「ただの○○○○です」

今回長めです(当社比)

――――――――――――――――――――

 東京大迷宮、第3層。

 目的地へ向かう、最後の曲がり角に来た。カメラを下げたまま、先を覗こうとした……ら、後ろから男の声がする。


「今日はちょっとこっち行ってみようか……お、誰かいるね? ちょっと待ってね、許可取ってくる!」


 珍しい。まともな配信者ライバーさんだ。

 カメラを下げた2人の男が、武器をしまう。何やら小声で話しながら。


「……面倒めんどくさいね。こういう時、いちいち止めなきゃいけねぇの」

「お、お前もやるか? 編集動画デビュー」

「やらねぇよ。視聴者リスナーとその場でやり取りできるのが良いんじゃねぇか」

左様さよか。テロップ芸も面白おもろい思うけどなぁ……」


 左の細マッチョ、案外かしこい。あと「パワー!」って言ってみてほしい。

 そして右のチビメガネ、できる……! ぜひ「麒○キ・ンです」って言ってもらいたい。


 配信中のトラブル、いわゆる“配信事故”を防ぐ、完璧な方法がある。

 最初から、生配信なんかしないことだ。

 だが、これを守れる人間は少ない。打てば響くかのような視聴者との対話は、多くの人をとりこにし続ける。

 そして今日もまた、ダンジョンのどこかで人は生配信を始め、事故って消えていく。

 あるいは、どこかのWeb小説サイトで、5分で書いたかのような“ダンジョンもの”が量産されていくのだ。


 ダンジョン配信者をほうむり去る天敵、堂々の第1位。それは“生配信”というシステムそのものだ。

 あるいは、それをあおってやまない、「人間の欲望」ともいえる。

 だったらなくせばいい、というものでもない。だから世の中は面倒で、そして楽しいのだ。

 

 ――いけね、話がれた。



 ◇


 武器をしまった2人が、こちらに歩いてくる。カメラは下げたままだ。

 左手の短刀を、足元に置く。そしてカメラを下げる。こちらにも敵意はない、そう示すためだ。

 ……む、顔面の解像度が高い。


「「こんにちはー」」

「こんにちは~」

「すいません。ダンジョン配信と動画投稿やってる者なんですけど、撮影大丈夫ですか?」


 互いに頭を下げたあと、細マッチョの方が聞いてきた。

 ――できる筋肉だ! 失礼しました。


「……あ~すみません、首から上は撮らないでいただければ」

「ありがとうございます。あとお話うかがいたんですが、お時間のほうは……」

「大丈夫です。お名前伺っても?」

「おっと、失礼しました! わたくし……」


 …………

 ……

 …



 ◇


 互いの自己紹介を済ませ、


「ところで声高いっすね?」

「あはは……よく言われます」


などと雑談していたら、小さな音が聞こえてきた。

 お2人も気づいたようで、声をひそめた。


かどの向こうから、何か来てますよね……?」

「ですよね。何でしょう……?」

「俺ちょっと見てきましょか?」


 メガネさんの提案に、マッチョさんがこたえる。


「じゃあ頼む。 ……構いませんか?」

「はい、お願いします」

「わかりました。ほな」


 私の答えを聞くなり、メガネさんは曲がり角に向かい、そっと向こうをのぞきこんだ。

 ……とたんに、高い足音がんだ。

 メガネさんは5秒ほど見て、こちらに向き直ってから、手招きした。目が点みたいになっておられる。


「配信はダメか……行きましょう」

「はい」


 うながされるがまま、曲がり角の向こうを覗くと……


 白い馬がいる。サラブレッドに似てるけど、別物だ。立派なつのが1本、頭部に生えているからだ。

 ……ユニコーンなんて、初めて見た。

 思わず口から、感想がこぼれる。


「わ~……綺麗ですね、アレ以外は」

「ホンマそれ、ですわ」

「ですねぇ……危ねぇ、BAN《バン》される所だった」


 仕方ない。ユニコーンの後ろあしの辺りから、ナニやら黒い棒が伸びているのだから。

 ……男の子、元気! ヨシ!



 彼はきびすを返し、ポクポクと歩きだす。

 悠々と去っていくその背を、俺らは見送るだけだ。


「あれが“大人の余裕”なんか……?」


 違います、ただのフリ○ンです――――そう返す度胸どきょうは、俺にはなかった。



――――――――――――――――――――

お読みいただき、ありがとうございますm(_ _)m

次回、番外編です。もうちょっとだけ続くんじゃ……

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