写真家(仮)

@inunoesa

第1話

4月中旬。雪は解け、暖かな風が種子たちを眠りから起こし、春の訪れを高らかに歌っている。私は顎に手をやった。ひげがチクチクをとうに過ぎ去り、フサフサに変わり果てていた!最後にひげを剃ったのはいつだっただろうか?思い出せはしないが、このフサフサもこの春風の前では、案外悪くないと思えてくる。私は自分のひげに『ふさふさ』と名前を付けることにした。きっともう少しで『もじゃもじゃ』に改名となるだろう。

軽やかな足取りで鼻歌まじりに改札を抜けた。それは同時に、電車賃を払ったことで、私が一文無しとなったことを意味する。正確に言うと、まだ私のサイフには3円ばかり残っているのだが、これっぽっちではレジ袋を買うのがせいぜいなので、あって無いようなものだ。3という切りの悪い数では満足に旅もできそうにないので、捨ててしまおう。駅内にあったゴミ箱に寄ると、燃えるゴミ、ビン・カン、ペットボトルしか選択肢がない。『お金』って書いてあるゴミ箱はないものだろうか?

私は30と数年間そんなもの見たことも聞いたこともないが、人間何億人といればそんなもの好きもいるだろうと言って、ニッチなニーズに応えた駅員さんはいないものだろうか?あたりを見まわすと、募金箱を見つけた!『親のいない子供たちに愛を少し分け与えてください』だそうだ。孤児院へ金が行くのであろう。私はサイフから3円を取り出してそこに入れた。そして募金箱をゴミ箱のように扱ってしまったことを詫びた。ゴメンナサイ。スッと肩が軽くなった気がした。

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