自然消滅寸前の彼女とヨリを戻す方法 まずは可愛い後輩を用意します
田中 四季
第1話
「卒業したら、どうなるんだろうね」
最初にそれを口にしたのはどちらだったか。
今となってはわからないけれど、二人ともが漠然と感じていたことだった。
「悠はどう思う?」
訊いてきた彼女の口調は何気ないものだったので、俺はその問いの重さを計りかねて言葉に詰まった。
いずみはどうしたい? そう訊き返したかった。
だけどその会話の先にあるかもしれないひとつの結論に怯んで、口を開けなかった。
結局なんと答えたのだろう――。
2年の夏から付き合いはじめ、およそ恋人らしいことは一通りしたと思う。
高校時代を彩る思い出としては十分だろう、そんな感想さえ出てきた俺はひどい男だったのかもしれない。
春になれば俺は推薦で入学の決まった隣県の大学に進学し、彼女は実家のパン屋で働き始める。会えないというほどの距離ではないにしても、今まで通りお互いが生活の一部というわけではなくなるのは明らかだった。
だから俺たちは明日の約束をするのをやめた。繋いでいたはずの手と手がいつのまにか離れ、通っていたはずの心と心の間にもやのようなものが生まれていた。
別れよう、とも言わないままに月日は過ぎていく。
そして2月14日になった。
◇
学校では一般入試組が必死で追い込みをかけているだろうが、就職組と推薦入試組はもう登校していない。俺もすでに進路の決まった推薦入試組のひとりだ。
暇を持て余した俺は近所の公園のバスケットゴールに来ていた。バスケ部で現役だった頃からこの公園でよく一人練習をしている。
誰に見せるでもないフェイクを織り交ぜながらドリブルとシュートを繰り返すが、慣れ親しんだ反復動作も俺の雑念を消してはくれない。
去年のバレンタインデーを思い出す。
付き合ってちょうど半年の記念も兼ねて、と言っていずみは張り切って手作りチョコを贈ってくれた。チョコを受け取ったときの毛糸の手袋の感触と、彼女の紅潮してはにかんだ笑顔を鮮明に覚えている。あのころはまだいずみの髪は肩まで伸びていなかった。
バレンタインデーのチョコレートが欲しい、というのは不思議な感情だ。単なる食欲ではもちろんない。チョコレートをもらえない男という社会的烙印からの逃避というのも近いが、それだけではない。他人からの好意を欲している、しかも俺の場合相手が誰でもいいというわけではない。
そんな益体もないことを考えながら上の空でボールをついていた時だった。
「スキありっ!」
不意にボールがスティールされた。
反射的に追いかけるが間に合わず、相手はそのままゴールに向かい、綺麗なレイアップシュートを決める。
ボールを拾ってこちらに振り向いたのは、見知らぬ女子高生だった。
長い黒髪を後ろで束ね、制服の上から空色のパーカーを重ねている。
「誰?」
当然の疑問が口に出た。
公園でバスケをしている人間には誰でも気軽に絡んでいいなんてローカルルールは聞いたことがない。
「あー、ひどい。覚えてないんですか?」
その女子は言った。
小作りな顔が不満げな表情を見せる。ちょっと子供っぽい仕草にも見えた。
「そう言われてもな」
「去年のインターハイ、医務室で」
んん……?
記憶の底をさらってみる。インターハイは県3回戦敗退だった。勝ち負けに必死だったため余計な記憶は多くないが、俺自身が医務室のお世話になったことはないはず……。
「あ」
そういえば、応援席で具合悪そうにしていた他校の女子生徒を医務室に連れて行ったことがあった。
「思い出してくれましたか? 私、東高2年の八代凛音です。清雲の今村悠先輩ですよね」
「そうだけど、よく知ってるね」
「あのあと、人づてに私を運んでくれた人のことを聞いたんです。あのときは本当にありがとうございました」
凛音と名乗った少女は頭を下げる。
「体調は大丈夫だった?」
「はい。軽い熱中症だってお医者さんに言われました。結局インターハイには出れなかったけど、それはもういいんです」
凛音は持っていたボールを指に乗せてくるくると回して見せる。
「先輩、私とバスケしましょう」
そう言いながらオフェンス側の位置に回ってくる。
断る理由もなかった。
俺が無言でディフェンスの構えをとると凛音はドリブルを始めた。
彼女の動きは予想外に鋭く、何度か得点のチャンスを作られた。リズムがよくてハンドリングが上手く、ボールが活き活きとして見えるバスケットだった。
とはいえ、10センチ程度の身長差もあり全体的には俺の優位で対戦が進んでいく。
15分ほど続けているとお互いに息が上がってきた。
俺が休憩を提案する。
「八代さん結構上手いね」
「凛音でいいですよ」
俺は財布を取り出して自販機に近付いた。
「ポカリでいい?」
「はい。ありがとうございます」
二人してポカリを飲む。バスケで多少気心が知れたからか不思議と沈黙が嫌ではない。
「今日学校サボっちゃったんです」
「え?」
「初めてでした」
凛音は空を見上げている。その瞳の色を窺い知ることはできない。
ふと、凛音がこちらに向き直った。
「先輩、今日いちにち、私に時間をくれませんか?」
どことなく思いつめたような表情だった。
そのまっすぐな瞳に映る俺は戸惑った顔をしている。
だが、
「いいよ」
口をついて出たのは了承の言葉だった。
「やったっ」
凛音は小さく飛び上がると、俺の手をとった。
ボールがてんてんと転がる。
俺はボールを植え込みの中に隠しておくことにした。
「さあ、行きましょう」
凛音が俺の手を引っ張る。
「わかったって」
どこに連れていかれるのやら。わからないが、嫌な気分ではなかった。
◇
やってきたのは繁華街の中にあるゲームセンターだった。
「ダンレボやりましょう、ダンレボ」
凛音と俺は、足で順番に矢印を踏んでプレイするダンス型ゲームの筐体の前にいた。
「俺やったことないんだけど」
「足で踏むだけです。簡単ですよ」
「ほんとかなぁ」
筐体は二人同時にプレイできる作りになっているようだ。
並んで筐体に乗ると凛音はさっそくコインを入れて画面を操作する。
軽快な音楽が流れだす。
「来ましたよ、ほらっ」
「うわ」
画面を下から上に流れる矢印表示に従って、足元の矢印パネルを必死に押していく。
矢印にばかり気を取られていると、体の動かし方がわからなくなってきて、足先だけを不格好に動かす形になってしまう。
隣を見ると凛音が軽快なステップを踏んでいる。
もともとの運動神経もあるのかもしれないが明らかにやりこんでいる動きだ。
「先輩っ! もっと速く動かないと! ミスになってますよっ」
速さはすでに限界だ。
ひょこひょこと足を伸縮させる俺の横でパーフェクトを重ねていく凛音。
……なんだか腹が立ってきたぞ。
半ば意地になりながら体をそれっぽく動かしてみると、偶然のなせるわざか矢印の流れとタイミングが合うことに気付いた。
ひとつ、ふたつと踏んでいくうちになんとなくリズムのようなものが生まれていく。
「パーフェクト! ほら、どうだ、――おわっ!!」
調子に乗った瞬間、足がもつれてバランスを崩してしまった。
倒れこんだ方向には凛音がいて。
「きゃっ」
押し倒すのだけはすんでのところで回避したが、凛音の腰のあたりにしがみつくような形になってしまう。
その腰は意外なほど細い。
同時にふんわりとしたバニラのような香りが漂ってくる。
「ご、ごめん!」
急いで飛び退いたときに視界に入った凛音の耳は赤くなっていた。それを認識するや自分の耳も熱くなっていく。
「ほんとごめん。調子に乗りすぎた。ごめん」
言い訳も思いつかず謝罪だけを口にする。
「い、いいんです。私も煽りすぎたっていうか……」
凛音も俯いて言葉を探しているようだ。
頭の中では一瞬の交錯の際に感じた香りが蘇っていた。
どうしてあんなにいい匂いがしたのだろうか。大きく言えば甘い香りという括りになるだろうが、それだけでは形容できない、なにか情動を揺さぶり感性に訴えかけるものがあの香りにはあった。バスケをしてから制汗剤などは使っていないはずだ。もとからなにかつけていたのだろうか。それとも、本来匂いではないものを匂いとして感じてしまったのだろうか。つまり、俺のなんらかの検知機能が彼女自身のもつなんらかの要素に反応して、その妙味の発露が匂いという形であらわれたのだろうか――
「あの、なにか言ってください」
凛音は胸の前で両手の指をくっつけたり離したりしている。
「エアホッケーしようか!」
重い空気を吹っ切るつもりで俺は言った。
◇
エアホッケーは軍鶏の喧嘩のように無闇と白熱した。
バスケとダンレボでわかりかけていたが凛音はなかなかの負けず嫌いらしい。
でもそのおかげで会話のしづらさなんてどこかへ飛んで行ってしまっていた。
ゲームセンター内をぷらぷら歩き回っているとクレーンゲームが目に入った。
「あれ欲しいです」
凛音が指さしたのは手足長めのクマのぬいぐるみだった。キッチュなデザインというのだろうか、すこし気味悪くも思える。
「やれば?」
「やれば、じゃなくて先輩が取ってくださいよ。こういうとき男性が腕前を披露するものでしょ?」
「きみゲームうまいじゃん」
そういえばいずみはゲームが下手で、なにをやらせても人並みにはできないのであまりゲームセンターには来なくなったんだっけと思い出す。クイズゲームならと二人でプレイして、答えが割れたときに俺の答えを優先した結果ミスになり、本気で拗ねていた。あのときはご機嫌をとるのにクレーンゲームの景品をプレゼントしたのだった。
「先輩?」
気が付くと凛音が俺の顔を覗き込んでいた。
「あ、いや。なんでもないよ。いいよ。取るよ」
コインを入れて横移動ボタンを押す。凛音が筐体の横に回って指図してくる。
「もうちょっと奥。あ、行き過ぎです。あー」
「もう一回だ!」
3回目のトライでぬいぐるみの首が持ち上がったが、穴に落とすまでには至らない。
4回目でようやくストンと取り出し口に収まった。
「はい。あげる」
「えへへ、ありがとうございます」
凛音は嬉しそうに照れ笑いを浮かべている。
「まだ時間ありますか? 映画観に行きませんか?」
「いいけど、何観たいの?」
「なんでもいいんです」
凛音がスマホを取り出す。上映予定を調べているようだ。
「時間的にちょうどいいのは……、これ観ませんか? 原作漫画なんですよ」
「それ知ってる。ゲイのやつだ」
それは女性漫画家が描いた物語の実写映画化で、ゲイカップルの生活を料理を交えながら描くものだった。
「行ってみようか」
「はい!」
大事そうにぬいぐるみを抱きかかえる凛音と、ゲームセンターをあとにした。
◇
シネマコンプレックスは大型商業ビルの8階に入っている。
シートに腰を下ろしてからほどなく、映画本編が始まった。
邦画特有の暗めの画面作りに、適度にコミカルな演技が不思議とマッチしている。
だがこれは……、原作漫画を読んだことはないが、 いささか客層の想定が高めなのではないか? すくなくとも男女で好んで観に来るタイプの映画ではなさそうだ。
退屈しているのではないかと凛音のほうをみると、意外にも真剣にスクリーンに見入っていた。薄暗い映画館の中でも乳白色とわかる肌が、銀幕の光を柔らかく反射し、彼女の整った横顔を浮かび上がらせていた。
幸い映画としては面白かった。派手な起承転結があるわけではないが、日常の中のささいなやり取りから心の交流を描き出し、わずかな緊張と弛緩をうまく使ってドラマを作り出していた。
上映時間が終わり程よい満足感を得てシアターを出ると、窓の外はもう薄暗くなっていた。
「あったかい気持ちになりましたね」
凛音は大きく伸びをした。つるし上げられたぬいぐるみは苦しそうだ。
「いい時間だね。何か食べようか」
「はい!」
同じ商業ビルに入っているカフェレストランに移動した。
俺はアメリカンコーヒーと焼きカレー、凛音はソーダフロートとボンゴレビアンコを注文する。
話は自然とさっき観た映画の話になった。
「ゲイもいろいろ難しいんですね」
凛音はソーダフロートをつついている。
「ゲイだけじゃないと思うんだよね。あの映画の主題はおそらく個人的生活と社会的生活の対比であってさ、家族と恋人、田舎と都会なんかが対比されていたわけだけど、そういう個人の中での葛藤というのは誰にでも生じうるわけだからそこが視聴者の共感を得やすい部分になってるんだと思う。シリアスとコメディの組み合わせ方も人物の多面性や生活のリアリティを描くのにうまく――」
「先輩って」
凛音はソーダフロートをひと口飲むとクスリと笑った。
「意外と理屈っぽいんですね」
「……よく言われる」
認めざるをえまい。俺は、時として、理屈っぽい。
同じことをいずみにも言われた。
付き合い始めたのは高2の夏だが、中学からの同級生なのでお互いの性格はよく知っている。彼女はときどきこちらが心配になるほどの楽天家で、人見知りも物怖じもしない。なにかというと考えすぎる質の俺はいずみのそういう前向きなところに惹かれていた。いや、救われていたと言ってもいいかもしれない。
逆はどうだろう。いずみは俺のどういう部分を好きでいてくれたのか。俺は彼女のためになにができていたのか。はっきりと答えられない俺が不甲斐ないのか、それともそういったギブアンドテイクでは説明できないような関係を築けていたということなのか――
「どうかしましたか?」
凛音が怪訝そうにこちらを見ていた。
「いや、なんでもない」
「先輩、いっこ聞いてもいいですか」
何気ない風の聞き方だった。
「なに?」
「進路ってどうするんですか?」
「俺? ××大学に行くよ。推薦で決まったんだ」
「そうですよねー」凛音はからからと笑った。「受験だったらこんなところで遊んでないですよねー」
なんだか嬉しそうにスパゲッティをフォークに巻き付けている。
「食べ終わったら駅まで送るよ。もう遅い時間だから」
「ありがとうございます。一回公園に戻りませんか。駅と方向同じですし」
「わかった」
ボンゴレビアンコを食べ終えた後、凛音は解け溶けきったソーダフロートをゆっくり飲んでいた。その様子が名残惜しそうに見えて、俺も少しゆっくりコーヒーを飲んだ。
◇
公園に戻ったころにはあたりはすっかり暗くなっていた。
周りを見渡しても俺たちの他には誰もいない。バスケットコートという都会の空白から空を見上げると、決して広くはない闇の中で星が懸命に瞬いていた。
「今日は本当に楽しかったです」
凛音はぬいぐるみを持った手を後ろに回し、その場でくるりと一回転してみせた。
「俺も楽しかったよ」
「……実を言うと、インターハイの前からこの公園で先輩のこと見かけてたんです」
「え、そうなの?」
全然気付かなかった。
「それが医務室に連れて行ってくれた人と同じだってわかった時、私少し舞い上がっちゃって。どんな人なんだろうって気になって学校とか学年とか調べたりして。ストーカーみたいで引きましたか?」
「引いたりしないよ。声かけてもらった時、嬉しかった」
その気持ちに嘘はない。
二、三歩距離をとって俯く凛音。そのまま言い募る。
「今日思い切って声かけたのは、先輩もうすぐ卒業しちゃうから。もう今しかないって思ったんです。いちにち付き合ってもらって少しだけ先輩のことわかった気がします。こんなふうに笑うんだとか、こんな感じ方をするんだとか。私と同じところもあれば違うところもあって、知れば知るほどもっと知りたい、近付きたいと思えて……。だから――」
凛音は一旦言葉を区切り、顔を上げてまっすぐ俺の目を見つめた。
視線がぶつかったまま一瞬の静寂が訪れる。
大きく息を吸う音が俺の耳にも聞こえた、次の瞬間。
「好きです。付き合ってください」
意を決したように放たれたその言葉を受け止めるのには少しの時間が必要だった。
わずかな間にいくつもの言葉が浮かんでは消えた。
「気持ちは嬉しいよ。でも俺は大学に行ってこの街を離れるんだ。付き合ったって何ができるわけじゃない。そんなの嫌だろ」
凛音は首を横に振る。
「遠距離でもいいんです。私一年たったらきっと先輩と同じ大学に行きます。そうしたら……」
楽天的だった。遠距離で恋が続くと思っている屈託の無さも、一年先の気持ちに疑いを持たない浅慮さも、相手に合わせて志望大学を決めてしまえる軽薄さも、すべてがいっそ軽蔑に値すると言っても良かった。
だが彼女の真剣、彼女の切迫、彼女のひたむきに名前をつけるとしたら、それは情熱だった。
自分に足りないものを思い知らされたような気がして、俺は急に恥ずかしくなった。
同時に頭に浮かんできたのはいずみのことだった。
俺にもうすこし情熱があれば。もうすこし勇気があれば。二人の関係は今と違ったものになっていたのかもしれない。あの笑顔を曇らすこともなかったのかもしれない。
あるいは、まだ遅くないのかもしれない。
「ごめん」自然と口が動く。「好きな人がいるんだ」
「そう……ですか……」
肩を落とし、押し黙る凛音。
何かを咀嚼するような気の滅入る沈黙の後で彼女は努めて明るく声を出した。
「わかりました! 残念ですけどしょうがないです! 今日のことは忘れてください。私も忘れますから」
「うん」
言葉とは裏腹に凛音は胸の前で大事そうにぬいぐるみを抱きかかえている。
そのまま背を向けた。
「さようなら」
足早に去っていく凛音の後ろ姿を見ながら、俺は彼女は泣いていたのかもしれないと思った。ただ俺にはその涙を見る資格がなかっただけだ。
凛音の情熱に当てられて俺の中に灯った熱が、胸の中で広がりだしていた。
腕と足に活力が満ちてきて向かうべきところを教えてくれる。
スマートフォンを取り出してメッセージを打つ。
――会いたい
◇
とっくに閉店作業を終えたふくもとパンの店先で、いずみは待っていてくれた。
トグルボタン付きのダッフルコートを着て、指先を寒そうに擦り合わせている。
「なによ」
ぶっきらぼうな物言いだった。
「一週間ぶりにLINE来たと思ったらいきなり会いたいとかってなんなわけ? こっちにも都合ってものがあるんですけど」
「しょうがないだろ。会いたかったんだ」
答えになっていないので会話が止まる。
あまりにも簡単に訪れた沈黙に二人して戸惑う。
「ほら、今日2月14日じゃん」
あらためて口にするのは火が出るような恥ずかしさだった。
「だから?」
「……チョコとか、欲しいかなーって」
「チョココロネ。140円」
それは中2のときのバレンタインデーで貰ったやつだ。
「嘘」いずみは目を逸らしてぽつりと言った。「ほんとはこっち」
ダッフルコートの中から出てきたのは手のひらに収まるほどの大きさのベージュのラッピング袋だ。赤色のリボンが掛かっている。
「用意してくれてたんだ」
「い、一応ね。一応」
いずみが突き出してくる袋を俺は両手で受け取った。
手作り感満載のそれの感触を確かめているうちに、正直な気持ちを伝えたいという衝動が湧き上がってきた。
「いずみ、俺は自信がなかったんだ。ふたりで将来のことを話し合って納得いく結論が出せる自信も、離ればなれになったときにお前の気持ちを引き留めておける自信もなかった。だからお前のことほったらかして、疎遠になって。卑怯なことしたと思う。ほんとうにごめん」
いずみは俯いたまま黙って俺の話を聞いていた。
「だけど今なら言える。俺はお前のこと好きなんだ。一緒にいられなくても心が繋がっていたいんだ。週末には帰ってくるよ。LINEも送るよ。今まであんまりやってこなかったけどさ、記念日だって大切にする。だから、俺ともう一度付き合ってくれないか」
こっちを向いてほしかった。想いを込めて彼女の肩を見つめた。
いずみが顔を上げたとき目には涙が溜まっていた。
「遅いよ……。馬鹿」
拗ねたような甘えたような口調だった。その声音だけですべてが伝わった。
背中から手を回して抱きしめた。頬と髪が触れたとき、冬の夜が彼女の熱で溶けていくのを感じた。
「ごめんな。愛してる」
長い抱擁で互いの気持ちを確かめ合う。先のことなんてわからなくてもこの気持ちがあれば生きていけるような気がした。
それはいずみも同じだと、信じられたから。
自然消滅寸前の彼女とヨリを戻す方法 まずは可愛い後輩を用意します 田中 四季 @shikitanaka
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