模倣連鎖

小狸

短編

 *


「ねえ、お姉」


「何、あかね


「『何かっぽい』、って、褒め言葉なのかな」


「またこの妹は、議論を呼びそうな話題を引っ張り出してきたわね」


「いや、別に今回は異議を唱えたい系シリーズじゃなくてさ。私は正直、『何かっぽい』『誰かみたい』って褒め言葉だと思っている派なんだよね。いや、実際に言われたことがないから分からないだけかもしれないんだけど」


「ふうん? その言い草だと、お友達と何かそんな話でもしたの?」


「相変わらず勘が鋭くて怖いよ、お姉。まあ、そうだよ。友達が小説を書いているって話は、前にしたっけ」


「ああ、聞いたわね。雨傘あまがさ青天せいてん先生にお熱なお友達、だったかしら」


「そうそう。ちなみに雨傘さんの小説は、私も結構読んでいてさ。その友達ほど熱心に傾倒しているわけじゃないんだけど。私は、今やっているアニメシリーズの原作本を追いかけるので精一杯。でも、面白いと思うんだ。何ていうか、アニメに向いているっていうか、そんな感じの作風なんだよね」


「何でもかんでもアニメ化すれば良いって時代でもないけれどね。毎月多くの作品がアニメ化される。挙句監督ガチャ、配給会社ガチャなんて呼ばれる時代だもの。業界も大変よね」


「どうしてお姉はそんな業界人間みたいな台詞を……。まあいいや。それでさ、この前、友達が書いた小説を読ませてもらったんだよね」


「ほう」


「長編、ってほどじゃないけれど、中編くらい? なのかな。分からないけれど。で、読み終わって感想が欲しいって言うの。執筆活動の糧にするんだって。私もその時は時間があったから快諾したんだけど――」


「読んでみて、『誰かっぽい小説』だったというわけね」


「もう~、お姉はすぐそうやって結論に先に辿り着くんだから。まあ、そうなんだけどね。友達が書いた小説は、雨傘さんの作風そのままを模倣したようなものだったの」


「模倣、ね」


「そ。私は創作をしたことがないから分からないんだけど、色々と似ているんだよね。まず言葉の使い方とかそうだし、熟語にする言葉としない言葉? とか、わざわざルビを付ける言葉とか、良く使う言葉もそう――言葉の使い方だけに留まらないで、物語の内容もそうだったんだよね。雨傘さんの小説って、ラストで大どんでん返しをして来ることが多いんだけど、なんていうのかな。それになぞったような小説で、つい、私は言ってしまったんだよね」


「ふうん、何て言ったの?」


「雨傘青天っぽい! って」


「あー」


 姉が珍しく、俗っぽい表情をしていた。

 

 やっちゃったな、みたいな顔である。


「それは悪手ね、茜」


「そうなの? 作風が好きな小説家に似ているって言われたら、嬉しいものじゃないの?」


「そうでもないのよ。創作者っていうのは――まあ二次創作や他に例外はあるとしてもね、基本的にオリジナルのものを作りたいと思っているものなのよ。オリジナルの、自分の世界を、周りに分かってもらいたい。というか、それを原動力に、作品を創作していると言っても過言ではないわ。あくまで想像でしかないけれど、そのお友達が、雨傘青天先生にお熱であればあるほど、『雨傘青天以上の作品を作りたい』という気持ちが、その子の原動力になっていた可能性が高いの。同じであってはいけないのよ」


「ふうん? ライバル視している、って感じ?」


「それともまた違うわね。超えるべき壁、として自分に課している、とでも言えば良いのかしら。ちなみにその後、お友達はどんな反応だったの?」


「うーん、なんか食傷気味というか、『うーん』、『そっか』みたいな、微妙な反応だった」


「これも想像でしかないけれど、そのお友達、結構本気で小説家目指していたりするんじゃないの? そうでもなければ、人に小説を読んでもらって感想をもらうなんてことしないでしょ」


「確かに、言われてみれば、そうかも」


「そんな中で、完成した力作を、友達に読んでもらって、感想を聞こうとした。しかしその口から出てきたのは、尊敬する『雨傘青天っぽい』、という言葉だった。それは、かなり屈折した言い方だと承知の上で言うのなら、オリジナリティが無いということよね」


「まあ、言っちゃえば、そうだよね。オリジナリティ。独創性は、感じなかったかな。どちらかというと既視感を覚えたかも」


「誰かみたい――誰かっぽい。そんな言葉たちは注意が必要でね。必ずしも相手にとって嬉しい言葉という訳では無いのよ。それがいくら尊敬していたとしてもね。模倣や剽窃の可能だって考えられるし」


「あ! でもね」


「ん?」


「私から感想を聞いて、かなり悩んでたっぽいんだけど、もっと推敲して、私らしい作品にするって、その子、言ってた」


「……成程ね。まあ、感想が欲しいといったのはそのお友達だし、何を言われても良いくらいの覚悟で小説を見せたんでしょう。創作者なら誰もがぶつかる誰かとの相似、類似――そして劣等感。それらと向き合う覚悟ができたんでしょう。茜のお蔭でね」


「私のお蔭……かあ、えへへ、なんか照れるかも」


「でも、茜の言葉は、時と場合によっては失言にも――友情を壊すことにもなりかねないから、注意しなさい。今回は、ちゃんとその子ときちんとした友好関係が出来ていたから良いものの、場合によっては喧嘩になっていてもおかしくなかったんだから」


「はあい」


 そう言って、茜はベッドに横になり、スマホを起動した。


 例の友達からLINEが来ていた。


 ちょっと焦りつつ(姉に悟られないようにしつつ)、その内容を確認すると、


「今日は読んでくれて、感想もくれてありがとう! やる気出た(絵文字)」


 というものだった。


 どうやら。


 悪手というほど悪手ではなかったらしい。


 茜は、秒で返信をした。


「頑張って! 応援してる(絵文字)」




(「模倣連鎖」――了)

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