強烈な葛藤、深い絶望。『破滅』すらも彼女たちには『救い』となるか

 狂気、破滅、絶望。ひりひりとした緊張感に満ちた、すごい作品でした。

 主人公の奈緒は、同じ学校に通っている早耶香に対してひそかな想いを抱いていた。同性である彼女への気持ちは少しずつ狂気に変わって行く。

 やがて、品行方正な優等生だと思っていた早耶香が、実は学校教師の桂木という男と付き合っていることを知ってしまう。その時に、奈緒の中で何かが確実に歪んでいく。
 絶望と失望。でも、同時にチャンスであることにも気づく。奈緒は桂木と密会している『証拠』を押さえることで、それをネタに早耶香を脅迫することに決める。

 「大好きな桂木先生を守りたかったら、わたしの言うことを聞くように」

 困惑し、絶望する早耶香を支配し、確かな満足感を得る奈緒。そこからの展開は、まさに「綱渡り」と表現したくなるものでした。

 狂気が引き起こす、取り返しのつかない事態。奈緒と早耶香の関係性は、やがて大きな事件を引き起こしていくことになります。

 支配していたと思っていた側が、逆に支配される側にも回る。度を過ぎた依存心や執着心、強い恋慕。表面的なイメージとは異なる裏の顔。
 それらが次々と噴出し、奈緒が予想できなかった形へとどんどん状況が転がって行きます。

 果たして、彼女たちの行きつく先は?

 人間精神の極限というか、「善」や「悪」、「正常」や「異常」というものを掘り下げた作品となっていました。

 本当の意味での「幸せ」や「不幸」とはなんなのか。普通の人間の物差しでは測れない境地へと足を踏み出していく二人。そんな彼女たちの幸や不幸は、傍から見ている人間が判定できないものになっていく。
 二転三転するサスペンスと、破滅さえも救いとなるような圧迫感と絶望感。

 読む人の心に強烈に迫ってくる、第一級のサイコサスペンス作品です。

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