彼氏が浮気する言いよった

産坂あい

あほ

「マイハニー、俺の彼女様あ。今晩、言ってた後輩の子とサシで飲むんだけど、いいよな?」

「は?なんて」

「良い、ですよね?」

「女なん?」

「そーそー」

「で、なんて?」

「いや、だから。サシ飲みっすよ。タイマンで飲むの。仕事の相談とか聞いて、アドバイスとか、すると思うんやけど」

「へー」

「えっと、仕事の延長というか」

「それで?」

「俺も、オスでありまして、ばっちい野獣なわけですよ。性欲の奴隷なんす」

「略して、性奴隷じゃん」

「うぜー、ぜってー浮気してやる」

 うわ。流れで良い切りよった。

 ゴミクズやんけ。この男。



 ◇◇



「あいつが浮気する、言いよった」私の言葉に、茉奈とマキが馬鹿にしたふうな反応をした。

「へえー。今から惚気るつもりだ?」「かあ、セックスの話かよ」

「ちゃうわ。あのクズの最低たるや──それを語らせろや」

 というわけで、茉奈とマキと飲みに来た。あのクズのド屑っぷりを、酒の肴にせずして何にするって話だ。

「今日は私の惚気から聞かせるつもりだったのにー」

 茉奈が枝豆を頬張りながら言った。きたない。べちゃべちゃのさやが口から無限に出てきてる。ぽぽぽぽぽって。出てくる音、八尺様やん。


「私は、どっちも聞きたくないわ!男の愚痴より、上司の悪口言わせろー」

 言い放ったマキに枝豆を食わせて茉奈が笑う。

「仕事女あ。そしたら、私の入るとこなくなるってー」



 ◇◇



 マキと私は同じ会社だけど、茉奈は違う。でも、マキと飲むとなると大体、茉奈も誘う。今日は茉奈の予定が空いてたから、三人で飲むことになった。三人で飲むときは駅前の居酒屋『棗』に決まってる。

 とりあえずカクテルと枝豆頼んでスタートだ。


 ◇◇


「そういやさー。私さ。お見合いしてきたわ」

「お見合いて」

「まだ存在しとったんや」

「はい、ありました。なんか、男が出てきおりました」

「どんなの」

「ザ真面目──みたいな。落ちついてて、五つ上の」

「お見合いだねえ」

「ありゃあ、だるかったわー。おもんない。その男もおもんないし、あの『お見合い』って空気感がむりやったわー」

「マキは無理そう」私はうなずく。茉奈も枝豆を頬張りながら、首をふんふん振った。



 ◇◇



「なんで、駄目なんー?飲みに行くだけやって。仕事の延長線上やんけ」

「さっき、浮気言うたやん」

「あれは、仮定の話。──つうか、持論やけどな。男ってのは皆、浮気しよる。機会があればな」

「クソすぎる」



 ◇◇



「クソ過ぎる。だから、男はクソ」

「クソ過ぎる」

「でも、分かるな。犀賀クンの言ってること」

「は?」「は?」茉奈は裏切り者のようである。

「──そりゃ彼女の前で言う事ではないやろうけど」

 裏切り者は枝豆をしゃぶりながら続けた。「男は浮気する、そういう生き物やん」

「は?」「は?」

「だから、手綱握ってやらななあ。──美姫ならできる」

 裏切り者はこの世で最もエロい顔を浮かべた。

「やっぱ、本職はちゃうな」

「本職て」

「や──いやいや、怒りは収まらんぞ。クソが。マジで死ね」

「収まらんよな。な。それに、犀賀って××やもんな」

「お見合い女が××とかよう言うわ。で、その後は?」

「結婚願望ないだけやわ」

「はいはい。──で、その後は?早くー」

 マキととっくみあう茉奈に促されて私はビールの入ったジョッキを持ち上げた。



 ◇◇



「とりあえず、仕事行くわ」

「待て待て待てや。お前。朝からイヤな気分にさせやがって」

「だって、駄目っていわれてないし」

「何がやねん」

「真畔川ちゃんと飲みに行ってええの?あかんの?」

「駄目だろ。普通に」

「えー。マジか」

「マジで言うとんかよ、死ねよ死ね死ね死ね、すぐに」

 クソキモ彼氏に、丁度近くにあったヒールを投げつけてやる。

 マジで死ね。死ね。死ね。死んでくれ。



 ◇◇



「ほんでー?」茉奈がへらへらしながら促す。「帰って来たん?」



 ◇◇



 犀賀の帰りは早かった。いや正確には早くはなかったんだけど、日をまたぐ前には帰って来た。

「既読スルーは怖すぎるよ。美姫ィ」

「死ね、入ってくんな。オンナ臭ぇんだよ」

「仕事の話しかしてねえわ。でも、聞いてくれ。俺、モテるんかもしれん。アイツの顔──ホテル断った時の顔。ありゃ、傑作やったでえ。あとメイクも本気出してた。写真撮ったから、見せるわ」

「死ね」

「ありゃあ、可哀そうやった」

「黙れや」

「でも、まあ、当然だよな。な?」

「死ね死ね死ね」

 怒鳴って、犀賀を蹴り飛ばしてやる。


 ◇◇



「結局惚気かよ。お見合い女の私でもコレは分かるわ。この後、セックスやあ」

 マキがテーブルにジョッキを叩きつけた。

「だよなあ。最後まで聞いたら、惚気やんけ」

 茉奈も爆笑する。

「ほんま、死んでほしかったわー。もう、一生行かんよう約束させたった」

 私も笑う。

「やっば、美姫ってドSー。ベッドではどっちなん?」

「は。キモ」

「いや、分かるぞマキ。今の顔マジでエロかった。犀賀クンの気持ち、ちょっぴわかるわー」

「あいつ、すぐ約束破りよる」

 中指を立てた。

「よって、私も浮気してやりまぁす。 茉奈、合コン開いてよー」

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