今までになかった切り口の文学作品だな、と思いました。
主人公の職業は女教師。彼女は男子生徒たちの視線を受けることに快楽を覚えている。そしてお気に入りの男子の名前を呼ぶことに喜びを覚え、逆に自分が嫌悪するタイプの生徒には消えて欲しいとすら心の中では想っている。
ある種の「アブノーマル」なものを抱えている彼女。そんな彼女の内面が掘り下げられて行くことで、本作のテーマが浮き彫りになってきます。
対比として語られる「成瀬」という人物。天下を取りにいく人間ではなく、もっと別の何かを「とりにいって」しまったっぽい内容が示唆されます。
そんな彼の行動を見ることで、主人公の彼女は自分が日頃から持っている「信念」あるいは「守るべきライン」というのを自覚することに。
人間誰しも心の中には、人には秘密にしている「領域」があるという言葉がある。その言葉の通りに、それが心の中にある分には自由。どんなに歪んでいても、どんなに反社会的でも、どんなに醜くても。
多くの物語の中では「心の中で歪みを抱えている人物」が主人公の場合、その性癖を抑えきれずに暴発し、イヤミス展開などになるのが定番です。または、自分のそんな内面に葛藤しつつ、克服しようとする話になるか。
本作はそういう「歪み」を否定することや暴発させることはせず、あくまでも「どう向き合うか」を描くことで文学作品として一個の心情を描き切ることに成功しています。
心の中の自由とは。そういう折り合いをつけることで、無用な苦しみから解放されてもいいのではないか。そんなテーマ性が感じられる作品でした。