植木屋のじいちゃんとケーキ屋の少年

つばさ

植木屋のじいちゃんとケーキ屋の少年


 お母さんと一緒にケーキを作った。ふわふわで、甘くて、ケーキはとっても美味しい!

 お母さんの手にかかれば、ケーキはどんどん可愛くなっていく。僕のお母さんは魔法使いだ!僕も、魔法使いになりたい!これから、僕の夢はケーキ屋さんだ!


 そうだ!僕の決意を、ゆうだいくんに伝えにいこう!僕は隣の家のインターホンをならしに急いで靴をはく。

「翔太?どこへ行くの?」

 お母さんが僕に声をかける。

「ゆうだいくんのとこ!いってきます!」

「あ!ちょっと!待ちなさい!何かお菓子でも持っていきなさい!」

 僕はお母さんを無視して、玄関を開ける。そんなの待ってられないよ!すぐ伝えなきゃ!最初に僕の夢を伝えるのはゆうだいくんなんだ!


 インターホンを鳴らす前に、隣のじいちゃんが外で木を切っていることに気づく。

「じいちゃん!ゆうだいくんいますか!?」

「おお翔太!なんじゃ、雄大なら中におるぞ!インターホン押しなさい。」

「ありがとう!ゆうだいくんに僕の夢はケーキ屋さんになったって最初に言うんだ!」

 ……しまった。じいちゃんが最初になってしまったぞ。じいちゃんはきょとんとした後、豪快に笑う。

「はっはっは!すまん!じいちゃんが最初に翔太の夢を聞いてしまった!翔太にも今から言ってきなさい。」

 まあ、じいちゃんなら1番でもいいや!ゆうだいくんは2番目だ!僕はインターホンを鳴らす。

 ゆうだいくんは僕に警察官になりたいと伝えてくれた。僕もゆうだいくんに夢をつたえよう!

 

 玄関のドアが開いた。

 「おう!しょうた!ゲームしにきたのか?」

 ゆうだいくんの家にはゲームがいっぱいあるから、よく遊びにくる。でも今日はそんなんじゃない。もっと重要なことだ!

 「ゆうだいくん!僕の夢決まったよ!僕ケーキ屋さんになる!」

 僕は胸をはって大きく宣言する!どうだ!でもゆうだいくんは変な顔をした。


 「はあ?男なのに変なの!」

 「雄大!なんてことをいうんだ!」

 後ろから大きな声が響く。じいちゃんが怒ってくれてる。僕はというと、最初は何をいわれたかわからずぽかんとしていたが、だんだんと言われたことがわかった。僕の夢を馬鹿にされたんだ!


「うわあ!なんでそんなこというの!?ゆうだいくんのばか!」

 ぼくは泣きじゃくった。涙が永遠と出てくる。

「雄大!謝りなさい!」

「……ごめん。」

 ゆうだいくんはじいちゃんの方を横目に、謝っている。本気で言っているわけではない。僕の涙は止まらない。


 すると僕のお母さんの声が聞こえた。

 「あら?いっつもお世話になってるから手土産でもと思ってきたのだけれど、何があったのかしら?」

 「すみません。うちの雄大が翔太くんに大変失礼なことを言ってしまいまして。本当に申し訳ない。手土産は受け取れない。後日改めて謝罪しに伺います。今日は雄大に厳しく言いますので。」

 じいちゃんはお母さんにそう言った後、こちらをみた。

 「翔太。翔太の夢は素晴らしい夢だ。笑顔を届ける仕事だ。気にするんじゃない。自分を誇りに思いなさい。」

 僕は悲しいがいっぱいで、じいちゃんが言った意味はその時はわからなかった。家に帰っても、涙は止まらなかった。


 ケーキ屋になりたいという報告を3番目にお母さんにいうと、何があったのかおかあさんは分かったようだった。

「翔太ならきっとなれるわ。お母さんにも教えてくれてありがとう。今日は気が済むまで泣きなさい。」

 僕は思いっきり泣いた。お風呂に入っても、晩ごはんでも、涙は止まらなかった。


 次の日、ゆうだいくんとじいちゃんがうちに謝りに来た。ゆうだいくんは目が赤くなっていて、泣いた後のようだ。

 「しょうた。ごめん。」

 僕は許せなかった。もうゆうだいくんとは絶交だ。返事もせず、僕は階段を駆け上がって部屋の中に閉じこもる。

「翔太!」

 お母さんが叫ぶ声が聞こえるが、僕は部屋から出たくない。じいちゃんの声が聞こえた。

「雄大はそれほどのことを言った。1回謝るだけじゃあ許せないでしょう。また、明日来ます。」

 そう言って帰って行った。また明日も来るだって?謝らないでいい。僕はもうゆうだいくんに会いたくない。


 本当に次の日もうちに2人は来た。僕は部屋からでない。お母さんがじいちゃんに謝る声が聞こえる。

「すみません。部屋から出たくないようで……。」

「大丈夫です。本当に申し訳ない。2日続けてお家にお邪魔してしまいまして。また明日も来ます。」

 もう、来ないで欲しいのに。僕は悲しみから怒りに変わっていた。


 次の日もインターホンが聞こえた。僕は部屋からでない。お母さんが、「今日はおじいさんだけで来ているわよ。」と言った。じいちゃんだけ?それならでてもいいかな、と思って、部屋の扉を開ける。

 「翔太。本当にすまんかった。」

 「じいちゃんには怒ってないよ。でももうゆうだいくんとは絶交する。」

 「……そうか。雄大はそれほどのことを言った。許さなくてもいい。」

 じいちゃんは、うつむいて、変な笑顔で、「喫茶店でも一緒に行かんか?」と言った。僕は頷いて靴を履いた。


 喫茶店で、じいちゃんは僕にたくさんのことを話した。

 「植木屋もな、ケーキ屋と同じで、笑顔を届ける仕事なんじゃよ。」

 「おじいちゃんが木を切って、誰かを笑顔にしてきたの?」

 「そうじゃ。ケーキ屋も一緒じゃ。ケーキを買うと、笑顔になるじゃろ?だから、素晴らしい仕事なんじゃ。」

 「うん。僕もお母さんとケーキ作って、笑顔になったんだよ!今度は僕が誰かを笑顔にしたい!」

 「おお!さすが翔太じゃ。作品を作る上で1番大切なことを、もうわかっとるようじゃな。」

 「へへっ!ねえじいちゃん、僕がケーキ屋になったら、1番最初に食べてくれる?」

 「こないだもじいちゃんが1番を取ってしまったが、今度も1番もらっていいのか?」

 「うん!じいちゃんに最初に食べてもらいたい!だから、それまで死んじゃダメだよ!

 「なんじゃ、失礼なやつじゃな。じいちゃんは長生きなんじゃ。生きとるわい。もし死んだら、化けてでもケーキ食べに行くぞ!」

「いや、それは成仏してよ。」




 今日は、ようやくケーキ屋が完成した。ついにここまできたんだ。ここまでの道のりは簡単じゃなかった。フランスに留学している最中に、じいちゃんが亡くなった知らせを受けた。1番はじいちゃんではなくなってしまったが、きっと最初のお客さんに笑顔を届ける。そう決心する。


 開店前日に、一人の青年が店に入ってきた。

「よ!覚えてるか?」

 誰だ?なんだか見覚えある気がするが、思い出せない。顔を傾げていると、彼は笑い出した。

「ははっ!まあ、覚えてねえのも当然だ。お前の夢、あの時馬鹿にして悪かったな。」

 言われて気づく。雄大だ。あの時から疎遠になっていた。今では立派な青年になっているようだった。

「じいちゃんからの手紙だよ。俺への手紙より、おめえへの手紙の方が文章長えんだぜ?どうゆうことだよ。」

 雄大は穏やかな笑顔で悪態をつく。


 手紙を受け取ると、中にはお金が入っていた。

『翔太。すまんが、最初にケーキを食べる約束は守れそうもない。代わりに、わしの墓にケーキを置いてくれんか?

 わしはショートケーキが好きじゃ!ショートケーキにしてくれ。

 わしは苺と、スポンジの部分を一緒に一気に食うのが好きなんじゃ!美味しい部分を、一度に味わえるじゃろ?

 翔太は立派なケーキ屋さんになれる。じいちゃんは分かるぞ!

 翔太のショートケーキが、わしの今の楽しみじゃ。』


「ははっ!物価上がったから、金足りねえよ!まあ、じいちゃんは特別サービスで、安くしとくよ。」

 ちょっと涙が出そうになったが、俺は無理やり笑ってそう言った。


 雄大と共に、急遽じいちゃんの墓参りに行く。もちろん、苺のショートケーキを持って。

 線香と共に、ショートケーキを供える。

「じいちゃん。俺、ケーキ屋になったよ。1番最初に、ケーキ食べてくれ。」

 じいちゃんの言葉で俺は今まで頑張れた。じいちゃん、本当にありがとう。俺は手を合わせる。


 

 すると、雄大が突然、俺を押して無理やり隣に並んだ。苺とスポンジ部分を豪快に取って、大きく口を開いて食べ始めた。

 「おい!なにやっt「約束守ったぞ、めちゃくちゃ上手いな。これ」……え?じいちゃん?」

 すると雄大は我に返ったように、「なんで俺ケーキ食ってんの?」と言った。

 

 

「ははっ!お前じいちゃんに取り憑かれてたぞ!」

「は?そんなことあんの?」

 

 

 ――じいちゃん。約束守ってくれて、ありがとな。

 

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