ク ソ ダ ン ジ ョ ン 配 信

にえる

ダンジョン配信【おまけ・大都会東京ダンジョン(山)】

 

 

 

「こんにちは。あかがねです」

 

 手元のPDA情報端末に映っている自身の姿を確認しながらメインカメラの確認を行う。

 活動中は基本的には斜め後ろから俯瞰するような追従設定だが、今はまだ準備のため正面に浮かせる。

 画質も設定も特に問題ないだろうと判断する。

 先ほどまでかき上げていた髪の毛を、解すように下ろしていく。

 微量ではあるが整髪料で固めていたせいでいくつも髪の束が残っている。

 

「音量は問題ないでしょうか」

 

 

_______


□PT1

□コメント


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


○問題ない


○いいよ


○待ってたぜぇ! この瞬間をよぉ!


○もうやるの? マ?


○完璧

 

 

 

 書き込まれていくコメントを確認。

 待機しているパーティメンバーも配信を見てくれているらしいので、問題があってもすぐに解決できるだろう。

 時間の経過に合わせて流れていくコメントを流し見しながら進行する。

 

「それじゃあ今日はクソダンジョンを紹介していきたいと思います」

 

 

_______


□PT1

□コメント


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


○うおおおおおおおお!


○メインコンテンツは後から登場ってね!


○サメはいないの! 早くサメを見せて頂戴! 陸上を練り歩くサメが見たいわ!


○いやあ 前回のイバールァは実にお排泄でしたね

 

○もっとksdn配信して 役目でしょ

 

 

 

「全く役目じゃないです。うちのパーティも基本はA級とかB級に潜って需要のあるアイテムを拾ってるんだよね。このクソダンジョン配信のほうがサブってことを理解して散ってください。こんな配信見てないで解散しろ」

 

 さっきまでやっていたダンジョン攻略を見てたやつばかりじゃねえか、と呟く。

 俺の呟きを無視して好き勝手に流れるコメントには有益な情報は一切ない。

 クソダンジョンの地元の有識者が稀に現れることもあるが、ここはそんな愛好家もいないらしい。

 居たらいっそ攻略を変わってもらうか、現地ガイドしてもらいたかったが、特に辺鄙なダンジョンなので仕方ない。

 

「さっそくアタック、と行きたいところですが注意点があります。俺はクソダンジョンと呼んでいますが、独断と偏見で決めています。誰かの思い出深いダンジョンだったり、希少品がドロップする激レア地かもしれないことを理解してください。あまりこのノリを外に持っていかないように。それはそれとして俺は本心でクソダンジョンだと思っています」

 

 

_______


□PT1

□コメント


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


○了解です


○いつもの無意味な注意


○やっぱksdnなんじゃねえか!


○あったよ新しいksが!


○でかした!

 

 

 

「でかしてねんだわ。……それじゃあ今日潜るダンジョンを軽く説明しておきます。ダンジョン名は『大都会東京ダンジョン(山)』です」

 

 PDAを操作してダンジョン名のテロップとともに、位置がわかりやすいようにポイントされた地図を画面に映し出す。

 大都会と名乗っているが場所は山の奥深くを示している。

 なぜかみんな大好きな『オオグンタマ』ダンジョンも似たような場所と特徴を持っていた。

 クソダンジョンは特徴が似てるが故のクソってわけだ。

 

 

_______


□PT1

□コメント


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


○山じゃねえか!


○大都会どこ・・・? ここ・・・?


○オオグンタマとチバラギランドの息吹を感じる


○名と実態が合ってないダンジョン多すぎ問題


○罪悪感があったのか(山)をつけたのは評価する

 

 

 

「ダンジョン名は発見者が名付けられますが、かなり自由みたいですね。自己保有したままだと利用者から手数料、国からは補助金が貰えるので馴染みやすい名称にするらしいです。このダンジョンに関しては途中で手放したようですが」

 

 どんな気持ちでダンジョン名を決めたのか聞いてみたい気もする。

 ウケを狙ったのか、人を少しでも集めようとしたのか。

 どんな理由であろうとも結局は話題になることのないままだったらしい。

 攻略だけはされているものの、通うほどの旨味なんてものは無かったようで今日まで利用者はほぼゼロ人。

 

「特徴ですが、さっきまで配信していた『奥秩父山ダンジョンそのに』を踏破しないと来れません。ただし『奥秩父山ダンジョンそのに』は地形の関係で近隣に公共交通機関が通っていないため、埼玉から車等で行くしか経路がありません。これまでのクソダンジョンと同様ですね。あと『奥秩父山ダンジョンそのいち』からは接続できないので注意してください」

 

 特定の条件を経て接続できるタイプが今回の配信先のダンジョンだ。

 『奥秩父山ダンジョンそのに』を踏破後に進めるのがこの『大都会東京ダンジョン(山)』だ。

 以前配信して何故か妙な人気のあるクソダンジョンである『オオグンタマ』ダンジョンも同様の形式だったが、通常のダンジョンを踏破して進める先にある『グンタマ』をまずは攻略しないといけないのでここよりもクソだった。

 B級ダンジョン踏破→『グンタマ』→『オオグンタマ』の3連続ダンジョンよりはまだマシだが、マシなだけでクソなのは変わらない。

 聳え立つクソか、こびり付くクソかの違いでしかない。

 

「事前に情報も揃えてあるので、詳細等は内部を探索しながら紹介したいと思います。装備は軽装、武器も軽さを重視してます」



_______


□PT1

□コメント


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


○ぶぉん……ぶぉん……(風切り音)


○どう見てもバール


○余裕がある時は変形するでっかい武器をゆっくり見せてくれよ 蒸気機関が見たいんだよおれは


○なにっ!? 灰の国特有の爆裂排気が見れないのか!?


○カートリッジ使用時の必殺技って感じがかっこいいから見せろ




「それじゃあ準備もできたってことで。さっそく攻略していこうかな」

 

 

_______


□PT1

□コメント


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


○は?


○女の子がいない配信で見てもらえると思うのは甘く見すぎ 怒りのあまりksが出る それはそれとして遠慮なく見るけど


○なぜ野郎の尻をどうして舐め回すように見ないといけないんですか(半ギレ)ありがたくねぶるように見ても文句言わないでね(本音)かたじけない(本性)


○はーつっかえ。リーダーやめたら?


○これはメンバーを休ませる名采配

 

 

 

「連続でダンジョン攻略する面倒さに加えてこんなクソダンジョンに潜らせる罪を仲間に押し付けることは流石にできない。ぶっちゃけ攻略しなくても別にいいですからね、クソダンジョンなんて」

 


_______


□PT1

□コメント


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


○草


○罪は言い過ぎだろ いや言い過ぎか?


○オルディアさまも配信してるけど


○言葉だけは渋るやつと喜んで付いてくるやつしかいない定期


○ディアちゃまも潜るって配信してんよ。つまり勝手に来る。


〇クソダンジョンを布教してる側の癖になんて言い草だよ

 

 

 

「マジ? 寝てるように言ったんですけどね」

 

 流れているコメントで仲間の一人も攻略に混ざると告げられる。

 PDAを操作して確認すれば、すぐ近くまで迫ってきているのがわかった。

 既に配信中のようで、コメントも流れている。

 それに合わせるように視聴者数も増えていき、言及するコメントも増加する。

 こんな配信なんて見なくていいというのが俺の本心だ。

 ただ、埋もれたダンジョンの素材等の供給数を増やすという配信目的は牛歩ながらも進んでいるらしいので少し喜ばしい。

 

「りょーくん、来てあげたよ!」

 

 過剰に余った魔力で白い肌と白銀の長髪をキラキラと輝かせながら、少女オルディアが俺の配信に映り込んだ。

 配信の設定を変更し、統合するとコメントが騒がしくなる。

 幼い少女を扱うようなコメントが目につく。

 年の割に幼く、背も低いので仕方のないことなのだろう。

 色々と考えて食べさせているが、それでも発育不良気味の胸や尻は悲しいくらい薄い。

 俺の前を陣取り、正面のカメラに向かって「いえい、いえーい」とダブルピースした。

 


_______


□PT1

□コメント


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


○ディアちゃーんこっちみてー!


○おかわわわわわわあああああ


○オルディアちゃまああああああ


○さっきの配信で寝るって言ってたよな 俺のベッドが空いてるぜ?


○まあああー!!!!




「寝てなって言ったでしょうが」

 

「帰りの車で寝るからだいじょーぶ」

 

 しょうもないダンジョンだから来なくていいって意味だったんだが。

 来るときも寝てたからな、帰りも寝るから体力を使い切るつもりだろうか。

 運転する俺たちはちょっとしんどいが、こんな辺鄙なダンジョンに来たんだから仕方ない。

 それはそれとして。

 

「さっきのダンジョンを逆走しないと車が停めてある外までいけないって忘れてる?」


 当然のことだが、往路があれば復路もある。

 クソダンジョン攻略を行う上で欠かすことのできない厄介なのが帰りの手段だ。

 クソダンジョンはその立地や形成過程が原因なのか、転移手段が限られていたり、そもそも使えなかったりする。

 力を使い果たしてボスを撃破し、帰り道で遭難することも少なくないらしい。

 画面上にほとんどの脱出手段が不可能であることを示せば、ksdnクソダンジョンのコメントが増える。

 

「なるほどね。つまり帰りはボクがりょーくんにおんぶしてもらえばいいんだよね」


「実は俺、前衛なんだぜ」


「やはりパーティ最強はボクとりょーくんが合体した魔法戦士……」

 

「俺が最強の魔法戦士の動きしたらオルドは間違いなく背中から落ちるけど」


「やはり今日はほどほどの魔法戦士の日……」


 背負うのは決定なのか、と思いながら準備を手伝う。

 クソダンジョンはその名の通りクソなので環境が安定しない。

 ガチの本格的な装備を必要としない代わりに環境に合わせる必要がある。

 手袋を付けさせ、長い髪を束ねて帽子を被せ、上着を着せる。

 

「準備かんりょー! ぼっちのりょーくんにボクが合流すれば最強パーティのダークライトニングになるんだよね」


「初耳なんだけど」


「りょーくんはずっと最強パーティのダークライトニングだったって言いたいんだよね」

 

 

_______


□PT1

□コメント


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


○☨ダークライトニング☨


○PT1とダークライトニングならどっちがよかったのか


○ディアちゃん、お言葉ですがあなた方のパーティー名はPT1です


○なおリーダーがめんどくさがってパーティ名をちゃんと付けなかった模様


○2や3を見たこと無いんですがそれは




「ほら、雑談はこのくらいにして軽く準備体と、ついでに【さしすせそ】の確認ね」

 

「はーい」


 軽い柔軟運動を始めれば、オルディアも動作を真似する。

 先ほどまでダンジョンで動き回っていたので、体は軽い熱を持ちながら柔らかさもある。

 それでも行うのは痛みや動きの確認のためだ。

 

「この配信中は配信者も視聴者も言葉遣いに気を付けましょう。配信はいつも通りアーカイブ化されるので、こんなクソダンジョン攻略に無理に付き合わないように。というわけで、配信で言葉に詰まった時に使う優しい言葉の【さしすせそ】を振り返りましょう。はい、オルドさん」

 

「さすがのさー」

 


_______


□PT1

□コメント


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


○さすがディアちゃん、賢いですわよ


○さすが


○流石!


○さすディー


○砂糖醤油

 

 

 

「し」

 

「信じてたー」

 

 

_______


□PT1

□コメント


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


○信じてた、信じてるの使い分けが重要ってわけ


○知らなかったじゃあかんのか


○ダンジョンアタック中に咄嗟に使う言葉で知らん言われるのは怖いやろ


○しかしね、君……わたしたちとしては、君たちの組織の配信を視聴する立場にいるのだから……


○醤油



 

「す」


「すごいね!」



_______


□PT1

□コメント


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


○ンギャワイッ!


○あーだめだめ笑顔かわいすぎます


○うおっまぶしっ


○スクショタイムたのむよ


○酢醤油


 

 

「せ」


「センスあるねー」

 


_______


□PT1

□コメント


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


○センスあるって言われて嬉しいのか


○そりゃまあこんな可愛い子に言われたら嬉しいやろ


○男に言われても?


○男に言われたならば我が心は不動


○せうゆ

 

 

 

「そ」

 

「ソイソース!」

 


_______


□PT1

□コメント


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


○ソイソース!


○ソイソース!


○ソイソース!


○ソイソース!


○ソイソース!

 

 

 

「なんでこういうことだけは揃うのか。……なんか潜る前に疲れちゃったから交代してもらいたくなってきたな」

 

「えー! せっかく来たんだから行こうよ!」

 

「はいはい、わかったから引っ張らないように」

 

 弾むような足取りでオルディアが俺の服の袖を引っ張って進んでいく。

 そういえばパーティを組むようになり、仲間が増えるに連れて2人だけで行動することが減って寂しく思ったのかもしれない。

 まあ、全く減ってないんですけどね。

 もしかすると昔を懐かしんでるのかもしれないので、これまでを振り返ってみるとしよう。

 なんでこんなクソダンジョン配信をやっているかも。

 

 

 

 





 

「うわ、でけぇ切り身が痙攣してるじゃん。え、死んだ……?」

 

「あー、ボクのせいかも。魚ってちょっとしかわからないんだよね」

 

 

_______


□PT1

□コメント


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


○草


○切り身にされるとはモンスターも思わなかっただろうに


○有名な切り身しか出てこないから俺寂しいよ


○魚とか言われても鮭かマグロしかわからん


○待ちな。奥の切り身はソテーされている。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。やけどに気を付けろ。


○加熱調理は草



 ちなみにクソダンジョンの環境は湖沼地帯とか池沼地帯に近く、サキュバス系の半魚型モンスターが出現し、こちらが望んだ魚類に変身するというものだった。

 人魚型だとある意味で人気なのだが残念ながら半魚型のため、人間に似た手足の生えた大型の魚が練り歩いているという気持ち悪い光景だった。

 湿度は高く、水辺で足回りはべちゃべちゃになり、ドロップ品も渋い。

 やっぱりクソはクソだった。

 

 

 

 

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