第7話 外出

 夜を待った。日差しが眩しいから。

 スマホを待って外に出た。スマホ画面の眩しさは我慢する。

 硬い道を踏む。小石がめり込む。痛くはない。

 冬である。空気が程よく気持ちよい。

 何を目指しているかわからない。

 ヒトが通り過ぎる。こちらを見、立ちすくむ。ただそれだけ。

 じゃりじゃりという音が、頭の中から微かに響く。

 あの日。

 最初の日。

 何を口に入れたか覚えていない。

 口中から脳に移ったあれは、何か。

 じゃり、じゃりじゃり。ただ音がする。それだけ。

 あれから食事をしたことがあったか、思い出せない。

 月が紫の糸くずになったのは、あの後だったろうか。

 足先が、ぬるりと何かにめり込む。

 ぬめりと共にまとわりつくのは、冬の夜風に育てられた薄氷か。

 スマホが眩しい。一文字叩くたび、目を瞑る。

 眩しさを我慢する。

 じゃりじゃりと音がする。

 頭のてっぺんから、額の内側に移る。

 文字を打ちたい。止めてはいけない。

 紫色の月は、月なのか。それとも違う何かが目に張り付いているのか。

 スマホが重い。眩しい。我慢できない。


 あの日。何かを食べた。

 それだけ。ただ、それだけ。


 

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