第20話「曙ゆらぎ④」

「どうぞ、こちらです。」

香織の案内で、2人は警戒しながら地下の施設へ足を踏み入れる。

そこは外から想像できないほどに広がっており、薄暗い灯りで照らされた空間はどこか不気味な雰囲気を纏っていた。

そして、その中央に1人の人物が立っている。

丈の長い黒いローブを身にまとい、真っ黒なベールで顔を覆われたその風貌は、どこか異質さを感じさせる。

「師匠。あれは……」

「……教会の幹部クラスにのみ許された魔導礼服だな。……やはり罠か。駿、撤退の準備だ。ここを出たら全員に連絡しろ。」

「分かってます。おそらく相当な大物ですよ。魔力の質も量も桁違いの圧だ……っ!」

彼の者から立ち上る魔力は、到底人間のものとは思えなかった。

想定以上の大物。ゆらぎの不在。これらを確信した2人はすぐに撤退へと思考を切り替えたが……

「あれ?巫君!?それに先生まで……!?えっと……どうしたんですか?」

ベールを外したその人物は、あまりに見知っていた。



「ゆらぎ……?」

「あっ!?もう学校の時間だよね!?どうしよ……遅刻、ですかね?」

彼女はまるでただ寝坊した朝のように慌てて髪を整え、巫と天欠に問いかける。

自分も、2人も、この場所の意味を知らないかのように。

「ゆらぎ……どうしてそのローブを着ている……」

「どうしてって……私、魔導教会に入ることにしたんだ!………あっ、でもこれって香織さんと秘密にしようって話してたんだっけ……」

「かまわないわ。貴女が決めたことを私は尊重すると言ったでしょう。」

「は………?」

今、なんと言った?

薄々感じてはいたが、感情で否定していた結論をゆらぎはあっさりと口にした。

危険だと警告し、命を狙われ、自らを攫った教会に入る?

意味が分からなかった。

「……曙ゆらぎに何を吹き込んだ。どうせお前の魔術だろう。脳操作の術師。」

天欠は香織を睨みつける。

「あらあら。私は少し背中を押しただけよ?いくら洗脳が得意な私でも、まったく考えていないことを植え付ける程のことは出来ないわ。あくまでこの子が望んだこと。そうでしょう?ゆらぎさん。」

「えっと……私に難しいことはよく分からないですけど……でも、みんなみたいに魔術が使えるようになりたかったから………ここでも教えて頂けたらなって……」

少し気まずそうにゆらぎは言葉に悩んでいる。

「だから、私も魔術が使えるようになって、とっても嬉しいんです!

そうだ!せっかくだし、ちょっと見てもらってもいい?巫君!」

「魔術を……使えるようになった?ゆらぎが……!?」

「あっ!信じてないんだね。ならせっかくだから見せてあげるね。……『風の刃よ』っ!」

ヒュッ。と、風切り音が聞こえた直後、巫はその場から1歩も動けないまま、頬が切れて血が垂れ始めた。

「………は?」

ほとんど反応できなかった。

油断していたのもある。状況は飲み込めていないとはいえ、ゆらぎと再開出来た安心感、今まで彼女が魔術を使えなかったことへの警戒心の停滞が感覚を鈍らせた。

だが、これは……

「おいおい……期待のルーキーすぎるよ……」

軽口を叩いてみせるが、巫の内心は荒れていた。

(はは……凄いだろうとは思っていたけど、これほどか………僕らの努力を嘲笑ってくれるよ……)

「……ゆらぎは俺がやります。」

「正気か?」

「えぇ、目を覚まさせてやりますよ。師匠は母さんを頼みます。」

「……いいだろう。……死ぬなよ、駿」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

カサナルテンシ @Kugel

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る