【番外編】「おかえり、○○ちゃん」


 ◆


 2年半くらい前、俺は初めてネットにつながった。

 そして“ダンジョン配信”を見たとき、ものすごい違和感を覚えた。


「ダンジョンって、の?」


 誰にいても、分からなかった。じゃあ俺が調べて、動画にしよう。



――俺が“ダンジョン動画投稿者”になった、きっかけだ。



 ◇


 東京大迷宮、第3層。

 ペガサスを見送って、マッチョさん・メガネさんと別れた俺は、ついに目的地に着いた。

 とても静かだ。そして一見、壁しかないように見える。

 けど、地面から1.5m――俺の目線くらい――のところが、わずかにくぼんでいる。そして窪みの真ん中に、直径1cmくらいの突起とっきがある。ここを押すと……


 突起を中心に、白い光の波紋はもんが広がる。光はやがて、上から順に消えていく。見えない壁にでも当たったかのように。

 そして、およそ2m四方の長方形が、壁に浮かび上がる。長方形は中央から縦に割れて落ち窪み、ゆっくり左右にずれていく。

 ……まさかの隠し扉。しかも自動ドアでした。



 ◇


 地の底、もとい、ダンジョンにも、みやこはありますよ……とはいかないが、町ならある。

 いや、魔物の都はあるかもね? 興味ないけど。

 ともかく、謎の隠し扉をくぐり抜けると、町に出る。名前はまだない。町並みを一言で表すなら、“地底の小京しょうきょう” といったところか。

 残念ながら、人通りはない。が多くて、昼間でも大体こうだ。


「ぴぃ~よろろ~……」


 青空に、白い雲が点々と浮かび、とんびも1羽飛んでいる。

 ふと、後ろを振り返れば、隠し扉が閉まるところだ。ありふれたがけ岩肌いわはだに戻っていく。

 ここがダンジョンの外か中かも、何故そうなったのかも分からない。けど、とにかくここは繋がっている。

 そもそも、ダンジョンという地下アングラ(物理)で“生配信ができる”時点でおかしいのだ。


Wi-○iワイ・ァイでも飛んでんのか?」


などと、いちいち気にしてはいけない。魔物に食われるだけだ。



 ◇


 5分ほど町を歩いたところで、ある長屋に着いた。

 ぺしぺし……と、ほこりなんかをはらい落としてから、その一室に入る。


「ただいま~」

「おかえり、!」


 10代前半の、華奢きゃしゃな少女が飛んできた。俺の妹だ。愛する妹が出迎えてくれた。


「ふふ、ありがとね。調子はどう?」

「大丈夫! あと、30分はんじかんくらい前に“ぺぼ”さん来たよ。19層行けたんだって!」

「あ~、入れ違いか……了解、後でメールするね。じゃあシャワー浴びてくる」

「はいはーい」



 外か中かは知らないけど、ダンジョンにも人はいる。町もあるし、それぞれの暮らしもある。


「魔物がかわいそう」


とは、俺は思わない。あなたはどう思う?



――――――――――――――――――――

以上でしめとなります

ここまでお読みいただき、ありがとうございました! m(_ _)m

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俺はダンジョン動画投稿者 ~ダンジョン配信? やめておけ、○ぬぞ~ あいお明 @iolite_696

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