一通の手紙ーー心の中の記憶(アルバム)ーー
高樫玲琉〈たかがしれいる〉
第1話
マンションに帰って、ポストを開けると、数枚の郵便物が入っていた。
ガス、電気、水道の請求書、保険の案内、通販のカタログ、化粧品の新製品のお知らせ、食品のアンケートなどを手に、取り出してみると、その中からひらりと、一枚、落ちた。
それは、一通の葉書きだった。
郵便物を持ってない、もう片方の手で拾い上げ、部屋の中で封を切った。
見慣れてる文章に、一通り目を通すと、残った一通の葉書きを見た。
(珍しいわね、誰からかしら?)
名前を見て、心臓が跳ね上がった。
まさかのあの人からだった。
(こんな、何年も経って、今頃何かしら?)
葉書きの裏をみると、純白のタキシードを着て、ウェディングドレス姿の、知らない女性と一緒に、写真に写っていた。
〝結婚しました〟と、懐かしい字体が並べて書かれていた。
読んだ瞬間、心の中にしまい込んで、忘れていた思い出が、蘇った(よみがえった)。
あの人。
高校の入学式で、見かけてから、ずっと気になっていた、あの人。
同級生であろう、男子達と楽しそうに、談笑していた時、笑いかけた笑顔が、素敵だった。
上手く歌えなくて、音程の取り方を教えて貰った、部活。
一緒に、本の整理を行った、委員会。
色んな出し物のアイディアを、打ち合わせで話し合った、文化祭。
無我夢中で、点数を取り合った、体育祭。
野外炊飯(やがいすいはん)や、キャンプファイヤーで、フォークダンスを一緒に踊った、合同合宿。
土日のガストやマクドナルドで、分からない所を教えて貰った、勉強会。
みんなで燥いだ(はしゃいだ)、ボーリングやカラオケ。
海水浴や花火を楽しんだ、夏休み。
スキーやスケートで、時間を忘れて遊んだ、冬休み。
初詣でばったり出くわして、挨拶を交わした、年末年始。
そして、せっかく作ったけど、勇気が無くて、チョコレートを渡せずに、終わったバレンタインデー。
色んなイベントで、共に行動する機会はあったけど、結局、思いを伝える事が出来ずに、あの人は、卒業してしまった。
それから、ぱったりと、音沙汰は無くなってしまっていた。
「懐かしいな」
葉書きの文字を読み終えた女性は、あの人と過ごした思い出を振り返り、独り言を言った。
「結婚したんだ」
楽しくて、嬉しくて、幸せだった気持ちが蘇り、温かいものが、女性の心を包み込んだ。
女性は、服の胸の部分を掴んで、握りしめた。
そして、そっと目を閉じた。
それから、葉書きが折れないように、優しくぎゅっと抱き締めた。
ゆっくりと、幸せの余韻に浸りながら、自分を労った(いたわった)。
視界がぼやけた。
じんわりと、目頭が熱くなるのが、感じられた。
何故だろう、あの人と過ごせた時間を思い出して、
幸せだった筈なのに。
涙が、止まらない。
とめどなく、溢れては床に落ちて、消えた。
「……っ、……っ」
声を殺して、泣いた。
暫くして、泣き終わると、スマホで時間を見た。
三時間が経っていた。
ゴミ箱には、ティッシュの山が出来ていた。
泣き過ぎて、どっと疲れが出た。
と、同時に眠気(ねむけ)も襲って来た。
ベッドに、横になる前に、女性はもう一度、持っていた葉書きに、視線を落とした。
写真の下に、印刷で電話番号が、書いてあるのを見つけた。
女性は、心が軽くなるのを、感じた。
〝明日、あの人に電話してみよう〟
そう、心に決めて、眠りについた。
次の日、女性は、あの人に電話をかけた。
〝ありがとう〟を伝えるために。
そして、〝幸せでしたか?〟と、聞くために。
一通の手紙ーー心の中の記憶(アルバム)ーー 高樫玲琉〈たかがしれいる〉 @au08057406264
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