資本主義・貨幣経済・競争のない、愛ある世界

シィータソルト

第十六代将軍と町娘の愛ある歴史改変

 ここは、江戸時代。西暦一八七〇年。歴史学者によれば、最もユートピアに近かったと言われる時代。違う世界線ならば明治時代である。日本人は、和服を着て生活していた。科学技術もある。人々はそれを絡繰り《からくり》と呼んでいる。電気もある。車は走っているが、道路は舗装されていない。土のままだ。あくまで歩行者ファーストなのである。

 武士もいる。征夷大将軍もいる。徳川家が実権を握っている。並行世界では、黒船来航し、明治開花が起こり、海外の文化が取り入れられると言うが、この世界では、日本は鎖国をしたままだ。だが、交流がないわけではない。外国から派遣された人々は、皆、驚き同じ表現を残す。「どうみても彼らは健康で幸福な民族であり、外国人などいなくてもよいのかもしれない」と。だが、武士の中には、海外との国交を積極的にした方が良い者とする者もいる。

 西郷隆盛は近代化に反対したのではない。政府主流が岩倉遣外使節で欧米を訪問しているあいだ、地租改正事業と学校制度を整え、人身売買を禁止し、神社仏閣の女人禁制を廃止した。さらには、あるものがない。それはお金。金銀財宝が無価値なのだ。人々はどのように物を交換しているかというと、交換・譲渡で成り立っている。そう、交換したいものがあれば交換しているし、あげたいと思ったら無料であげているのだ。だから、金融などお金に関する仕事というものは存在しない。その代わり、第一次産業や福祉の仕事が豊富にある。これを信頼経済と呼んでいる。

 しかし、人々はお金というものがなくとも怠惰することなく、仕事に精を出し、子供の教育もしっかり行き届いている。衣食住、医療も保障されている。同性愛にも寛容だ。男性は男性を愛し、女性は女性を愛している人達もいる。同性愛を推奨していったのは、十六代将軍である。この話は、並行世界が見える町娘、涼薫すずかと十六代将軍として育てられた徳川刹那とくがわせつなの話。




「おはよう、刹那。今日も剣のお稽古?」

 刹那が涼薫の経営する甘味処の前を乗馬しながら通りがかり、挨拶される。

「おはよう、涼薫。そうだ。終わったら、あなたのお店のお茶と和菓子を貰いに行くからよろしく」

「ええ、待っているわ。行ってらっしゃい」

 刹那が行ったのを確認すると、

「今日もとびっきりのお抹茶と和菓子用意しておかなきゃね」

 涼薫は、甘味処を経営する町娘である。刹那のことが好きで祭りで公言してお付き合いをしている庶民も武士も皆が認める公認の仲だ。稽古が終わってから、いつも自分の店に抹茶と和菓子を食べに来てくれるのが楽しみである。それまでは繁盛している店を切り盛りしている。苦味の中にほんのり甘さがある抹茶とみたらし団子とおはぎと餡蜜が売りである。

 刹那は徳川家とあり、武士の家の生まれであり、この世界線では、女の武士も存在し、戦があれば男女関係なく駆り出される。といっても、戦は人間同士ではない。宇宙から攻めてくる者達とである。宇宙人は存在していた。先日も襲来があったが、地球人が勝利した。今日も剣の素振り、教養の為の勉学、走り込みなど武士として育て上げられている。

 時刻は夕刻、鍛錬の時間も終わりだ。

「ふぅ……疲れた。涼薫の抹茶と和菓子が楽しみだ」

汗を拭い、乗馬し、涼薫の甘味処に向かう。

「いらっしゃい! そして、お疲れ様‼ 美味しい抹茶と和菓子用意しておいたよ」

 刹那は長椅子に座り、涼薫が抹茶とおはぎを運んでくる。

「今日は、おはぎか」

「そうよ、鍛錬の時間が長いって聞いたからご飯ものがいいかと思って、おはぎにしたよ!」

「そうか、それは助かる。腹が減って仕方なかったのだ。いただきます」

「たーんと召し上がれっ‼ 今日も私の愛情入りです♡」

 湯呑に抹茶と、おはぎ二つを乗せた皿を差し出す。

「あぁ、涼薫の淹れてくれる抹茶と手作りの和菓子はいつも最高だ」

「もう、刹那ったら! 奮発しちゃう‼」

おはぎが二つから四つに増えた。まずは抹茶をすすり、次におはぎを口に含む。冷たい抹茶の苦味とおはぎの甘味が混じり合い、口をほころばせる。

「今日も美味しい、おかわり!」

「は~い、今日もいい食べっぷりね!」

 湯呑に抹茶を注ぎ、皿におはぎをとりあえず三つ乗せ、刹那に差し出す。

「おはぎ……四つじゃないのか……?」

「三つじゃ足りなかった? じゃあ、また一個おまけ!」

「ありがとう……うん、うまい。ずず……」

 おはぎを食べ、抹茶をすする刹那。そして、ほっと一息つく。お茶に和菓子にそして、雰囲気に癒されている。この甘味処からは、畑が見える。実は、涼薫は、料理も提供しており、その材料を自給自足している。採れたての野菜から作られる料理は美味しく、昼も夜も書き入れ時である。おはぎの米もあずきの豆も畑で作られたものである。抹茶の葉は、取り寄せたものである。昼から夕方は、こうして刹那のように甘味を求めて訪れる客が多い。

「ふぅ、夕飯前の良い腹ごしらえになった。これで夕飯時まで腹が満たされている。気持ちも満たされて幸せだ」

「それは良かった。また、夕飯前まで、私とお話してよーよ。お客さんも今は刹那以外いないし」

「あぁ、いいよ。また、並行世界とやらの話が聴きたいな」

「うん、じゃあ、並行世界の話をするね」

「あぁ、昨日まで聞いた話だと、我らが生きている世界が最も幸福な世界だというのは本当なのか」

「うん、お金という共同幻想であり、支配構造から脱せられていて、町人の自由精神が尊重されている。さらには、環境破壊を阻止している。貨幣経済が作られていると貨幣を貪欲に欲する人間が増えれば増えるほど、森林は減っていく。さらに資本主義で人々のあらゆる物への欲望を掻き立て、それにより物作りが盛んになるけどその分自然は姿を消していって……それは工場やお金が増えたせい」

「貨幣というものは森林を伐採するから紙でできているものだよな」

「うん、お札というものが紙でできているね。硬貨は金属を組み合わせてできているけど」

「貴重な紙を……さらに金属もか。金属も絡繰りを作るのに貴重な材料だからな」

「この江戸時代が終わってしまうと、明治、昭和、平成、令和まで観測できているんだけど、ある世界線で一九一四年七月二八日――一九一八年十一月十一日の間にまず、第一次世界大戦という戦争がはじまるの」

「あと、約四〇年後に絡繰りを使った大きい戦が始まるのか⁉」

「そう、死者数が三一〇万人以上だわ」

「待て、この日本は三千人しかいないのに、その世界線では万単位で人口がいるのか?」

「そうよ、人口増加しているのだけど、自給自足はせず海外に貿易に頼っている」

「何? 自分達の口にする者を他者に委ねているのか? 生殺与奪の権利を与えているようなものではないか⁉」

「そうなのよ、教育や労働の時間は伸びたけど、その分、自然と触れ合う時間は少なくなったというべきかしら」

「何ということだ。自分達の物を自分で作らないなど職人魂はどこへ行ってしまったというのだ」

「そうよね……大事なものを失った。自給率が一〇〇%じゃなくなっただけではなく、自然の生態も変わってしまった。日本人は自然と共生することを忘れてしまった」

「何たる堕落……日本も落ちたものだな。食べ物の自給すらできなくなっているなんて」

「西洋の文化を取り入れたことで、自分達の文化をなくしてしまったのよ。それが違う世界線では普通になっていく……」

「この世界線では、涼薫の言う通り、日本の文化を貫き通そう。そして、戦争を回避しよう。さて、今日はここまでだな。日が沈む。明日は休みなんだ。涼薫の家に遊びに行っても良いだろうか?」

「いいよ。明日は店を休みにしようと思っていたし。刹那をとびっきりおもてなししてあげる♡」

「いつも、もてなしてもらっているようなものだけどな。だけど、ご厚意に甘えよう。明日楽しみにしている。何時に遊びに行っていいか?」

「午前十時から大丈夫よ。昼ご飯一緒に食べましょう」

「あぁ、久しぶりに涼薫の料理が食べたいと思っていたからちょうど良かった。では、午前十時に参ろう」

「私も料理を振る舞うの楽しみ!! 食べたい料理とかある?」

「だし巻き卵が食べたいな。あと味噌汁。ひじきご飯も食べたいな」

「わかった、腕を振るって作っちゃうよ! 明日楽しみにしてて」

「あぁ、楽しみにしている。では、ご馳走様。また、明日」

 二人は、別れ際に口づけを交わし、これが一番甘い甘味物かもしれないなんて考えながら、刹那は家路に着く。ここで、本来の世界線ならばお勘定と言ったところだが、この世界線には冒頭でも申し上げた通り、お金の概念がないので無料で食べ物にありつける。この世界に飢餓で死ぬ人はいなかった。



 刹那は、時間通り涼薫の店もとい家に来た。絡繰りのバイクに乗って。今日は武士の恰好ではなく、浴衣である。涼薫も浴衣だ。扉をノックしてきたことを知らせる。覗き穴を見て確認してから刹那を迎える。

「来たよ。涼薫」

「待っていたよ、刹那。今日は私のことたくさん愛して」

「あぁ、私もこの時を待っていた。たくさん愛するよ」

 玄関の扉を閉めて、二人きりの世界に入る二人。今日は互いの仕事が休みだから、恋人同士のことをする日であるのだ。

 寝室に涼薫は床に布団を用意しており、刹那と共に寝転がる。

「湯浴みをしてからしようよ。その前では体が穢れているだろう」

「接吻をしてからにしましょう。我慢できない、刹那が欲しい」

 涼薫は、有無を言わさず、刹那と唇を重ねる。

「んぅ……すず……はげし……」

「ん……だって……刹那が……好き、だから……」

 並行世界では士農工商で身分差別があったが、この世界にはない。愛したい者を愛することができる。家の生まれでなるものの、そこに身分差別は存在しないのである。

「将軍様~、卑しいわたくしめを今日も味わって……」

「その呼び方をするのも、二人きりの時だよな……やれやれ、頭が高い。普段から朕を敬え」

「あぁ~ん、将軍プレイたまんな~い‼」

そう、刹那は徳川家十六代将軍、徳川刹那なのである。同性愛を普及させたのも刹那なのである。先祖が男色していたことを公表し、こういう生き方もあるんだ、恥じることはない、皆も認めあおうと祭りの際に公言したのだ。もちろん、男色だけではなく、女性同士も良いことを説いた。そうしたら町中から歓声が上がった。庶民の間でも隠れて同性同士で付き合っていた者達からは特に慕われた。お上がやっているならと、同性同士の付き合いの輪は広がっていった。皆、胸を張って、愛する者と町を歩けるようになったのだ。

「私達は幸せな世界線を生きているということ。湯浴みしましょうか」

「そうだ、互いに綺麗になってから愛し合おう。今日は無礼講だ」

「えぇ~私達は常に無礼講でしょ?」

「それもそうだな。幼馴染だもんな。風呂も共に入るぞ」

「もう、わかったから……あ~れ~」

「良いではないか~‼」

 帯を持ち、ぐるぐると涼薫を回転させ、脱がせていく。涼薫の着物はけていく。真っ白な肌が露わになってくる。刹那は何度も見ているが慣れない。大胆な脱がせ方をしているが内心は照れている。だが、その心を隠し通し、帯脱がしを徹底する。

 江戸時代は長屋が主流であり、お隣の事情を知れる時代であったが、涼薫の家は山の上にある一軒家だったので、二人の喘ぎ声を邪魔する者はいなかった。

 刹那は堂々と自分で着物を脱ぎ、涼薫を風呂場へ連れて行く。互いに一糸纏わぬ姿となり、湯気がお出迎えした。もちろん、一緒に風呂に入る為に事前に準備してあったのである。電気で湯沸かしできるから、すぐに準備できた。二人共かけ湯をし、刹那の頭をシャワーで濡らす。シャンプーを手に適量取り、刹那の髪を泡立てる。

「お客様~お痒いところはございませんか?」

「うむ、苦しゅうない。続けたまえ」

 十分な泡をシャワーで洗い流していく。トリートメントもつけていき、同じように洗い流していく。柑橘系の匂いが漂う。

「この柑橘の匂い爽やかで良いな。夏らしくて良い」

「でしょ! 実は刹那に似合う匂いじゃないかと思って買ったんだ」

「そうか……それで、似合っているか?」

 涼薫は、顔を刹那の頭に埋め、思い切り深呼吸する。

「うん、似合ってる!」

「そうか。嬉しい」

 刹那はロングな髪をかき上げ、匂いをアピールする。涼薫は匂いより、髪をかき上げ見えたうなじにドキッとする。細いが丈夫なうなじ。そこへちゅ、と口づけをして、

「さ、交代。刹那、洗って」

「いいい、今、首に口づけただろう⁉」

「気のせいだよ~。さぁ、早く。湯冷めしちゃう」

「う、うむ。仕方ないな。直々に洗ってしんぜよう」

 刹那も涼薫の体を愛おしそうに洗う。頭も優しく揉んで洗い流す。

 かけ湯をすると、涼薫はふるふると顔を振る。

「はぁ~さっぱりした。さぁ、一緒にお湯に浸かりましょう」

「うむ」

 共に浴槽に浸かると、湯が少し溢れる。だが、肩まで湯に浸かれて心地よい。後から、刹那が涼薫を抱きしめる。

「涼薫……涼薫も良い匂いだよ。それに、麗しい体。布団まで待てない」

 刹那は、涼薫の肩に手を置く。ビクッと体が震える涼薫。

 体を洗ってもらっている時から、愛撫されているような感覚になり、体が敏感になっている。刹那は、人差し指で、ショートカットで剥き出しになっている涼薫のうなじをつつーっとなぞる。

「あん……」

「良い声で鳴くな。布団に入るのが待てないよ。先程は涼薫からの熱い接吻もあったのも余計にな」

 刹那は喋りながら、指を止めない。その指を鎖骨に宛がっていく。

「ねぇ……続きは布団でしよ? のぼせちゃいそう」

「焦らしてくるな。まぁ、仕方ない。涼薫にのぼせられては愛し合えないからな」

 浴槽から上がり、体を拭き合う。そして、浴衣を着せ合う。

「あ、先に昼食をいただいてからにしよう。腹が減っているのだ」

「お腹空かせてきてくれたのね。たくさん、召し上がってね。おかわりはいくらでも作るから」

「ありがとう。では、いただきます」

 刹那の目の前には、ひじきご飯、だし巻き卵、味噌汁が並んでいる。

「でも、こんな料理で良かったの?」

「素朴なご飯が食べたかったのだ。涼薫も何突っ立っているんだ、一緒に食べよう」

「つい、普段の接客態度でいちゃったよ。うん、一緒に食べよう。いただきます」

 向かい合って、食事を共にする二人。談笑をしながら、進む食。あっという間に平らげた。主に、刹那が食べたが。刹那は大食いなのである。対して、涼薫は小食なのである。

「いっぱい食べてくれたね~。本当、作り甲斐があるなぁ」

「さぁ、間食の時間だな。いくぞ、涼薫」

「もう、刹那ったら……せめて、食器を水に浸させて」

 そして、寝室へ向かうと、刹那が涼薫を押し倒す。形勢逆転だ。

「風呂で聴かせてくれた鳴き声をまた聴かせておくれ」

「優しくしてね……」

「ガラス細工を扱うようにするよ……」

 接吻を交わす。そして、着せ合った着物が段々とはだけていく程、激しい接吻と愛撫が交わされていく。

「とろけちゃう……」

「溶けて混ざり合って一つになれたら良いのにな」

「そうね、あなたを感じていたい……」

 一通りの愛撫が終わり、ピロートークに入る。それもやっぱり、並行世界についてだ。刹那は、涼薫を腕枕して話を待った。

「じゃあ、今日は、自然災害の話をするね。宵越しの金は持たねぇってご先祖様が言っていたじゃない? 何でたと思う?」

「宵越しの金は持たねぇ……か。不要なものは不要だ。自然災害は、明日は我が身であるが故に不要なものは持たない主義であることの象徴のように思う」

「その通り、木造建築で家が壊れやすいからこそ、復興も早い。自然災害が多い私達の国では、物はそんなに必要じゃなかった。それに失うものが多いけど、一々気にしていたら心身共に持たない人種になっていたと思う」

「だが、涼薫が見てきた未来の世界線では、心身やつれている子孫が多かったのだろう? 人口が多くて平和なのに自殺者が多かったのだろう?」

 涼薫は静かにこくんと頷いた。

「自然災害は止める技術は未だ開発されていないけど、自殺者を、そして、戦争の犠牲者を減らす方法はある。それは、現在の互助の精神を持つことだと思う」

「そうだな、午前中は近所の困りごとに対応して、午後は最低限、仕事をして、夜は休息に使う。それが江戸流生き方だが、未来の子孫は、仕事に忙殺されているのだったな」

「それも物質主義、資本主義によるものだと思う。お金というものが支配構造を持ってしまったせいで、人々の間に差別が発生してしまったと思う」

「これからも、江戸流の生き方が継承されていけばいいな……」

涼薫はにっこり笑って、刹那を安心させる。

「他の世界線が見える私は、他の世界線にも干渉して、世界を平和にして、どの世界線の人達も幸せにしたい願望がある。だから、私は時渡りをして、色々な人に干渉し世界線を変えてくる」

「ならば、私も共に行こう。涼薫と共に人生を歩みたい」

「この世界の将軍はどうするの? 跡取りはいないじゃない。私と付き合っているんだから」

「従妹を次期将軍に立てるよ。私から女の将軍が出来上がったんだ。女も天下を取れることを示す為、しばらく女の将軍で天下に立てるよ」

「男尊女卑を抜け出せたもんね。このまま、男女平等の社会が形成され続けているといいよね。それに、このまま行けば絡繰りを使った戦争を回避することができる」

「戦争……合戦より規模が大きいものなんだよな」

 合戦も江戸時代に入ってからなくなった。武士の存在意義は、町の秩序を守ることにある。

「日本の文化を守らなければ、競争社会に発展して、自殺者も戦死者も増える。私はね、観測者だから並行世界にたった一人しか生まれていないの。だけど、その分、様々な世界を渡り歩いたよ。この世界はβからθになった。だから、大丈夫。戦争を回避できる世界線になったよ」

 涼薫はポケットから取り出した変わった懐中時計を見てそう言った。

「もう、行くのか……。なら、従妹を将軍に仕立ててこないと……私が付いていっても問題ないのだろう?」

「そうね、刹那は世界線によっては、生まれたり生まれなかったりしている存在だからターニングポイントを越えていればいなくなっても問題はないね。刹那のターニングポイントは、私と付き合っていることを世間に公表して将軍になることだったから大丈夫だね」

「よし、ならば、善は急げ! 私は、涼薫と共にあらんことを!」

 刹那の従妹は第十七代将軍となった。刹那は隠居生活することを伝え、涼薫に付いていくことにした。

 涼薫は銃を取り出すと、その銃から虹色の光線を解き放つ。そうして、空間を切り裂く。

「私に付いてきて後悔はない? もしかしたら過酷な世界線に行くかもしれないよ?」

「私だって、この世界線のような世界をあらゆる場所で見たい。だから、涼薫に付いていく! 何より、愛する者と生涯を共にしたいと願うのだ。乗り越えよう、共に」

「ありがとう、心強いよ」

 涼薫と刹那は手を取り合い、空間の境目に入っていく。

 その先には、どのような世界が待ち受けているのだろうか。

 だが、二人は諦めない。どの世界線の人々も幸せに暮らせるように戦い続ける。


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