ヒロインはわたしじゃない

りお しおり

ヒロインはわたしじゃない

 少女漫画に出てくるような、報われない男の子が好きだ。

 ヒロインのことが好きで、一途で、誰よりもヒロインを大切に想っていて、だけどけっして恋は実らないかわいそうな役どころだ。


 ヒロインの相手をAくんと言うならば、報われない男の子はBくんといったところか。

 BくんはAくんの友だちだったり、ヒロインの友だちだったりするけれど、相談役であることが多く、ヒロインへの好意はわたしたち読者しか気づいていなかったりする。あるいは勢いあまって告白することもあれば、ヒロインとAくんが仲違いした隙にヒロインとつきあうこともある。その場合でも、ヒロインは必ずAくんのもとに戻っていく。どんな困難が待っていても、ヒロインはAくんが好きなのだ。


 Bくんは一貫して、ヒロインを深く想っている。ヒロインに告白するのもつきあうのも、苦しそうな彼女を見ていられないからで、いつでも彼女の幸せを願っている。だから彼女が最後にAくんを選んでも背中を押すし、何なら元サヤに収まった二人の相談に乗り続ける。

 この上なく、いい人である。


 わたしはずっと、Bくんが好きだった。なぜヒロインがAくんを好きなのかも謎だったし、一瞬Bくんになびいたくせに結局Aくんを選ぶのも信じがたかった。

 だいたいAくんというのは俺様だったり、闇が深かったり、家庭環境が複雑だったり、本人が捉えどころのない人間だったりする。それに比べてBくんの何と穏やかで懐の深いことか。その上、一途に自分を想い、大切にしてくれるのだ。

 Bくんのほうが断然、魅力的だ。


 小林くんは、Bくんみたいな人だ。

 菜摘の、Bくんだ。菜摘のことがずっと好きで、想いを秘めたまま、同僚として、友人として、菜摘の傍にいる。

 わたしは、そんな小林くんに恋をしている。


 菜摘もまた、ヒロインにふさわしい子だ。きれいで、誰にでも優しくて、いつも一生懸命で、しっかりしてるけどたまに抜けている。同性のわたしから見ても菜摘は素敵な子で、小林くんが好きになるのもわかる。

 ただ一つ、菜摘が少女漫画のヒロインとは違うのは、彼女の彼氏がクズだということだ。俺様だけど決めるときは決める男でも、彼女を守ろうと命をかけられるわけでも、劇的な愛があるわけでもない。Aくんとは非なる存在だ。


 菜摘の彼氏はふらふらしている人だ。それは定職についていないという意味でもあるし、頻繁にどこかいなくなるという意味でもある。「そんな男別れなよ」と周りが言うような典型的なタイプだ。

 わたしもそれに近いことは言ったことがあるけれど、今は菜摘から話を聞いても言わないようにしている。周りが言ったところでたぶん意固地になるだけだろうから。


 昔どこが好きなのか聞いたら、菜摘は「自由なとことか、なんかほっとけないとことか、みんな色々言うけど、私は彼がいるからがんばれるし、自分でいられるの。わたしが彼をしあわせにしてあげたい」と少女のようにかわいらしくはにかんだ。

 わたしはもう、菜摘とは精神構造が違うのだと思い知った。彼女は見返りなんて求めない。愛されたいとか、何かを与えられたいなんて思っていないのだ。


 じゃあ小林くんはどうなのだろう。

 菜摘に告白する気はないのか聞いてみたことがある。彼は自分の気持ちがバレていることに驚いていたようだけど、困ったような笑みを浮かべながら否定した。

「僕は彼女が誰かのためにこそがんばれるところとか、そういう強さや優しさが好きだけど、でも彼女は僕がしてあげたいと思うようなことを望まない人だから」

 小林くんはBくんらしく想い人の幸せを願い、与える人なのだ。菜摘もまた、与える側の、してあげたいと思う人なのだ。それではうまくいくはずなんてない。


 わたしが菜摘だったらよかったのに。そうすれば小林くんに想ってもらえた。

 だけど菜摘なら小林くんを好きにはならないし、菜摘の中身がわたしのままだったら小林くんは恋をしなかっただろう。

 ヒロインでもBくんでもない、二人の同僚で友人でしかない、いわゆるモブのわたしの恋心など、誰にも気を留められることもない。


 想った分だけ、想った分以上に想われたいと願うわたしの恋が実ることはないだろう。そして、与えたいと、幸せにしてあげたいと願う恋をする小林くんの恋が実ることもないだろう。


 わたしたちの恋は、叶うことはない。




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