僕の幼馴染攻略計画、初手で詰む

醍醐兎乙

「僕の幼馴染攻略計画、初手で詰む」


 中学の卒業式、僕は幼馴染に告白し――見事に振られた。

 今思い出しても涙が出そうなほどの切れ味鋭い言葉で、僕の初恋は切り刻まれた。


 でも、そんなことは承知の上。

 彼女に告白を断られるのは僕の想定内だった。

 ……正直一割くらいは付き合えるかもしれないと思っていたけど、それでも想定通り。

 一週間もすれば涙は枯れ果て、僕は計画を実行に移した。


 余裕のある男。

 それが彼女の好み。


 春休みの間も、僕はいつも通りの態度で彼女と接した。

 振られた相手でも態度を変えない男は、とても余裕があってかっこいいと思う。

 ボロボロの初恋がじくじく痛む気がするけど、そんな痛み、余裕のある男は表には出さない。

 平気な顔でちょっと気取ってカッコつけたりしながら、僕は彼女と春休みを過ごした。



 僕と彼女は別の高校に進学する。

 これが、僕が幼馴染の関係を超えたいと思ったきっかけ。

 今までは一日の大半の時間を一緒に過ごしていた。

 でもこれからは、毎朝のバスが来るまでのたった十数分しかなくなる。


 だから僕は、彼女に意識してもらうために、余裕のある男を目指した。


 次は毎朝バスを待つ間、彼女に好意をぶつけ続ける。

 振られた相手に対して、変わらない好意をアピールできるのは、男として、とてもとても余裕がなければできないこと。


 それに、なんだかんだ言って、結局僕には甘い幼馴染。

 毎朝僕から好意を向けられて、きみは耐えられるのかな?

 きみをよく知る僕は、耐えられないと思って、計画に採用したんだよ?

 僕の好意を振り切って、きみは恋人を作れるのかな?

 ねぇ――僕のやさしいやさしい幼馴染様?




「彼氏ができた」

「いやだぁ!! 何でもするから彼氏と別れてぇ!!」 

  

 真新しい制服が汚れることも厭わず幼馴染にすがりつき、僕は必死に懇願した。

 高校に入学して、一週間のことだった。


  


「お願い! 何でもするから彼氏と別れて! それで僕に惚れるまで恋人作らないで!」

「嫌。無理」

「ほんとに好きなの! 嘘じゃないの! どれだけ時間がかかってもいいから僕のこと好きになってよぉ!」

「本当に無理。それと、あんたに惚れる未来は訪れない」


 そう言って、彼女はしがみつく僕を振り払い、制服のしわを直し始めた。

 彼女の瞳は、今まで見たことがないほど僕を拒絶している。

 僕は立ち上がることも出来ず、目尻に涙が滲み出す。


「いやだよぉ……きみが他の男と仲良くしてるとこ見たくないよぉ……」

「? あんたが私の彼氏と会う機会なんて無いでしょ?」

「いきなり他人みたいな距離感止めてよぉ……」


「……私に振られてからあんたが始めた、スカした態度も大概だったでしょ」

「…………え?」


 その言葉に僕は涙を拭い、彼女を見上げた。

 彼女は腕を組み僕を見下ろしている。

 しかし、その目はさっきまでのように僕を否定するものでなく、呆れたような、いつもの視線に変わっていた。


 そして彼女は、僕を見下ろしたまま、まぶたを閉じてため息をついた。


「はぁ……冗談だよ。彼氏なんてできてないよ」

「……ほんとに?」

「ホントホント。そんなすぐに恋人ができるわけ無いでしょ?」

「だって、きみこんなにかわいいし、いつ彼氏できても不思議じゃないし」


 僕の本心からの言葉に、彼女は一歩たじろぐ。


「……なんか急に素直になったね」

「これからは素直になるから……もうこんなひどい嘘つかないでほしい……耐えられないよぉ」


 僕の泣き言を聞き流しているのか、彼女は酷く意地悪な表情を浮かべた。


「だって、あんたが告白してきたことにも驚いたのに、それなのに振ったら急にスカした態度を取り始めたから――ついムカついて、いじめたくなっちゃった」

「僕の初恋、弄ばないでよぉ!」


 四つん這いになり地面を叩く僕を見て、彼女はひとしきり笑い飛ばし、柔らかな笑顔を向けてきた。


「やっぱりあんたは無駄に気取るより、今みたいに素直な方がいいと思うよ」

「え!! じゃあ付き合ってくれるの!?」

「それは無理」

「…………ちなみに断る理由は前と変わらない?」


 身も心もズタボロになりながらも、僕は最後の淡い希望を込めて尋ねた。


「そうだね――情けなくて、男として見れないからだね」

「だからカッコつけようと頑張ってたんだよぉ!!」


 顔を両手で隠してうずくまる僕に、彼女から追撃がかかる。


「あんたがどれだけ頑張っても――手のかかる弟にしか見えない」

「わかってるよぉ……!」

「私、お姉ちゃん気質だから、これまでつい甘やかしちゃってたけど――勘違いさせてごめんね」

「そこまで念入りにトドメ刺さないでよぉ!!!」


 僕の初恋が悲鳴を上げ、息も絶え絶えだ。

 そんな僕を観察している彼女は、僕の反応に満足したのか、僕に今日一番の笑顔を見せてきた。


「あとね――今週末合コンに誘われてるから、本当に彼氏できちゃうかも」

「いやだぁ!!!! お願いだから合コン行かないでぇ!!!!」




 バスが来るまで粘り強く交渉し、今週末は僕のおごりで一緒に焼き肉を食べに行くことで決着した。




 僕の幼馴染は、いじわるで、やさしくて、とてもかわいい。

 そしてなんだかんだ言って、結局僕に甘い、最高の幼馴染。



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