メメンタリーテイル~不滅のイデア~
海星めりい
メメンタリーテイル~不滅のイデア~
「くそっ……こんな化け物がいるとか聞いてねえぞ……」
一人の青年が膝立ちで血を流しながら……呻いていた。
青年の後ろには緑色の金属でできた天使のような像が真っ二つの状態で横たわっている。
先程までこの青年と天使の像は殺し合いを行っていのだ。
(駄目だなこりゃ……血を流しすぎてやがる……)
勝つには勝ったものの満身創痍といっていい状況に青年は自身がもう長くないことを悟る。
「はっ、なら死ぬ前に最後のお宝の一つでも拝んで置く……か」
ボロキレとなった探索用のコートを強く結び無理矢理止血して、力なき足取りで進んでいく。
無茶をした代償くらい拝まなければ、割に合わない。死ぬ時点で割もクソもないのだが、青年としては天国への土産がほしいということだろう。
天使の像が守っていた半透明の棺のようなものへと近づいていく。
「あ? 目を閉じた……人形?」
そう呟いた直後、青年は半透明の棺に触れながら倒れるのだった。
************
微かな月明かりすら雲に遮られ、今この場を照らすのは、遙か遠くに見える街の灯りのみ。
地上に吹くのは荒野らしく寒々しい風。巻き上げられた地表の砂利が僅かに漂い、一層の荒涼感を演出する。
そんな暗闇の中には二つの影があった。
「あーあ、まーた面倒くさいことに……。目立つから俺は交易地(こんな所)での買い物なんて止めようって言ったんだよ……」
「うるさい! 腹が減ったのだから仕方がないだろう!」
「食料ならまだあるだろうが……」
「あんなクソまずい携帯食料で満足できるか!」
声からして若い男と女だろうか。男の方は標準的な体格で、女の方はそんな男よりも二回りほど小さいように思える。
「仲間割れとは……この人数差に気でも狂ったか?」
そんなたわいない、喧嘩染みた二人の会話を遮るように、二人とは別の野太い男の声が響く。
そう、二人組の影の周りには、囲むように二〇ほどの大柄な人影がさらに展開していた。
声を出したのは、その囲んでいる大柄な人影の中でも一際大きい男だ。
「全然? だってこれくらいで気が狂ってたら、もっと前に発狂して死んでるよ」
「まさしく、その通りよな」
先ほどの感情的な会話とは一転して、落ち着きを払った声音で答える二人組。
その時、月が雲の隙間から顔を出し、この場にいる全員の姿を映し出した。
そこに現れたのは中々に異様な光景だった。
二人組は月明かりに照らされてもなお、その顔や服装などが分からない格好だった。全身を覆うローブに、目深に被られているフードと、〝正体を隠しています〟と全身から主張している有様だった。
一方で男達の方は、まだ分かりやすい。
男達が身を包むのは、人体の急所を的確に防ぐ近代的な
さらに、その手に持つのはアサルトライフルを初めとした軽火器類。
一見すると軍人の様にも思えるが、おそらくそうではないだろう。
その理由は彼らの装備がちぐはぐだからだ。
男達が手に持つ軽火器類も共和国製の物だったり、帝国製の物だったりと統一性がなく、それは装甲具も同様だ。意図的にばらけさせたにしては旧式の装備も多い事から、傭兵かそれに準ずる存在であるとの推測は容易になり立つ。
だが、旧式だろうと、どこ製だろうと、人が持つには強力な武装であることには違いない。
そして、当然ながらその銃口の先が向けられているのは二人組だ。
たった二人を襲うには過剰ともいえる装備だろう。
男達は全員、どこかぎらついた目でその二人組を見つめていた。
それとは別に、そんな屈強な男達に囲まれている二人組が特に身構えている様子はない。
本来ならば、銃を持ったこれ程の人数に囲まれればたいていの場合は萎縮する。
そうでなかったとしても、身構えたり、警戒したりと何らかのアクションをするはずである……なのにこの二人にはそれがない。
二人の態度は男達のことを別にどうとも思っていないような……もっと言ってしまえば、自宅でくつろいでいるかのように自然体だった。
そんな二人組の態度に違和感を覚えた男達だったが、リーダーである大柄な男が仲間内に不穏な空気が漂う前に発破をかける。
「はん! テメエらは俺達の賞金のために、ここで仕留めさせてもらうぜ《テロリータ》!! 《イノセントハンター》!!」
「その名で呼ぶなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
男が出した名を聞いた瞬間、二人組の片割れ――青年の方が咆哮のような声をあげる。その声には一言では言い表せない様々な感情が含まれていた。
ただ、幾分か怒りの感情が多いようだったが。
先ほどの落ち着いた様子と打って変わって大声をあげる男に、面食らったのは二人組を囲む男達だ。
すわ、戦闘開始か? という空気は霧散し、リーダーの男がかけた発破すら不発に終わり、困惑の空気が広がっていた。
それでも、銃から手を離したり、銃口を逸らしたりしないのは、流石と言ってしまってもいいのだろうか。
そんなよく分からない状況の中で、大声を上げた男の隣にいる少女だけはフードで顔は見えないものの、どこか楽しそうだった。
その証拠に、
「良いじゃないか、良いじゃないか。格好良いぞ、イノセントハンター?」
「響きだけな! 《
「?」
「なに、〝違うんですか?〟みたいな顔でこっち見てやがる!! 大体それを言ったらお前も似たようなもんだろうが! なあ《
「なにおぅ! 私のこの端正な身体を見てどこが幼女だ!」
「引っ掛かるのそこかよ!? っていうか、そこは間違ってねえよ。お前はどこからどう見てもちんまいだろうが!!」
「どこが幼女だ!!」
「リピート!? ああ!? じゃあお前のツルペタストーンの体型を見て、幼女以外にどう答えればいいんだよ? 俺に教えてくれよう!! 俺はお前のことを童女とでも呼べば良いのか? それとも幼児か?」
「ひっぱたくぞ、貴様! 大体、私はな――……」
「あー、あー、もうなんべんも聞いたよ。本来は絶世の美女だったって言うんだろ――……」
等々、二人だけの世界? とでもいえばいいのだろうか。ギャンギャン、ワンワン、動物同士が争うかのような、応酬が繰り返されていた。
「て、てめぇら……! 俺達を無視してんじゃねえぞ!!」
それにキレたのは囲んでいる男達のリーダーだ。
確かにいきなりの青年の怒声で驚き、固まったが、それも僅かな時間だけだ。百歩譲って、そこは自分たちの油断と言い切ってしまってもいいだろう。だが、なぜ目の前で、目標(ターゲット)である奴らの漫才を見なくてはならない!!
リーダーの男の頭の中はこのような事で占められていた。
その男の声に呼応するように、二人組は言い争いを止め、ゆっくりと視線を向ける。
そして、首を傾げた後、元に戻しコクンと一つ頷いた。
両者のタイミングは声を掛け合わせたかのようにピッタリだった。
寸分の狂いもない。
フードでその顔は見えず、言葉もなかったが、リーダーの男にはそれが何を意味するのか理解できた。
おそらく、男でなくとも見た人間の大半が理解出来ることだろう。
なぜなら、その二人の態度が雄弁に物語っていたのだ、〝ああ、いたっけか?〟と。
そのあまりの……バカにしたとしか言いようがない態度に、ビキビキと青筋を立てたリーダーの男は、
「やっちまえ!」
リーダーである男の指示に反射的に従った男達は手元の引き金(トリガー)を引く。
その途端、二人を襲うのは銃弾の雨だ。
二〇を越える銃から発射されるのは、その数倍を超える数の弾丸。
銃特有のパパパッ!! という短い炸裂音と共に放たれた弾丸は物理法則に従って、二人組の命を刈り取るべく飛んでいく。
この分だと二人組に当たらない弾丸があったり、貫通した弾丸があったりと、囲んでいる男達にも被害が出そうなものだが、そういった心配は無用だった。
男達は取り囲んではいるが、お互いに流れ弾に当たらないようにある程度の間隔を開けており、さらに装甲具によって保護されている状態だ。もしも逸れた銃弾が数発当たったとしても、精々青あざが出来る程度のもので、たいしたことではない。
弾丸がクモの巣のように隙間なく飛んでいく様子を見て、男達は『獲った!』と確信していた。
その時、青年の姿が僅かにぶれる。
「は、今更、何をしようとも手遅れだっつーの」
リーダーである男は、無駄としか言いようのない青年の行動をバカにしたように吐き捨てた。
だが、それも当然といえよう。銃弾の速度というのは、人間の目で知覚するのは不可能に近い。発射される前の――銃口を見て回避しようとするのは一応、可能の範囲ではあるが、それもかなり厳しいと言わざるを得ない。
発射されたのを見てから避けようとしても殆どの場合手遅れだ。唯一、回避できそうなのは有効射程外からの銃撃くらいだろうが、それほどまでに致命的なミスを襲撃者である男達が犯すはずもない。
アサルトライフルの有効射程内であるこの距離で、あの量の弾丸――例えこの二人組がローブの下に装甲具を着込んでいたとしても、人間であればひとたまりもないだろう。
ズガガガガガッ!! と二人組へ向けて飛んでいった弾丸が荒野を穿ち、土埃を巻き上げる。
二人組の姿は土埃に阻まれて見えないが、生きているとも思えない。
土埃がはれた先にあるのは、血だまりに倒れ伏す二人組でしかない――はずだった。
直後。
ヒュオッ! という奇妙な音が男達の耳に届いた。
同時に不自然な一陣の風が男達の間を駆け抜けて、土埃が払われる。
土埃を払ったのは黒の線だ。
もっとよくいうのならば、黒色の一閃だろうか。
そう、
――一閃だ。
男達にはただ、横に黒が一閃奔ったようにしか見えなかった。
その『黒』がなんなのか、分からない。
男達がその現象を訝しがる暇すらなく、はれた土埃から現れたのは二人組だ。
二人組の状態はローブごと銃弾によって貫かれ、血を噴き出し倒れている――などということはなく、先ほどまでの場所にごく普通に存在していた。
見間違いではない。
その証拠に二人のローブには傷一つついていなかった。
「す、全て防いだ……だと」
「うそ……だろ……」
にわかには信じられない状況にざわつく男達。
そんな驚愕を露わにする男達を尻目に、青年と少女の態度は実にあっけからんとしたものだった。
「悪いな、俺達に銃は効かないんだわ」
「道理よな、道理」
青年の手には男達には黒い長剣が握られていた。
すでに銃が武器としてある程度行き渡っている世の中で、剣や刀や槍といった武器――昔の武器を使う者は今の時代において殆どいない。傭兵や軍隊などの戦う人間の殆どは、使いやすくて威力が高い銃、またはそれに類する武器を使っている。
ただ、そんな世の中でも所謂、物好きなどと呼ばれる人間はいるものだ。昔の武器を愛用し、とんでもない戦闘力を発揮する達人と呼ばれる者達が存在している。
しかしながら、それが出来る人間は一握りだけだ。
しかもそんな存在がそうそういるはずもない。
だが、もし、この青年がそういった人種ならば……。
そういった理由があるからこそ、青年が武器として剣を使っているのは男達にとってはまだ理解出来た。
分からないのはその先だ。
例え青年が達人級の腕前だと仮定しても、周囲からデタラメに発射された銃弾を一刀のもとに斬り伏せたなどと誰が信じることが出来るだろうか。
出来るはずがない。そんな化け物がいてたまるか。
それだけでも驚愕すべき事柄なのに、なおのこと理解出来ないのは少女の方だ。
少女は盾などの防御するためのものどころか、武器すら出していない。
ローブから出ているのは、小さく、か細い少女らしい手だけだ。
にもかかわらず、無傷である。青年が自身と同時に守ったのか? とも勘ぐれるが、そうではないことは、そのローブから出ている少女の手を見れば分かる。
その腕は少女の胸の前でクロスされており、なんと、その手には大量の先が尖った合金の円筒――否、銃弾が握られていた。
男達の見ている光景が事実ならば、この少女は素手で迫り来る銃弾をつかみ、無力化したことになる。
装甲具をしていたとしても、あざが出来かねないほど危険な威力を持つ銃弾を素手でつかむ?
ましてや発射されたばかりの弾丸は素手で触るには熱いのに?
最早、理解の埒外の領域だ。
「嘘だ、嘘に決まってる!! テメエら! もう一回だ! 今度は良く狙え!!」
だから、男達がそう決め込むのも無理はなかった。
ガガガガガガガガガガガガガガッ!! と、先ほどよりも激しい砲火が二人を襲う。
――俺達が何かミスをしたんだ。
――油断したんだ。
――よく狙え、当てろ。
そんな感情を一緒くたに、恐怖をぬぐい去るように男達は一心不乱に引き金を引く。
だが、そんな男達を嘲笑うかのように、二人組は無事だった。
「お、今度はさっきより多いじゃん」
「ふん! さして違わないぞ……」
そこに広がる光景は先ほどと同じ――いや、今度は土埃すら巻き上がらずに止められた。しっかりと見ていたはずなのに何をしているのか分からない。
「大体、そんなチンケな玩具で我々が死ぬのであれば、とっくに誰かが私達の賞金など受け取っているというのに、そんなことにも気付かない低脳めが」
「おい、あんまり煽るな。逆上されたら面倒いんだから……この前のこと忘れたのか?」
「別にこれくらいいいではないか。お行儀よくしていると、すとれすというものが溜まってしまうぞ」
「おーおー、よく学んでるなぁー、えらいえらい」
「私を撫でるな!!」
何を話しているのかすら、男達には理解出来ない。
なぜ? という疑問符だけが頭の中を占めていた。
怒るという感情さえわいてこない。
あまりに場違いな光景を見せつける二人組を前に完全に固まってしまっていた。
「さて、襲いかかってきたんだ……襲われる覚悟くらい出来てんだろ?」
撫で飽きたのか、それとも別の理由があるのかは分からないが、青年はじゃれ合いのような行動を突然やめ、グルリ、とリーダーの男へと視線を向ける。
その言葉を発した瞬間から、少し前までのおちゃらけたような雰囲気とは別人の――重圧感のようなものが青年の全身からあふれ出す。
重苦しい空気が一帯を包み込む。
男達はその感じる恐怖にゴクリとつばをのんだ。
そんな中、なぜか青年の隣にいる少女だけは楽しそうだったが。
青年のフードの下に浮かぶのは獰猛な笑み。
しかも、リーダーの男は見てしまった。
「あ、あ? あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
見てしまったのだ。
自分にむくその目を。
紅だった。
見るものを地獄へと誘う妖しい輝き。
まごう事なき真紅の目。
その瞳に映るのは赤く怯えた自分の姿。
それを見て、だめだ。こいつらを襲ったのは間違いだった、と確信する。
「あーあ、勝手に戦意喪失してやがる」
「ふん、やはり小物か。つまらん」
「楽しいか、楽しくないかじゃないんだよなあ……」
大の男が――それも筋骨隆々の大男の怯えきった姿を見て、二人組はヤレヤレとでもいいたげな態度だった。
そのせいか、青年の方からはあの重圧感が霧散している。
さらに、何故かは分からないが、幸いなことに二人の注意が今はこちらに向いていない。
これは……チャンスだ。
リーダーである男は、この状況で取れる唯一の選択肢を躊躇いなく実行しようとする。
「に、……逃げ――」
「逃がさねえっ……つうの!」
当たり前だが、そんなことを許してくれる生易しい相手ではないというのに……。
「ひ、―――――――――ッ!!」
声にならない男達の悲鳴が夜陰の荒野に響き渡るのだった。
*********
「フィア、そっち終わったか?」
「あと少しだ。チェイン。……うえ、血まみれ。これでは使い物にならないぞ……貴様はもう少し斬る場所を考えろ」
「十分考えたっつーの。それは運が悪かっただけだろ」
今、この時、ここにいる生命体はこの二人だけだった。
黒い長剣の青年――チェイン・エッジバルト。
銃弾を素手で掴む少女――フィア・エーレンティス。
周りでは先ほど二人を襲った男達が倒れ伏しており、ピクリとも動く気配がない。
それもそのはず、倒れる男達の周りは自らの血で赤く染め上げられており、素人目にも生きていないことが理解出来るほどだった。
二人が何をしているかというと、簡単に言ってしまえば『死体漁り』だ。
アサルトライフルなどの武器や装甲具などは二人とも使わないうえに嵩張り、売るにも面倒なのでここに放置していく。
二人に必要なのは精々、紙幣や貴金属などの金だけだ。
だから、二人はこうして男達の懐や腰のポーチの辺りを探っているのだ。
死人に口なし。
ならば、そいつらの持ち物は自分達が有効活用しても問題なし。
大体襲ってこなければ殺すつもりはなかった。
だから、自分達は悪くない。
というのがチェインとフィアに共通している考え方だ。
シビアな思考だが、事実としてその通りなので否定もできない。
「さぁって、金目のもんは大体回収したし終わりかな……ん?」
「なんだ? 何か面白いものでも見つけたのか?」
「いや、なんか懐から大事そうな紙が……って、こりゃ手配書じゃねえか」
最後にリーダーであった男の懐をガサゴソと探っていたチェインは、『WANTED』と大きく書かれた紙が折りたたまれているのを見つけた。
「てっきり傭兵かと思ったが、ただの賞金稼ぎの類いだったか。ならば此奴らの練度が低いのにも納得がいった」
「まあ、あいつらが弱いというよりも俺達が強すぎるだけなんだが……っ!!」
「うん? 何がそんなに面白いんだ?」
いきなり口元を抑えたチェインに対し、フィアは怪訝そうな顔をする。チェインが見ていたのは今し方男の懐から抜き出した手配書のはずだ。
面白いものがあるとも思えない。
「…………!」
チョイチョイとチェインに手招きされたフィアは、手配書の指し示された場所を見てみる。
すると、そこにあったのは自分の顔だ。
ただし、その表情は不機嫌全開で、お世辞にも可愛いとはいえないしかめっ面。端的に言って物語の悪役のような醜さがあった。
手配書の写真とはいえこれはあんまりではないだろうか、とフィアが口を尖らせると……そこでチェインの笑いのダムが決壊した。
「ぶはははははははははは! 見ろよ、このお前のぶっさいくな顔!!」
その不細工な写真の当人であるフィアが横にいるというのに、チェインはそんなことはお構いなしにヒーヒーと笑う。
チェインの態度に腹が立ったフィアは青年の手から手配書を奪うと、
「むぅぅぅぅぅぅうぅぅぅ! だが、貴様だって似たようなものだろうが!!」
「俺は映ってませーん。しっかりフード被ってたもーん! ほら、隣をよく見てみー」
確かにフィアの写真の隣にはチェインの写真もあった。
ただし、その顔はフードによって阻まれており、どんな姿なのか写真からでは何一つ分からない状態だった。
確かにフィアのヒドい写真と比べれば雲泥の差のように思える。
「くっ、確かに……うん?」
「どしたー? 言い返せないのを誤魔化すためになにか話題でも変えるのかー?」
「ふっ」
反撃の糸口を見つけたのか、フィアはチェインの煽りに対し笑みを浮かべる。
「ふはっ! この人を見下したようなにやけ具合が、貴様の性格の悪さを実によく表しているな!! 良い写真だ!」
フィアが指摘したのはチェインの顔――より正確に言うのなら、ローブで隠れきっていない口元の辺り。
確かにそこには、人を人とも思っていないような……外道が勝ち誇った時にする三日月のような口元が、フードからははみ出ていた。
「なっ! 言ったな!」
「先に言ったのは貴様だろうが!!」
「んだと!」
正直どっちもどっちでしかないのだが、倒した男達のことなどすっかり頭の片隅に追いやった二人は、「お前だ!」「貴様だ!」などと言い合いながら、夜の荒野を騒がしく歩いて行く。
しまいには言い争いで収まらずに、自然と手が出る事態になっていた。
チェインがフィアの頬を引っ張れば、フィアはチェインの足を蹴る。
チェインがフィアの頭を叩けば、フィアはチェインの股間を蹴る――
「おまっ! そこはシャレにならんぞ!!」
「んー? よく分からないなッ! っと」
「本気の威力で蹴るんじゃねえ! 潰れんだろうが!!」
段々とじゃれ合いではすまなくなるレベルの喧嘩に発展していく。
その時、チェインを殴ろうとフィアが拳を構えると、少女の手から先ほどの手配書が風にのって荒野へと飛び立っていく。
フィアの手から離れた紙にはこう書かれてあった。
『
《崩滅幼女》
備考
今年から手配された新たな賞金首。
子供の姿をしているが、尊大な物言いをよくしており、実年齢は不明。
《変態紳士》と一緒に行動を共にしており、単独で確認された例はない。
罪状は過去の遺産である遺失物(オーパーツ)の違法入手や神魔大戦時代の保全遺跡への侵入。
さらに、教会や神殿が管理している各種施設などへの破壊、及び侵入などが挙げられる。
自ら積極的に殺しはしないものの、賞金稼ぎや賞金狙いの傭兵に攻撃された場合は容赦なく攻撃しているので注意されたし。
状態
DEAD OR ALIVE
賞金 三〇〇〇万ジェイル
』
『
《変態紳士》
備考
今年から手配された新たな賞金首。
常に《崩滅幼女》の隣にいるローブを纏った男。声から男であることは判明しているがそれ以外は不明。
特徴としては武器に長剣を使うことが挙げられる。その他の武器は不明。
確認されている限り、片時も離れないことから《崩滅幼女》とは恋人、もしくはそれに近い関係であると推測される。
潜入工作などはこの男が主に担当しているもよう。
罪状は《崩滅幼女》と同じく遺失物の違法入手や神魔大戦時代の保全遺跡への侵入。教会や神殿が管理している各種施設などへの破壊、及び侵入などが挙げられる。
《変態紳士》も《崩滅幼女》同様、積極的な殺しはしないが、要注意人物であることに変わりはない。
状態
DEAD OR ALIVE
賞金二五〇〇万ジェイル
』
メメンタリーテイル~不滅のイデア~ 海星めりい @raiki
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