桃山 翠の手記

@reru-rere

第1話 桃山 翠の物語

この物語はクトゥルフ神話TRPGを遊ぶ‘‘キラキラドキドキ創世記卓‘‘に所属する「れれれのれる」がもつPC「桃山 翠」のバックストーリーとなっております。また、胸糞表現がございますので、閲覧の際は注意を払っていただきますようお願いいたします。


それでは良き暗闇を


これは桃山 翠という一人の少女の物語である。


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桃山 翠は20歳の女性である。日本を代表する、いや世界にも手をかけている、アイドルといえば彼女といわれるほどのトップアイドルである。

もともと彼女は地方に住んでいたがたまたま若者の街に出向いた際にスカウトされたのである。

そんなすべてを持っていそうな彼女にも人に聞かせるのも憚れる過去があるのだ。

翠は父母と暮らすいわゆる核家族で、彼女の記憶にある両親は優しく仲睦まじいものであった。暮らしは幸せそのもので、不自由なんてどこにもなかった。

しかし、翠が学校から帰ると玄関には母の靴はなく代わりに父のものと知らない女性用のものがあった。リビングの戸を開けようとすると中から荒い息遣いが二つ聞こえてくる。翠が少し中をのぞくと父と若い女性―きっと20代前半だろう―が 媾っ(まぐわ)ていたのだ。少女がその光景を目にし、感じたのは普段優しく母に多大な愛情を渡す父の姿が形をなくしてしまうほどの絶望であった。女性が父に耳に残りずっと残るような愛をささやき父もそれに返す。その瞬間彼がとても子供の足ではいや、大人の足でも決して追いつくことのない存在になってしまった。

(いや、いやだよお父さん…)

翠が心でそう願ったとしても行為が止まるわけもなく、より激しさを増していくのであった。

数か月の後、翠が町を歩いていると普段なら人の気を全く感じない裏路地から声が聞こえ、翠がそこに足を踏み入れると奥から女性の喘ぎ声が耳に入ってくる。

覗けばその正体は小さな女の子のすでに日々がある心には十分すぎる痛みを入れたのだ。母が知らない男性に股を開いていたのである。考えたくも、想像したくもない光景、目に入れるのも拒否する事実に翠はその場にへたり込んでしまう。甘く甘くドロッとした言葉を手渡す母、それを受け取り飲み込んでいく男性。凛とした存在が大きく見えた翠の母親は父以外の男に女にされていた。

そんな両親の関係が一回で終わると思っていたのは空想で何度も何度も何度も何度も何度も家で、町で、挙句の果てには公園のトイレでさえ聞こえてくるようになっていた。

いつからだろう、暖かな少し手狭な家が広く感じ始めたのは。気づけばあの家に居たくなくてバイトをいろいろするようになっていた。お金が貯まり気晴らしにと東京の街に足を延ばし、買い物なりゲームなり年頃にしてはあまり遊んだことのない翠が楽しんでいるとスーツを着込んだ男が声をかけてきた。話を聞くとアイドルにならないかというものであった。彼女は100年に一度見るほどの美少女と、そう言われ手を引かれ向かったのはあまり聞きなじみもない会社のオフィスだった。中に入ると社長と思しき人と少し話をし、その場でオーディションという突発ぶりに翠は驚いていると、採用からレッスンの日程にっという間に決まってしまった。

その場で決まった専属マネージャーからは今後東京での活動も多くなるだろうからと今いる高校、バイト先、両親に話をつけてくれるとのことだった。学校のほうは事務的なことしかなかったようだが、バイト先はなかなか渋られたらしい。両親はというと、我関せずといった様子だったらしい。その雰囲気を感じ翠の家庭環境を想像したのかマネージャーは、目に涙を浮かべ抱きしめてくれた。

とても暖かかった。

それからはYouTubeにある曲のカバーをしたらヒットし、新曲を歌えば街中にポスターができ、ファンも多くつくようになり、19には武道館でのライブが決定。20になれば国外ツアーをするほどの人気が出てきたのだ。

そんな波に乗っている彼女は今でもあの時の両親の姿が忘れられない。深い深い傷として心に残っているのである。



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彼女の往く未来には何があるのだろうか。両親と同じ爛れた闇、それとも、一人の人と運命を共にするのか。それは誰にもわからない。

なぜなら、「私たち」は今の観測者なのだから。








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