変化禁止法の改正

ちびまるフォイ

好きは一生変えられない

「変化禁止法を成立します!」


ときの政府による審議のすえに、

国民は変化することが禁止となった。


20歳まで成長するとそれ以降の身体変化は薬で禁止。

自分の価値観や考え方も登録し、それ以降の変化は許されなくなる。


「よく来たねぇ、〇〇ちゃん」


「おばあちゃん。元気そうでよかった」


「好きだったいなり寿司作ってあるよ。たんとおあがり」


「あ、う、うん……」


おばあちゃんのいなり寿司は激甘。

子どもの頃はそれがむしろよかったが今は違う。

それにいなり寿司もそこまで好きじゃない。


けれど一度「好きなもの」として登録した以上、

それ以降の変化は禁止されている。


「〇〇ちゃんはすごいねぇ。アイドルだもんねぇ」


「うん。がんばってるよ」


「一生アイドルなんでしょう?」


「ああ……まあそれは……そうだね。

 変化禁止法があるから仕事も一度決めたら変えられないし」


「おばあちゃん、すごく嬉しいわぁ」


「おばあちゃんも元気にしててね。

 私、そろそろ仕事にいってくるから」


「あらそう。いなり寿司持っていきなさい」


「あ……うん……そうだね」


マネージャーが呼んだタクシーに乗り込み会場へ向かう。

アイドルグループの控室に入ると、リボンの付いた箱が並べられていた。


「〇〇さん、お疲れ様です」


「この箱は?」


「ファンからのプレゼントです」


「ああ……そう……」


頭が重くなる。箱を開けると中身は予想取り。


「チョコ、ね……」


「大好物でしょう?」


「いやもう食べられないのよ。アレルギーで」


「え? でも公式プロフィールでは……」


「一度登録した好きなものはもう変えられないの。

 たしかに昔は好きだった。でも食べすぎてアレルギーになっちゃって。

 それ以来もうチョコは食べられないのよ」


「これまでもファンからのプレゼントでチョコはありましたけど

 それはどうしていたんですか?」


「まあ、私は"チョコの星のお姫様"っていう設定だし

 共演者や家族や友達にわけてごまかしてるのよ」


「そうだったんですか」


「自分が変わっているのに、それが許されないのって辛いなあ」


「このチョコはこちらでなんとかします。

 まずはステージに集中してください」


「そうだね……」


2時間後。ステージの幕が上がる。


結成初期の方に決めたセットリストを歌う。

もう歌い飽きるほどに変化のない曲順。


歌も新曲は基本的に作らない。

変化は禁止されているので昔の名曲のカバーだ。


それにファンも微妙な新曲よりも、

昔のノリノリでイケイケな名曲のほうが良いだろう。


誰も変化なんて求めちゃいない。

私を除いては。


前半が終わるとMCタイムでちょっと休憩。


そのとき、ステージの照明が急に落ちた。


「わっ!? 何!? 暗い!!」


会場の袖からキャリーを引きずるような音。

ぼんやり照らされたろうそくが近づいてくる。


「はっぴばーすでーとぅーゆー。

 はっぴばーすでーでぃあ〇〇ちゃーーん」


「えっ」


「ハッピーバースデー!」


ろうそくが25本立てられたバースデーケーキが運ばれてきた。

25歳から年齢は変わることはないが、誕生日はお祝いされる。


「わああ! ありがとう!」


ケーキを見て顔がひきつった。


「〇〇ちゃんが大好きなチョコケーキを用意したよ!

 なんとチョコは4層にもなっているの!」


「わ、わぁ……嬉しいなぁ……」


「さあ、ひとくち食べてみて」


「こ、ここで!?」


「大丈夫。ちゃんとステージ終わったら控室に届けるから」


差し出された切り分け済みのケーキ。

恐る恐る口に運ぶ。アレルギーも配慮されているとか。

きっとそういうのだろう。大丈夫。きっと……。


「んぐっ!?」


「〇〇ちゃん!? きゅ、救急車ーー!!」


ライブは中止となり、私は病院で目が覚めた。

医者はあきれた顔をしていた。


「あなたチョコアレルギーなのに。

 どうしてチョコケーキなんか食べるんです。

 もう少し遅かったら死んでるところでしたよ」


「だって……変化させることはできないじゃないですか」


「え?」


「一度チョコが好きと登録したら、

 私は一生チョコが好きじゃなくちゃいけないんでしょう!?」


「いえ。そんなことはないですよ」


「……はい? いや変化禁止法を知らないんですか先生?」


「もちろん知っています。ですが最近は変わったんです。

 "変化禁止法vsr2.0"では、所定の申請を通せば変えられますよ」


「そうだったんですか……。ぜんぜん知らなかった」


「まあテレビもネットも変化は禁止されているので

 昔の情報しか流せないですしね」


「教えて下さい! どうすれば私は変化を許されるんですか!?」


医者に変化を認められる方法を確認し市役所に向かった。

煩雑な手続きと長い待ち時間。


まるで修行のような時間でも耐えられたのは、

その先に待っている変化が認められるというご褒美。


「はい。変化登録完了です」


「やったーー!! 私はもうチョコが好きじゃなくなる!!」


ついに変化が認められ、本来の自分を取り戻すことができた。

マネージャーにも公式プロフィールを変えてもらう。

控室に嫌がらせほどチョコが届くことはもうないだろう。


マネージャーに事情を話すと、マネージャーも嬉しそうだった。


「よかったです。それでファンにはいつ伝えるんです?」


「今日のライブで伝えるわ。ちゃんと手続きしてチョコ苦手ってことを公開する」


「きっとファンも納得してくれますよ」


そして今日のライブが始まった。

いつものセットリストにいつものコール。

まるで前のライブを繰り返しているんじゃないかと錯覚すらする。


でも今日は違った。今日には変化がある。

MCパートになるとマイクを手に告白する。


「みんな、今日は聞いてほしいことがあるの」


「「 なーーにーー? 」」


「実は、これまでチョコが好きだと公言していたけれど

 前のライブで倒れた通り……私、チョコアレルギーなの!」


会場がザワつく。


「昔はチョコが好きだったんだけど、

 食べすぎてアレルギーになっちゃって……」


ファンは不安げな顔をしている。

変化禁止法ver2.0を知らないから犯罪行為を告白しているように聞こえるのだろう。


「あ、でも安心して! 大丈夫!

 実は所定の手順をふめば自分の好きを変えられるの!」


ライブのスクリーンには自分が行った市役所での写真が投影される。

ファンはそれに釘付けとなる。


「私はちゃんと手続きして、チョコが好きじゃないって

 正しく認められるようになったの! 安心して!」


ファンは嬉しそうな顔。

それを見てやっぱり告白してよかったと安心する。


「私は今の自分が一番好き!

 だからみんなも今の自分を偽らないで!

 

 それでは聞いてください! "自分のままで"!」


と盛り上がる過去のヒットナンバーを歌おうとすると

ファンが足早に会場を去り始めた。


「ちょ、ちょっと!? みんなどうしちゃったの!?

 まだライブは終わってないよ!?」


ひとりのファンが振り返った。

ピンマイクも無いはずなのに声は聴こえた気がした。



「だって、手続きすれば変化を許されて

 ファンから解放されるってわかったから」



立ち去るファンの背中を見て、変化禁止法は前のが良かった気がした。

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