かぎしっぽは気まぐれ屋

長月瓦礫

かぎしっぽは気まぐれ屋


風呂のふたを陣取る様に、図体のデカい猫が居座っている。

玄関の鍵が開いており、部屋中が荒らされている。

何かと争ったような形跡、猫の足跡がそこらじゅうについている。

やけに獣臭い。俺がコンビニに行っている間に何があったのか。


「どうも、おかえりなさいまし。

あなたがコンビニに行っている間に泥棒猫が来たので、捕まえておきましたよ」


手足をたたんで、蓋の上にどっしりと座っている。

バスタブの中が何やら騒がしい。

ふたを開けると、しっぽが鍵の形をしている茶色の猫が空のバスタブにいた。


ウチの猫がデカいのか、それともこの猫が小さいのか。

よく分からないが、二回りほど小さいかぎしっぽの猫がいる。


家の鍵とまったく同じ形のしっぽをしている。

全身の毛を逆立たせ、うなり声をあげて威嚇している。


「よくもやったな、あのデカいの! どこ行った、人間を呼ぶなんて卑怯だぞ!」


「ずっとあんな感じなんですよ、やってられませんね。本当に」


俺の足元にさっと隠れる。この図体でここに追い込んだのを褒めるべきか。

部屋を荒らしたことを謝罪させるべきか。

とりあえず、この茶色の猫の言い分を聞くか。


「俺の持っている鍵より太い尻尾をどうやってドアノブに差し込んだんだ」


「何言ってるんだ、どこからどう見ても進化の証だろう!

オマエらが使う鍵を真似るためにどれだけ努力したか! 

しっぽがないから分からないだろうな!」


「それで不法侵入されちゃあ、たまったもんじゃないですね。

たった三分間の犯行ですにゃあ、言い逃れできませんよ」


猫は金目の物を狙うような生き物じゃないはずだ。

誰かの命令を聞いて実行するでもないし、何をしに来たんだ。


「ここらでエラソーにしているデブ猫がいると聞いた! そしたら捕まった!

ここから出せ、人間! 手が届かない!」


「斥候のくせに偉そうだな」


「へえ、そんなカッコいい名前があるんですねえ。

我々は『行ってこい』って呼んでましたので」


役職ですらないのか。野生の世界はなんと厳しいことか。


「これでも名誉あることなんですよ~、仲間のために命を張るんですから」


「そうだそうだ! 黒白に逆らうと怖いんだぞ!」


茶色は興奮気味に叫ぶ。黒白がこいつをよこしたボスか。

そんな猫、いたっけか。いや、人間の可能性もあるか。

コイツが思っている以上にアホなこと以外、何も分からない。


「……とりあえず、何か言うべきことがあるんじゃないか?

これだけ部屋を荒らしたんだ。怒らないから言ってみな」


俺がここの家主であることを示すためにも、少し強めに出るか。

二匹の猫は首を傾げたり、何やらうなったりして、考えている。


「そうですねえ、これだけ頑張ったんです。

ちょっと豪華なおやつが食べたいですね」


「人間からの施しなんか受けないぞ!

ただ、どうしてもっていうならちょっとくらいもらってやってもいいぞ!」


「『ごめんなさい』の一言もないのか、お前ら!」


猫に期待した俺が馬鹿だった。

茶色の猫には、鍵を使って他の家に入らないように言いつけて逃がした。

ウチの猫にはもう何も言うまい。


結局、後始末はいつも人間がやるのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かぎしっぽは気まぐれ屋 長月瓦礫 @debrisbottle00

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ