死んだら即著作権が消滅

ちびまるフォイ

100年は生きてもらえる作者

「最新の映画ですが、映画監督の急死により動画サイトで無料公開!」


ニュースサイトを見て目を疑った。

コメント欄には劇場に足を運んだ人の阿鼻叫喚。

ちょうど見たかったので助かった。


「死んだら著作権がすぐに消滅するのって便利だなぁ」


作者死亡したての映画を見て、あまりの名作に拍手を送る。

悲しいのはこの拍手や高評価が作者に送られないくらいか。

いや天国とかに届いているだろう。たぶん。


「さて、と。今日も執筆しますか」


売れない小説家ではあれど、一応の執筆作業はある。

著作権が切れた作品を文字に起こしたりしている。

出版社からも一定の賃金もほそぼそともらっている。


昨日死んだバンドグループの著作権が切れたので、

その曲をイヤホンで流しながら執筆をはじめる。


ふと、スマホを見ると通知が届いていた。



>速報! 研究者死亡により、学術書が無料公開!



「ああ、著作権の消滅通知いれっぱだった」


死んだらすぐに著作権が切れるようになってから、

あらゆる研究書や学術書、はてはハウツー本まで。

すぐに教科書や図書館に出回るようになり教育水準は向上。


せっかくなので作者死亡したての学術書を読むことに。


「へえ、面白い考え方だなぁ。これはネタにできるかも」


ちょうど新作を書こうかなと思っていたところ。

学術書にある理論を使って実験的な新作を作り上げた。


依頼されていた著作権切れの文字起こし書と、

新作の2つをもって出版社へと出向いた。


「これ、今月分の本です」


「ああ、どうも。また来月もよろしくおねがいしますね」


「あの。ちょっとまってください」

「まだなにか?」


「実は新作も書いたんです。出版お願いできますか?」


「ふーーん。まあ、社内でコンペには出してみますよ」


「お、お願いします!」


新作も受け取ってもらった。

評価はすぐに電話できた。


『先生! この新作すごいですよ!』


「コンペ受かったんですか!」


『受かるに決まってるでしょう! もう出版してます!

 大人気で書店から本が欠品して、転売が高騰するほどです!』


「す、すごい……!」


『おめでとうございます! 歴史に名を残す名作家の仲間入りですよ!』


「やったーー!!」


『お互いに忙しなりますね、先生!!』


新作は社会現象となりあらゆるランキングを席巻。

映画を始め、歌になったり、漫画にされたりのマルチ展開。


出版社やら著作権使用料からくる印税収入は、

もはや桁数を数えるのがバカバカしいほどの金額がやってきた。


「人生がこんなに変わるなんて! 最高だ!!」


今まで執筆を続けてよかった。

大喜びしていると昔の学生仲間から電話が来た。


「もしもし?」


『久しぶり。テレビみたよ。お前すごいな』


「でへへ……。そんなことは……ふひひ」


『でさ。今も〇〇町に住んでるの?』


「うん。でも近々ひっこしも考えてる」


『いやまだ引っ越さないほうがいい』


「え? なんで?」


『まあいろいろあるから』


「……?」


その時だった。

ピュン、とわずかな音とともに窓ガラスに穴が空く。

顔をわずかに横に振ってなければ眉間に銃弾がめり込んでいただろう。


「え……?」


後ろを見ると、それた銃弾が枕をぶち抜いていた。


『チッ。もう少しだったのに』


「えええ!?」


通話はそれきりだった。それだけで十分だった。

自分が命を狙われていることがよくわかった。


カーテンを締めてドアの鍵を書ける。

スマホはGPSを切って、手元に置かない。


「な、なにが起きてるんだ……?」


布団にくるまってブルブル震えていると、

ドアの向こうから頼んだ覚えのない配達がやってくる。


「〇〇さん、配達です。ここを開けてください」

「ヴーバーイーツです。宅配にきました」

「大家です。ここを開けてください」


「怖い怖い怖い! なんなんだよぉ!!」


ドアノブをガチャガチャと動かす音が聞こえる。

開けたら最後何をされるかわからない。

なんで命を狙われているのか。


「ま、まさか……著作権めあてか……?」


作者が死んだら著作権はその場で切れる。

著作権が切れたらその作品はアレンジも加工もし放題。


わざわざ高い使用料はらうことなく映画もできる。

漫画だって、リメイク小説だって思うまま。


大ヒットして話題になっている今が一番旬。

このタイミングで作者が死ぬことが一番都合が良い。


「最近やたら人気の作者が死んでるのって……」


それ以上を考えたくなかった。

自分が命を狙われているのがわかったから。

電話は使えない。使えば場所が特定されそうで怖い。


窓を開けて裏から外に出る。

幸いにも交番は家から近かった。


「はぁっ……はぁっ……見えた!」


交番には駐在している人がいた。


「た、助けてください!!」


「あなたは人気作家の……!」


「それどころじゃないんです。命を狙われてるんです!!」


「命を?」


「みんな、俺の著作権の消失を求めて……!

 お願いです。助けてください!」


警官は不思議そうな顔で答えた。


「なぜです?」


「え? なぜって……僕今殺されそうなんですよ?」


「死ねばいいじゃないですか」


「なんてこと言うんですか!」


「あなたが死ねば、名作はもっと一般に広まります。

 お金が無くて手が届かない人にも、です。

 あなたの名作はもっと多くの人に広まるべきだ」


「はあ!?」


「もっとみんなのために、あなたは死んで無料公開すべきだ」


「僕が生きていたら、もっといい作品が今後書けるかも!

 その可能性すら死んだら無くなるんですよ!」


「大ヒット作家の次回作なんて……。

 初回を超えた事例なんてありませんよ」


「その初の例になるって言ってるんです!!」


「そんな確率の低いバクチに誰が付き合うんです?

 あなたはさっさと死んで、著作権を手放すのがみんなのためです」


「ちょ、ちょちょちょ!! 銃口をこっちに向けないでください!!!」


「了解。射殺します」


「ひいい!!」


交番から出たときだった。

真っ黒い防弾リムジンが警官を跳ね飛ばした。


「先生!! 早く乗って!!」


「出版社の編集さん!?」


車に飛び込むとすぐに発進。


「家に行っても先生いなかったから、ここかなと思ったんです」


「もう少しで殺されるところでした……」


「先生は今や大人気作家。命を狙われる身です」


「思い知りました……」


「ですが安心してください。著作権切れの条件は脳死。

 我々、出版社がそれだけは絶対に阻止します」


「なんでこんなに親身になってくれるんですか?」


「先生。考えてみてくださいよ。

 もし著作権が切れてしまったら、本はどうなりますか?」


「まあ普通に読めますよね。図書館やらネットやらで」


「出版社は商売あがったりです。だから消して死なせるわけにいかないんですよ」


「なるほど……。安心しました……」


「さあ、出版社にいきましょう。先生の場所も用意してます」


「場所?」


「先生と同じように命を狙われる作家さんが後をたたないんです。

 そこで我々が消して脳死しないように守る秘密の場所があるんです」


「セーフハウスですね! 助かります!」


「もう少しの辛抱ですよ!」


車はスピードをあげて出版社に向かった。

出版社につくと何重ものセキュリティを超えて秘密の部屋へ。


「ここがセーフハウスですか……?

 あまり住みごこちはよくなさそう……」


「まあ、人が一般的に暮らすわけじゃないですからね」


「でも、僕はここでしばらくは大人しくしているんでしょう?」


「ですね」


「トイレも無いのにここで隠居するのはムリないですか?」


「大丈夫です。作家のみなさんはみんなここで生きてますから」


編集が部屋の電気をすべてつけた。

暗くてまだ気づいていなかった。


部屋にはずらりと培養液漬けにされている脳が浮いていた。


「こ、これは……!?」


「著作権が切れてしまっては出版業界は致命傷。

 だからここで皆さんを生かして守ってるんですよ」


「これが!? 脳みそだけ残されたのが生きてるって言えるのか!?」


「あはは。先生だってわかってるくせに」


編集者のうしろから白衣とメスをもった人間がずらり現れる。



「著作権切れの条件は脳死。

 つまり、脳さえ死んでいなければ作者は生きているんです」



部屋にはまた一つ脳が陳列された。

培養液が腐るまでの100年は著作権が保持される見込みだ。

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