カレカノルール

みかんの実

カレカノルール




「でー、イタズラして下さいだっけ?」




俺の面倒臭そうな声のトーンがあたりに響いた。


大学構内にあるカフェテリア。

席の向かいに座るのは、1週間前から付き合いはじめた彼女の…………、




「あー……、あれ?おまえ名前、何だっけ?」


「さ、咲姫さきといいます」


「そうそう、咲姫ちゃんさー」


「はいっ……」


「一体、何なんだよ?」



人差し指でトントントンと苛立つようにテーブルを叩くと、目の前の早姫ちゃんって子が両手を合わせて顔を下に向けた。


ヤベ、口調強かったかな?





「ぁぁぁぁぁっ、今日も伊織くんめちゃくちゃドS顔、その眼でもっと睨んで、…………(小声)」


「……あ?」



泣くかと思ったら、なんか念仏でも唱えるようにブツブツ言ってる。この女こえーな。



何でコイツと付き合ってるかというと。

先週のサークルの飲み会の日、酔っぱらってヤってしまったからだ。


記憶にないけれど、朝起きたら俺のベッドでコイツが裸で寝ていたのだ。


もちろん、俺も素っ裸で──。



同じ大学だし、やり逃げはマズイと一応つき合うことになったけど。






面倒臭そうに頭をボリボリと搔きながら、口を開いた。




「そもそもさ、ハロウィンデートしようって昨日衣装を押しつけてきたのお前だろ?なのに、なんで俺だけノリノリでコスプレしちゃってるワケ?お菓子も準備してねーなら、尚更そーいうことだろ?」



周りを見渡すと、ハロウィン気分だかなんだか知らないけど、恋人や友達同士でハロウィン気分でコスプレしてる奴等は確かにたくさんいる。




「あの、と、とても似合ってます!お願いがあるんですけど、その……」


「…………………なに?」


「私の首に噛みついてくれませんか?」


「いや、普通にキモいけど?」


「そ、そんな……恥ずかしいです」



!???なんで、そこで照れるのか分からない。

この女、一体なんなんだ。




「あー、ばっかみてぇじゃん俺。マジ、空気読めねー女」


「あの、私……。伊織いおりくんのこと、好きです」


「……あ?(怒)ちっ、シラケた。帰る」



俺が席を立つと、この女も慌てて立ち上がった。




「あ、あ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!世の中のカップルがコスプレデートするのが常識だなんて、私知らなくて。そんな無言のルールがあるだなんて……」





「あー、俺帰るかんな。今日もう抗議ねーし」


「ごめんなさい、ま、待って。わ、私もコスプレでもなんでもします。イタズラもして下さい、お、お願いします…」



スタスタと足を進める俺の後ろについてくる女は、懇願するように声を絞り出す。





「へー、どこまでならイタズラしていいんだよ?」



くるりと振り返って、そう口にした。




「……えっ、あの……伊織くんのお部屋で。……その…、頑張るので、何でもするので許してください」



頬を真っ赤にさせて、少し垂れ気味の大きな瞳が潤んでいくのが分かる。

ギュッと拳を握る手がぷるぷると、足もガクガク、全身が子鹿のように震えていた。




「わ、私を……伊織くんの手で、また好きにいじめてください」



一瞬目を見開かせてから、口許がふっと緩んだ。





「よーし、遊んでやるよ。おらっ、行くぞ」



この女の頭をバシッと叩くと、顔を上げてキラキラとした瞳で俺を見てくる。




「……ぅぅぅ、嬉しい嬉しい、私を押さえつけて、縛って、噛んで、罵って、……また苦しくて恥ずかしい格好させ、て……下さい」



また念仏みたいの唱えて、なんか息切れしてキモいけど。

顔は可愛いし、簡単にヤれそうだし。とうぶん退屈しなそうでいーか。


と、こいつの腕を強引に引っ張って歩きだした──。





───カレカノルール───


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