襲撃

「くっ……!」


 両手から噴き出る炎の連続攻撃を食らい、ドアが燃やされ吹き飛ばされる。パジャマが真っ黒コゲになり、その場で倒れた。

 どうして攻撃されているのだろうか。全然理解できないぞ。いきなり攻撃とか焦るだろうが!!


「うっ……なにをする」


 重たい体ではその場から動くことができず、生きたいのでなんとか立ち上がるが攻撃はまた続く。


「あははっ!!噂で聞いていたより弱いわねー!死になさーい!!」


 女は高らかに笑いながら、背中にあった歯車型刃つきブーメラン二つを投げ飛ばしてきた。

 なんとか避けたが、頬に刃が当たって血が吹き出る。避けても避けても追いかけてくるなんて。しかも全部当たってしまう。

 これは、どうすりゃいい!?はぁ……諦めるしかないか……。


 服が切れて皮膚が血まみれ。逃げながらも炎の玉を連発してくるため、攻撃をモロに喰らう。


「うっ……!」

『警告、警告!HPが残り2になりました。回復してください』

「この俺に回復しろと!?冗談じゃねえだろうな!!」


 いきなりステータスが開き、名前とHPを表記してくる。どうやら荻原おぎわらナオキという名前で、レベル12らしい。

 現在のHPは2/2042。

 ステータスの言っていたことは本当だったのか……。

 女の攻撃が遥かに強いことがわかる。このままじゃ、死んでしまう!もう二度と死の恐怖は味わいたくない……!


 ステータスに魔法が表記されると、たくさん技がある。その技をよく見るために、見つからないと思われるキッチンの棚の裏に隠れる。

 その中にある超回復が目に止まる。これを使うことにする。しかし……。


『マナが足りません。マナを貯めてください』

「どういうことだ……?」


 マナとはいったい何のことだろうか?ファンタジー漫画でよく見る、魔法を使うために必要なもの!?

 疑問に思って首を傾げると、それを見計らってステータスが教えてくる。


『マナとはあなたの感情に左右されて発動します。ポジティブな気持ちの方がマナが大きくなります』

「ポジティブ!?具体的には?」

『今までで楽しかったことや嬉しかったことを思い浮かべてください』

「は……?」


 口が開いて、目が点になる。


 僕にはそのような思い出が残っていなかった。

 人間の本能だから仕方ないが、そのような前向きな思い出はすぐに忘れてしまう。トラウマや嫌なことの方が記憶に残りやすいのだ。


 ずっと一人だったし、家族とも碌な思い出がない。あのクラス委員長と少し話したことくらいしか、嬉しかったことがない。そのようなことでもいいのだろうか。

 だが、今は敵に見つからないようにするのが最前線。額が汗まみれになっている。

 焦りが込み上げてしまい、気持ちは楽にならない。むしろ死にたくない・見つかりたくない恐怖が強く、思い出している時間がない。


「あははっーー!お姉さん、退屈してきちゃったわ!もっと私と遊びなさいよー!」


 毒の効いた笑い声を聞いた。ドーンと炎の爆弾が投げ込まれ、棚に穴が空いた。奇跡的にぶつからなかったが、ここにいるのは危険だ。逃げなければ!


 立ち上がってキッチンの棚から離れて、燃えかすだらけの隣のリビングへ向かう。途中で転んでしまった。

 なんてミスだ。恥ずかしい。これじゃ死んじまうじゃねえか!


 その時、ポケットから黄色のお守りが飛び出す。それを見て彼女の言葉を明白に思い出す。


「逃げちゃダメ。自信を持ちなさい……」


 そうだ。ここで逃げてしまえば、僕はこのままHPがなくなって死んでしまう。

 逃げちゃダメだ、サトル!僕なら、まだできる……!

 お守りを握りしめて、ポケットに入れる。


 体から力が漲ってきた。今ならマナが使えそうだ。

 体を起こし、近くにあった椅子を掴んで攻撃にかかる。椅子では攻撃が当たらないが、何もしないよりはマシだ!!


「うおおおおおおーー!!」


 突っ走って攻撃にかかると、椅子は彼女が背中にあった歯車で粉々にされた。絶望してしまう。僕専用の武器はないのか!?


『武器は全て売ってお金に変わったため、ありません。デバフ【洗脳】がかかっているので、半人間やモンスターを潰すことに抵抗があります』

「嘘だろ……」


 ステータスが勝手に話してきた事実を知り、呆れ果ててしまった。

 転生する前の体の持ち主は武器を全てお金に変え、人間を惨殺していたに違いない。だからあの男は、人間が嫌いだったのかと納得する。

 体はずいぶん慣れて重さが半減されたのに、これでは相手を倒すどころじゃない!デバフ解除しなきゃだし、武器を入手しなければ!


「ふん。アンタはそんなものなの!?もっと本気出しなさいよー!」

「これで本気だ!!」

「嘘でしょ!?まあ、いいわ。これでアンタの首を持ち帰れば……!」

「いや、それだけはやめろ。なぜお前に首を渡さねばならんのだ?」

「相変わらず態度が悪いやつね。死になさい!!」


 両手を目の前に出して、手に火の玉を充電し始めた。大きくなっていく。


「くらいなさい!!【ファイヤーボール・アルティメット】!!」


 家からはみ出すくらいではないが、それを放って攻撃してくる。死ぬ……!


 目を瞑って顔に手を当てると、目の前に小さな子供が現れて炎の攻撃を剣で弾き飛ばす。家の窓ガラスと壁に穴が空いた。

 僕の住むはずだった家がボロボロに!どうしてくれるんだよ、これ!!弁償しなきゃじゃん!!


「ギリギリで助かったね!!」


 自分の体より大きな剣を持つ、胸の小さい女の子が目の前に立っていた。

 彼女が振り向くと、にっこり笑みを浮かべていてる。女の子の後ろに、後光が見えてしまう。胸にキューピットの矢がブッ刺さる。


 な、なんて可憐なんだぁぁぁぁ!!……ん?でもよく見たら……。


 彼女の体をまじまじと見つめる。

 人間の脚はなく、蛇のように長くて鱗が生えている。尾の先端には、ハートマークがついていた。

 胸辺りには、ヒラヒラした紫色のレースを掛けている。腰は細くて、毛がないのかと思えるほど色白。とても綺麗だ。

 目はドングリのように大きく、瞳はルビーのように赤く輝いていた。唇は薄い。

 髪は金髪で短く、ボサボサの髪型をしている。


 よく見ると、胸が小さすぎる。男の子じゃないか!!腰が細くて可愛い顔だから、女の子かと思っただろ!?


 一番の衝撃的な事実に、目を丸くする。

 まあ、よくよく考えれば、身長よりデカくて重そうな剣を持てるんだから男の子だよなぁ……。


 だが、男でも女でも関係ない。僕を助けてくれたんだ。命の恩人として感謝しないとな!!


「例を言う。だが、お前の助けなど必要なかったがな」


「ありがとう」と口にしたつもりだったが、なぜか勝手に口が動いてしまう。どういうことだろうか。


 僕はそんなこと思ってない!むしろ逆だ!!

 もしかすると前の人の意識が残っていて、制御しないと思ってもないことを口走ってしまうのだろう。気をつけなければ。

 こいつと少し喋ったから大体分かるが、照れ隠しだな。頬も少し赤くなったし。

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哀悼の牙 百田奈緒 @hukanagi

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