男はただでさえ貧乏であった。
加えてそれを慰めるためか、煙草と賭け事がやめられない。
より困窮した男の前には、金の入った――ただし、一般人からすればそれ程でもないであろう――缶がある。
はて、それはカンダタの前に垂れた蜘蛛の糸か、下人の前に出た老婆であるか。
・
読む側がハラハラさせられる短編。
「魔が差す」瞬間、明暗の際にいてどちらにも転がりかねない状態が巧みに描かれている。
些細なものかもしれないが、重要なのは規模の大小ではない。
自分を貫くか、折れるかの問題であり、男の心中に駆け巡ったものは、誰もが経験する(した)であろうことなのだ。