将来の夢を書かされた。(2年B組の場合)
2月の半ば、バレンタインデー当日の教室は、女子たちの恋話で満ちていた。それに小耳を立てる男子も、ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべている。
突然私は吐き気を催した。急いでトイレへ駆け込む。
便器に吐き出された胃液が、水面に円を描く。その模様が次第に輪郭を持ち始め、最愛のあの人の顔の形を作った。
あの日、彼はクラスメイトの男子たちと同じように、ニヤニヤと笑いながら私を見つめ、声をかけてきた。もともと男性が苦手で、異性との交流を避けていた私を気遣ってのことだったようだ。
――男の人って意外と親切なんだな。
そう思いながら話をしているうちに日が落ち、危ないからと彼が家まで送ってくれることになった。帰り道、歩くたびに彼の手に触れてしまい、緊張する。そんな私の様子を横目で見て、彼はそっと手を握ってくれた。
初めての男性との接触に、体内の汗がダムの決壊のようにあふれ出る。そんな私を見て、彼は優しく微笑み、周囲に聞こえないよう小さくつぶやいた。
「俺、お前のことずっと好きだったんだ。少しだけ、二人きりにならないか?」
世界が止まった。
こんな私を好きになってくれる人がいるなんて――。嬉しさと困惑が入り混じり、どう返事をすればいいのか分からず戸惑っていると、彼は私の手を引いて人目につかない場所へと連れて行った。
そして、何度も身体を交えた。
次の日も、そのまた次の日も、私は彼と繋がっていた。それが何よりも幸福だった。多少強引で、展開が早い気もしたが、恋愛に時間は関係ないのだと思い、気にはしなかった。
そして今日はバレンタイン。最愛のあの人に、チョコレートではない特別なプレゼントを届けようと決めていた。私は彼が来るのを心待ちにしていた。
喧騒に満ちた教室の扉が開く。
草臥れたスーツを着て、ぼさぼさの髪をかきながら、姿勢の悪い男性が入ってきた。
顧問の小沢先生だ。両腕には大量のプリントが抱えられている。
だらしない見た目のせいか、女子たちの間では笑い話のネタになっており、彼が話し始めるとクスクスと笑い声が漏れた。しかし、彼には妻子がいると聞く。人は外見だけで判断してはいけないのだなと改めて思った。
「今日はアンケートを取る。しっかり書くように」
端的にそう告げると、先生は抱えていたプリントを配り始めた。
やがて、2年A組の全員に行き渡り、教室のあちこちでひそひそとアンケートの内容を読み上げる声が聞こえてくる。
【将来の夢について】
将来の夢なんて考えたことがなかった。
だが、彼のことを思い浮かべると、迷うことなくペンを走らせ、自分の想いを空欄に書き込んだ。
一人ずつプリントを提出し、先生は内容には触れず軽く一言を添える。
私も内容が見えないよう、プリントを二つに折りたたみ、先生に手渡した。
その空欄に綴った私の夢を、先生に見せる。
【
彼の顔が青ざめる。
私の顔と、プリントに記された文字を何度も見比べていた。
その顔には汗が滴り落ちる。
少し可愛いな、と思った。
将来の夢を書かされた。 マジンミ・ブウ @men_in_black
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