せっぷん(節分)のおもいで

アオヤ

第1話

 「今年こそは彼女が出来ます様に」

そんな願いを込めて俺は新年の参拝でおみくじをひく。

そして見事に大吉を引き当てた。

俺は新年早々に何かいい事が起きそうでウキウキしながらそのお告げを読ませて頂いた。

それは通信簿でいったら5が並んでいる様で『今年の俺は無敵かよ?』と思わせる内容だった。

だが、一つだけ凶に匹敵する事が書いてある。

それは女性に関してのモノだ。


 女性に騙されるから注意せよ。

 女性に足を引っ張られる。

 結婚は先にした方が良い。


 この世界で人間の半分は女性なのに…

俺はこの一年間、女性を避けて生きて行かなければならないのか?

俺が通っている高校は男子校。

この一年『異性の事は考えずに文武に励め』と言われていると諦める事にした。

でも、初詣に着物で来ている女性に自然と目がいってしまうのは悲しい男の性なんだろうか?


 初詣の帰り道、実家の隣の家の屋根に鳩が二羽並んで停まっているのを見つけた。

その二羽の鳩が近付いたかと思ったらお互いのクチバシをツンツン突き始める。

俺だっておみくじの事が無ければ『仲がいい鳩だな。鳩が二羽並んでハートを作ってる』位しか思わなかった。

たが俺はそれを見て無性に腹が立って、なんだか自分が惨めに思えていたたまれない気持ちになってきた。


 一年だ、一年我慢すればきっと俺にも春はやって来ると信じるしかなかった。


 初詣でこんな事があり、1月を俺は無難にやり過ごす事が出来た。

そして節分を迎える。

今年の節分は2月2日になる珍しい年廻りだそうだ。

その節分の朝、俺は朝日を浴びようと窓を開けると、また隣りの家の屋根に鳩が居てイチャイチャしている。

まるで俺に見せつけるかの様に…

「もう、イチャイチャするのは他所でやってくれ」

思わず、叫んでしまった。


 高校に行くともう一つ落ち込む事を友人に告げられた。

「おみくじは神社だろ。神社の暦は旧暦。太陰暦だから、おみくじの効力が現れるのは節分を過ぎてからなんだ」

俺の1月、一ヶ月間は一体何だったんだ?

「俺の貴重な一ヶ月間をかえせ〜」

多分、おみくじに関係なく俺の1月一ヶ月間は変わらないだろうが…

俺は叫ばずにはいられなかった。


 「今日は節分か…」

毎年我が家では豆まきをする。

鬼はデカい男という事で毎年俺がやらされる。

そういえば去年の節分の時…

『鬼は外〜!』と俺は家族に外に追い出され外で豆をぶつけられていた。

そしたら丁度隣の保育園年長の桜木紗奈チャンがお母さんと一緒に帰って来た所に遭遇してしまって…

そして何故か紗奈チャンが「お兄ちゃんに豆をぶつけないで! お兄ちゃんに豆をぶつけないで!」って泣きながら叫んでいた。

母さんは「あんたが豆をブツケられて哀れに思えたんじゃない?」って言っていた。

でも、小さな女の子にあんな事言われる俺って慕われてるんじゃないのか?

なんて自惚れたりもしていた。

だが結局、彼女が何故泣いてまで懇願したのかは俺には分からなかったけど…


 今年の節分もまた俺は鬼役で豆をブツケられる事になる。

きっと去年の様な事は今年の節分ではおこらない。

少し残念な様な、寂しい様な気分になる。

「鬼は外〜」俺が外で豆をぶつけられているとお隣りの紗奈チャンがまた帰って来て鉢合わせした。

俺は去年みたいな事をどこかで期待していた。

でも、一年経って小学生に成った紗奈チャンは「毎年鬼お疲れ様。私からお兄ちゃんに飴ちゃんあげるね」

って小さな包みに入ったキャンディを渡してきた。

「エッこれ…? ありがと」

びっくりして一言いうのが精一杯だった。


「あっこれ、バレンタインデーのプレゼントだから。お兄ちゃんが誰からも貰わない内にあげようと思ったの」

俺は小学生の小さな女の子にもらった小さなプレゼントがとっても嬉しかった。


でも彼女は…

「あっ、ホワイトデーのお返しはシャネルの5番ね ふふふ」


俺は彼女の言葉に固まったまま動けないでいると…


「嘘だよ。からかってゴメンねお兄ちゃん。お返しは気持ちでいいからね。スキだよ、チュッ」

小さな女の子は俺の頬にキスしてきた。

また俺は固まったまま動けなかった。


「私のだからね」

『舌っ足らずな女の子もカワイイな』なんて思った。

でも、『おいおい、それはファーストキスだろう』と訂正を入れようとした所で、すぐ近くに近所のお姉さんが立って居る事に気がついた。

そしてお姉さんは俺を見て何か言っている。

「このケダモノ」


慌てて俺は訂正しようとしたが…

「いや、これは違うんです。違わないけど違うんです」

もう何を言ってるのか分からなかった。


「またねお兄ちゃん。大好きだよ」紗奈チャンは何も説明せずに行ってしまった。

後に残された俺は…


 今日は節分。

こうして俺の女難の相は始まるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

せっぷん(節分)のおもいで アオヤ @aoyashou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ