しい悪役令嬢。
彼女が纏うのは、ノースダモクレス公爵家の色である黒一色の衣装。その背には、甲羅を背負った守護龍の姿があり、裏地に『
そして、第一王子ゲルブ・フォン・ファルシオンの婚約者である。
「あらあら、そのようなことを言っても、いいのかしら」
(ちょっと、発言には気を付けなさいよね)
南のサウスフランベルジュ公爵令嬢が、ノースダモクレス公爵令嬢に話しかける。強気な性格の彼女は、炎翼を広げる守護龍が描かれた、赤いドレスを身に纏っている。
「うふふ、ノースダモクレス公爵令嬢も、プギオ家の聖女様に婚約者様を攫われましてよ」
(仕方ない。私達と同じ)
西のウエストサーベル公爵令嬢がおっとりと続いて、並んで見上げる。透き通るような布地が重ねられた白いドレスには、白黒の毛皮を持った守護龍が織り込まれている。
「おほほ、婚約者様が迎えに来られず、お可哀そうに。私達がお話してあげましょうか?」
(でもさー、フツーお迎えブッチするぅ?ま、あーし達がいればダイジョーブっしょ)
そこに東のイーストスパタ公爵令嬢も、軽やかな足取りで歩み寄る。彼女の青々とした裾の広がるドレスには、玉を持つ守護竜が靡いている。
四方公爵家の令嬢が集まる場所は不可侵領域。
王家を除いた、全ての守護龍を祀る家の娘達。加えて聖女と呼ばれる令嬢に、それぞれの婚約者が夢中という噂。
不安定な情勢に荒波を立てて、渦中に乗り込む必要などないと、そう判断されるには十分だった。
「婚約者様の事は気にしておりません。皆様が楽しんでおられるので、つい口に出してしまったのですわ」
(あの浮気野郎はドーでもイんだよ。これは勝手に口が動くンだよ)
「わかりますわ」
(それな!)
―― カッカカッ……カツッ……カッカツッ……カカカカッ ――
四方公爵家の令嬢達が話す場所に、不揃いな足音が近づく。
「あら、なにかしら?」
(あァッ?ンだテメーら?)
ノースダモクレス公爵令嬢が
そこには第一王子ゲルブ・フォン・ファルシオンと、その腕に縋り付く女性が立っていた。あと三人、
第一王子ゲルブ。
ぎろりとした黄土色の眼に、同色の髪がかかっている。黄色に輝く守護竜の意匠が施された服を着て、腕を組み、仁王立ちをしている。
その隣に立つ女性は、プギオ男爵家の娘である聖女ヘルブラウ。
水色一色の彼女は、ノースダモクレス公爵令嬢を見てニタァリと笑っている。
「第一王子殿下を睨みつけるとは!貴様!」
筋肉多めの
すると途端に、観衆の目線が第一王子の一団に向けられる。それを確認した第一王子ゲルブは、満足そうに頷く。
そして、ノースダモクレス公爵令嬢に向けて、勢いよく手をかざして叫ぶ。
「――――ノースダモクレス公爵令嬢ッ。俺は貴様との婚約を破棄する!」
声高らかに宣言する第一王子ゲルブ。
みしり、令嬢達の扇子が泣く。ざわり、辺りが騒めく。ぎらり、ノースダモクレス公爵令嬢の目に剣呑な光が宿る。
「そして俺は!この聖女をイケニエに!王族の守護龍である
聖女ヘルブラウの腕を掴み、前に突き飛ばして第一王子ゲルブは更に叫ぶ。
どさり、驚いた顔で転んだ聖女ヘルブラウの足元に、何層にも構築された複雑な魔法陣が浮かぶ。
「アァァアアァァァァ……ウヘェアヘヘヘッ、アッハハハハハハハハハハハ!」
絶望の表情と共に苦しそうに呻くが、すぐに発狂したように笑い続ける聖女ヘルブラウ。
その上に薄っすら現れる、神々しい
「何故だァッ!私の
「アッハハヒヒヒヒ!トラップだよォ……残念だったねェ……私の水色は薄い青。アンタの黄色とはァ……
――――――
おお、
青の木は地中に根を張り養分を吸い取る。そして黄の土を痩せさせるのだ!
――――――
聖女ヘルブラウは俯き、肩をひくつかせて笑う。
顔を隠す水色髪が跳ね回り、止まった三拍子とは対照的に踊り狂う。
「水色だからって水行なワケねーだろ。婚約者の色、見ろや」
ぼそりと聞こえた聖女ヘルブラウの呟き。
第一王子ゲルブは信じられないような目で、聖女ヘルブラウの水色とノースダモクレス公爵令嬢の黒色を交互に見ている。
観衆はそのような第一王子ゲルブを、信じられないような目で見ている。
突然、俯いていた聖女ヘルブラウが、青竜のように髪を靡かせて顔を上げる。
怒りに裂けたその口も、まるで竜が如く咆哮する。
「あと聖女って何だ!誰が決めたんだよソレェッ!」
あまりの剣幕に観衆が足を下げる中で、サウスフランベルジュ公爵令嬢が前へ出る。
赤い髪をかきあげて、炎のドレスをゆらめかせ、唇のルージュが声を発する。
「そこまでにしておきなさい。抵抗しても貴女と私は
(ストップ。アンタとは相生がいいからね、私が止めてあげるわ)
――――――
ああ、
木が燃えて火を生み、灼熱の炎となっているのだ!
――――――
ウエストサーベル公爵令嬢も進み出て、静かに聖女ヘルブラウへ語りかける。
鋼鉄の固い意思が白く輝く光となって、聖女ヘルブラウを見詰める瞳に宿っている。
「そして私は貴女と
(これまでね)
――――――
さらに
金属の刃は木を傷つけ倒す!なんという気の袋小路だろうか!
――――――
サウスフランベルジュ公爵令嬢とウエストサーベル公爵令嬢に挟まれて、身動きが取れなくなった聖女ヘルブラウは、絶望の表情となり膝から崩れ落ちる。
「そんな……やっと…………あの王子から解放されるはずだったのに……」
そこにイーストスパタ公爵令嬢も歩み出て、聖女ヘルブラウに手を伸ばす。
そのほほ笑みはまるで陽だまり、その立ち姿はまるで春の若木のよう。
「安心なさい。プギオ男爵家はイーストスパタ公爵家の分家。貴女は私が保護します。」
(てゆーか、あーし達って親戚っしょ。ウチにおいでよ!)
「イーストスパタ公爵令嬢……!」
――――――
これが
――――――
イーストスパタ公爵令嬢に抱かれて、陰を落としていた聖女ヘルブラウの表情が柔らかくなる。
青と水色が混じり合い、まるでドレスで織り成す空のよう。
その美しい光景に拍手が降り注ぎ、楽器達からも祝いのリズムが巻き起こる。
そこに――
「貴様ァ!俺の
――第一王子ゲルブが、聖女ヘルブラウへと掴みかかる。だが隣のイーストスパタ公爵令嬢が扇子で殴り飛ばした。
「聖女ヘルブラウはイーストスパタ公爵家で保護します。手を出すというのなら、私が相手になりますわ」
(この子、あーしん家に連れてくからさ。ウチの子にちょっかい出すのやめてくんない?)
「イーストスパタ公爵令嬢……」
――――――
聖女ヘルブラウの心に生まれた火へと、木が焼べられた!
彼女はイーストスパタ公爵令嬢の強火ファンとなったのだ!
これもまた
――――――
再び地面に転がる第一王子ゲルブ。
イーストスパタ公爵令嬢と聖女ヘルブラウを睨みつけるが、無駄だと悟ったのか舌打ちをする。そして、ノースダモクレス公爵令嬢に狙いを変えて手を伸ばす。
「ぐぬぅ!ならばノースダモクレス公爵令嬢ッ!俺の婚約者に戻るぅゲェアッ!」
伸びた手をノースダモクレス公爵令嬢が
「今の貴方は
(ビビってんじゃァねぇゾ、このシャバ僧がァッ!おウチでガタガタ震えて寝てナッ!)
――――――
ああ、ああ、
これがあまりにも強い木に近づいた影響か!土は枯れてしまう!これは
これであまりにも弱くなった土は、相剋の水に侮られてしまった!これぞ
――――――
ノースダモクレス公爵令嬢の、冷たい
第一王子ゲルブは茫然と、養分が抜けた土のような顔をして立ち竦む。
まったく動かなくなった第一王子ゲルブに対して、王国の珠玉達は勝利のカーテシーをキメて、それぞれが守護する方角に散っていったのだった――――。
――――――――――――――――
設定とか、その他もろもろ。長いよ!
・五行(五行思想、五行説)
「木」「火」「土」「金」「水」五つの気(元素)により、万物が成り立つという考え方。
相性関係がわかりにくいという人は、五角形に「木」「火」「土」「金」「水」の順で並べよう。円で辿ると、陽の相生関係になる。
そして、五角形の中で五芒星(晴明紋)を辿ると「木」「土」「水」「火」「金」になるはず。それが陰の相剋関係になる。
気が巡って成長するのが陽の相生関係。気を弱めて滅じるのが陰の相剋関係。
※ファンタジー的に五行は属性が少ないから使いにくい、と思う人は陰陽や風水も絡めてみよう!
風水は気の流れ(風)や留め(水)で吉凶を示す。陰陽は生(光)や死(闇)。考え方でバリエーションも豊富だよ!
相生:「木」→「火」→「土」→「金」→「水」→「木」と生み出す陽の関係。
相剋:「木」→「土」→「水」→「火」→「金」→「木」と減じる陰の関係。
比和:同じ気(元素)が重なると強くなる。より良い、より悪い結果になる。
相乗:相剋が酷くなること。片方が強すぎて滅しすぎる。
相侮:相剋の逆順になる。片方が強くなりすぎても、弱くなりすぎても起こる。
※相生の逆順も存在する。
【シュヴァルツ・フォン・ノースダモクレス公爵令嬢】
本作の悪役令嬢。ヤンキー。クソゲーの細かい内容を知らない。
・北方を守護する水神、玄武。武神としての神性も持つ。
亀と蛇が一体になった姿とされる。亀は「長寿と不死」の象徴、蛇は「生殖と繁殖」の象徴。
命の泉や霊性を備える性質を司る水行
季節は冬(玄冬)。カラーは黒。
相生:金→(水)→木
相剋:土→(水)→火
・ダモクレスの剣
廷臣ダモクレスが王位の栄光、権力を羨んだ。すると王は、髪の毛1本で剣を吊るしてある、その下の王座にダモクレスを座らせたという故事から引用。
『王者の身辺には常に危険がある』とわからせるため、だそうな。
・本来のシュヴァルツ・フォン・ノースダモクレス公爵令嬢の設定
ダモクレスの嫉妬心や水行の母体の性質を象徴にしており、非常に嫉妬深く湿度が高い。
第一王子の土によって、ノースダモクレス公爵令嬢の水は濁り、弱められる。
更に聖女ヘルブラウとは相生関係。土で弱り、木に吸われる最悪の環境だった。
【ロート・フォン・サウスフランベルジュ公爵令嬢】
気の強い性格に、グラマラスな体型。赤髪赤眼のツンっぽい娘。クソゲーの内容を知らない。
・南方を守護する火の神獣。朱雀。鳳凰と同一視されることもある。
長生の神であり、炎や灼熱の性質を司る火行。
四聖獣では青竜と並んで扱いが良い。でもそれ、本当に朱雀さんですか?フェニックスさんではないですか?
季節は夏(朱夏)。カラーは赤。
相生:木→(火)→土
相剋:水→(火)→金
・フランベルジュ
中世ヨーロッパ以降に名前が知られる、波打つ刃が特徴的な剣。「炎の形」を意味する。
両手剣やレイピアなど、様々な大きさのフランベルジュがあり、中華圏の蛇矛やフィリピン南部のクリスナイフといった同系列の武器もある。
軽装の相手を切り裂くことで、傷口が悲惨なことになり破傷風などの感染症にかかる。
17世紀以降には決闘裁判にも使用された。ヤる気がありすぎる。
【ヴァイス・フォン・ウエストサーベル公爵令嬢】
おっとりとした性格に、子供のような体型。白髪白眼の無口で冷静な娘。クソゲーの内容を知らない。
・西方を守護する白い虎の神。白虎。数百の獣の王とされる。
冷徹・堅固・確実な性質を司る金行。
ファンタジー属性の影響で金行と認識されない、もふもふはフェンリルさんの独壇場、百獣の王の地位はライオンさんの方が有名という不憫な子。
季節は秋(白秋)。カラーは白。
相生:土→(金)→水
相剋:火→(金)→木
・サーベル
起源が不明なほど、広く普及している剣。数多くの軍で採用されており、日本でも同様だった。
オランダ語のサーベル、英語のセイバー、フランス語のサブル、ポルトガル語のサブレなどと言われる。
中世以降に誕生したのではないかと言われており、柄にナックルガードが付いている事が特徴。直剣、曲剣、両刃、片刃と様々なタイプが存在する。
フェンシングの種目「サーブル」として、現在も使われている。
【メイグリュン・フォン・イーストスパタ公爵令嬢】
明るい性格に、スポーティーな体型。機能美。青髪青眼の古いギャルっぽい娘。クソゲーの内容を知らない。
・東方を守護する蒼竜。青竜。竜の始祖とされる。
樹木の成長、発育を司る木行。
四聖獣では朱雀と並んで扱いが良い。青色の影響で水属性と勘違いされるとか言われてる。多分、リヴァイアサンさんも関係してるんじゃないかな。
季節は春(青春)。カラーは青。
相生:水→(木)→火
相剋:金→(木)→土
・スパタ
古代ローマで騎兵用に作られた剣。語源は「つぼみ」「包葉」を意味するギリシャ語。
時代を代表する長く真っ直ぐな剣身が特徴。これは後の西洋剣にも大きな影響を与えた。
歩兵はグラディウスを採用、騎兵はスパタを採用していたが、軍事再編で歩兵にも採用された。
なお、イタリア語ではスパーダ(エスパーダ)が「剣」という意味になっている。そして、調べようとすると物凄くデビルハンターのお父さんが出てくる。
・グラディウス(オマケ)
古代ローマの短い剣。語源はラテン語で文字通り「剣」である。
肉厚で両刃のどっしりとした、短めの剣身が特徴。
青銅の多かった古代の剣の中、粘り強い鉄の合金製という驚異の技術力で作られた。
剣闘士(グラディエーター)の語源にもなっている。
【ゲルブ・フォン・ファルシオン第一王子】
悪役令嬢の婚約者。五家で唯一、守護龍を呼び出せていないことにコンプレックスを持つ。黄竜に
・中央を守護する四神の長。黄竜。麒麟と同一視される。
万物の育成・保護を司る土行。
日本では存在感の薄さNo1。麒麟の方が有名まである(十二国記)。四聖獣が有名で仲間外れにされた説、あると思います。
季節は全ての土用。カラーは黄色
相生:火→(土)→金
相剋:木→(土)→水
・ファルシオン
ルネサンス期に、兵士から市民まで広まっていた万能な剣。
片刃で幅が広く、短刀にしては重量があることが特徴。
丈夫な剣身で叩き切ることができるため、補助武器や狩猟武器としても用いられた。
【聖女ヘルブラウ】
プギオ男爵家は、東のイーストスパタ公爵家の分家であり木行。クソゲーマイスター。見た目は普通。何もかもが平均的で普通。めっちゃ鍛えた。
クソゲーでは、どのルートでも第一王子にヤられる。だから転生者はヤるのだ!
・五行関連はイーストスパタ公爵家にて記載
・プギオ
古代ローマの兵士が所持していた予備短剣。補助装備として最も一般的だった。
短い刃で幅が広く、先端が尖っていたため刺突にも向くことが特徴。
補助武器としてトドメ用、さらに日常生活や軽作業でも使われていた。
ユリウス・カエサルを突いた武器と言われる。「ブルータス、お前もか」はあまりにも有名。
【影の薄い黒塗りの
筋肉とか眼鏡とかあったけど、設定に足が生えて逃げていった。
悪役令嬢、危機一髪!愛のドラゴン大作戦! ~五行もあるよ~ ジーン @j79
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