配信者たちの2月14日

金澤流都

それからのあいつらは安定のイチャイチャをしていた!

 竜司くんのご実家での楽しい年末年始から1ヶ月とちょっと。街はすっかりバレンタインムードになっていた。そりゃそうだ2月だもの。

 最強寒波とやらが到達し、東京の街は凍えていた。異星由来素材の普及である程度天候を調整できるとはいえ、日本中の街をあっためられるわけでない。

 キムチ鍋をつつきながら観ているテレビでは、豪雪で大変なことになっている秋田県の村が写っており、竜司くんに「あのアニ? とかいう村って遠いの?」と尋ねると、「阿仁はクマ牧場っスね、でもおれがガキのころにつぶれたっス」というピンボケの返事が返ってきた。


 なぜ竜司くんとキムチ鍋をつついているのかというと、竜司くんの部屋のガス暖房が故障して、直すのにしばらく時間がかかるとかで、僕の部屋に居着いてしまったのである。

 ノアさんとこに行け、と言ったのだが「むむむむ無理っスよ! 女の人の部屋に上がるって、それって『同意』っスよね!? 無理っス!」となったのだった。それは違うよと言っても無理の一点張りで、結局僕の部屋でスウェットを着てゴロゴロしている。


「おーい。ぼーいずらぶどもー」


 寧々子さんが全く了承を得ず入ってきた。


「ぼーいずらぶ?」


「知らないのー? 秋田県には腐女子はいないのかー?」


 寧々子さんがいらないことを言う。よく分からない顔の竜司くんに「まあ分かんなくても生きていけるから大丈夫」と言っておいた。


 でんでんっ! と寧々子さんがなにやら荷物を下ろす。美容院に行ってきたのではなかったか。うんそれは間違いない、髪色が変わっている。いままで金色強めだったが今回は赤強めだ。


「チョコレート・ファウンテンしようず!」


「ちょこれーと・ふぁうんてん?」


「要するにチョコフォンデュだ。やったことある?」


「あるわけねーっスよ。蓮太郎さんは?」


「ないねえ……」


「よーし。じゃあ始めますか……ってぜんぜん準備してないじゃん」


「えっ、連絡もらってたんです? キムチ鍋食してたんですけど。まだシメの雑炊やってないんですけど」


「そう? じゃあ……ノアちゃんも誘って明日やろっか。連絡してたのにキムチ鍋つついていたバツとして君たちにはバレンタインプレゼントの用意を命じる」


 後からスマホを確認したら、ばっちり寧々子さんから「チョコレート・ファウンテンしよ!」とメッセージが来ていた。


 というわけで、バレンタイン大会は明日に延期となった。次の日、僕と竜司くんはデパートにプレゼントを探しに行くことにした。


 ◇◇◇◇


 かつてバレンタインデーというのは女性から男性にチョコレートを贈る日であったそうだが、しかし本来のバレンタインデーが伝わるにつれ、男性からも恋人にプレゼントするのが当たり前になった。

 お互いにプレゼントしあうというのは素敵なことだと思う。

 なるべくきちんとした服装をしてデパートを覗く。バレンタインギフトをたくさん売っている。もう品薄になっているチョコレートもけっこうある。


「こーゆーのでいいんスかね? ノアさんこのキャラ好きなんスけど」


 竜司くんはかわいいキャラクターの缶に入ったチョコレートを手にとる。


「ノアさん大人だからねえ……そういうのはバレンタインのプレゼント向けじゃないなあ」


 とかなんとか言いながら僕が手に取ったのは特撮ヒーローの缶入りチョコレートである。自分用に……と思ったのだが竜司くんにジト目で見られているので元の場所に戻した。


「というかチョコレートじゃないものがいいのかな。このあとさんざんチョコレート食べるわけだし」


 僕がそう提案すると竜司くんはうむうむと頷いた。


「それがいいんじゃねっスか。あっちでフラワーギフト売ってるっスよ」


 おお、花。それはいいじゃないか。

 フラワーギフトのコーナーを覗いてみると、けっこう可愛くない値段で花が売られていた。こういうのがいいのかな。でも花って枯れるしな。

 しかし姉貴がフリマアプリで集めていた、著者が筆を置いてしまって連絡が取れず、絶版になっている伝説の少女漫画に、誰よりも大きな花束を好きな女の子にプレゼントする日を夢見る男の子、という描写があったな……。

 しかしその男の子は結局好きな女の子に弟みたいなものとしか思ってもらえず、女の子は新聞記者と駆け落ちしてしまうのである。女の子はハッピーかもしれないが男の子は悲恋ではないか。


 ウームと唸っていると竜司くんは思い切りよく、見事な鉢植えの花を買っていた。アネモネというやつらしい。そうか、鉢植えならうまく育てれば何回も楽しめるのか。僕はゼラニウムとかいうなにやら可愛くていい匂いのする花を選んだ。


 二人でアパートに戻ると、すでにノアさんが到着していて、寧々子さんとチョコレート・ファウンテンの準備をしていた。マシュマロやらイチゴやらバナナやらリンゴやら角切りのケーキやら、とにかくウプウプになりそうなほどのスイーツ塩梅である。

 これは酢昆布とか買ってくればよかったのかな。なにかで味変しないとキツくないか。


「おやおやー? プレゼントあるんじゃーん」


 ふと顔を上げるとノアさんの自律ドローンが飛んでいる。配信してるの!?


「えっ、これって配信してるんです!?」


「そうだヨ? だってきょうダンジョンサボってバレンタインやってんだから」


「題して『名もなきパーティの楽しいバレンタインデー』です! もう同接1万超えてるので!」


 なんだその緊張するバレンタインデーは。とにかくチョコレートの泉と用意されたスイーツを見比べてから、ずいと花の包みを渡す。


「おーかわいい花ー。しかもいい匂い。蓮太郎にしてはセンスあんじゃーん」


「わあ、こっちの花も素敵ですよ。チョコレートっぽい色なのも素敵です。ありがとう竜司くん」


 テーブルに置かれたノアさんのタブレットにチャットが走る。


『蓮太郎と竜司に花をプレゼントするセンスがあったとは』


『案外花ってもらうと嬉しいもんね』


『ここはイチャイチャパラダイスか!!!!』


「よっし! 準備おっけー! チョコレート・ファウンテンするよ!!!!」


 寧々子さんの号令で、全員テーブルにつく。フォークで好きな具材をブッ刺し、チョコレートに浸してモグモグする。うっまあ。


 ……具材がぜんぶなくなるまで配信するよ! と寧々子さんが視聴者に言っていたせいで、全員お腹パンパンのウップウプになるまでチョコレートに浸した甘いものを食べることになった。なお意外とおいしかったのは干し柿だった。


「明日のニキビは確定っスね」


「いいんだヨたまにハメを外したって。明日はお茶漬けで済ませよーっと」


「ちょっとうぷうぷするけど楽しかったですね」


「はあ……当分チョコレートはいいや……」


 配信を終了し、ノアさんが帰って、その少し後に竜司くんのアパートの暖房が復活したと連絡があった。

 竜司くんが帰ってから、寧々子さんがずいと包みを渡してきた。


「なんですこれ」


「バレンタインのプレゼント! 開けてみ!」


 僕は寧々子さんに渡された箱を開けた。中からは、かなり凝ったデザインの、タコのイヤーカフが出てきた。ちゃんとシルバー製の刻印もある。


「すごいもんもらっちゃったな……ありがとうございます」


「いーんだヨ。蓮太郎はあたしの命の恩人だからネ。つけてあげる」


 寧々子さんはぱっと僕の手元からイヤーカフをとると、僕に少しかがむように言った。イヤーカフを取り付けて、その次の瞬間おもいっきりキスしてきた。

 赤面しながら寧々子さんを抱きしめる。

 なんて最高のバレンタインデーだ。(おわり)

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配信者たちの2月14日 金澤流都 @kanezya

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