『金色の羽根は永遠(とわ)に』 ―美術館ミステリー 贋作か呪いか―
ソコニ
第1話 羽化する記憶
第1話:死を告げる羽
語り手:御子柴美咲(警視庁捜査一課・警部補)
国立羽根美術館の地下収蔵庫で、館長の羽島道子の遺体が発見されたのは、9月の肌寒い雨の日だった。
遺体の周りには、純白の羽根が散りばめられ、まるで舞台装置のように不気味な美しさを放っていた。死因は頸部圧迫による窒息死。自殺を装った他殺の可能性が高かった。
「館長は今朝9時に出勤予定でしたが、姿を見せないため、職員が捜したところ発見されました」
事務長の村瀬から説明を受けながら、私は現場を注視していた。羽島道子、58歳。20年間この美術館を率いてきた敏腕館長だったという。彼女の遺体の傍らには、金色の羽根のブローチが落ちていた。
気になったのは、遺体の向きだ。通常、首を絞められた場合、体は激しくもがくはずだが、羽根は完璧な円を描くように配置されていた。これは明らかに、死後に誰かが演出したものだった。
第2話:学芸員の告白
語り手:中原千鶴(学芸員)
私は10年前から羽島館長の下で働いてきた。彼女は厳格な性格で、展示品の取り扱いには絶対的な基準を持っていた。特に、来月から始まる「世界の神話と羽根」展への思い入れは並々ならぬものがあった。
しかし、一週間前の夜、私は彼女の異変に気付いた。いつもは完璧な記録を取る彼女が、収蔵品リストの記入を間違えていたのだ。そして、その日の深夜、彼女は私に奇妙な言葉を残した。
「千鶴さん、この美術館には、誰も知らない秘密が眠っているの」
その時の彼女の目は、異様な輝きを放っていた。
第3話:警備員の証言
語り手:佐藤正樹(警備員)
事件前夜の巡回時、私は地下収蔵庫で館長とすれ違った。時刻は午後11時30分。普段なら挨拶をするのだが、彼女は何か考え事をしているようで、私の存在に気付かなかった。
その時、彼女は金色の羽根のブローチを手に持っていた。そのブローチは、来月の特別展の目玉展示品の一つだと聞いていた。エジプトの古代遺跡から発掘された貴重な品だという。
実は、その夜には他にも気になることがあった。午前2時の巡回時、収蔵庫の外で物音を聞いた。確認に向かうと、誰かが廊下を走り去る足音が聞こえた。しかし、追いかけても姿は見えなかった。
第4話:修復師の懸念
語り手:川村麗子(文化財修復師)
私が最後に館長と話したのは、彼女が死亡する二日前のことだ。特別展に向けて、古代エジプトの黄金の羽根をモチーフにした装飾品の修復作業を行っていた時だった。
「この展示品には、重大な問題があるかもしれません」
私がそう告げると、館長は激しく動揺した。
「誰にも言わないで。これは私が責任を持って対処します」
その言葉の真意を確かめる前に、彼女は急いで立ち去ってしまった。今になって思えば、あの時の館長の様子は、普段の冷静さを完全に失っていた。
第5話:事務長の疑念
語り手:村瀬健一(事務長)
羽島館長の死は、私たちに大きな衝撃を与えた。特に、来月に控えた特別展の準備は大詰めを迎えていただけに。
実は、最近の館長の行動には違和感があった。特別展の展示品、特に金色の羽根のブローチについて、過度に神経質になっていたのだ。
「これは、決して外に出してはいけないものなの」
先週、彼女がそうつぶやくのを偶然耳にした。その声には、ただならぬ緊迫感が漂っていた。
第6話:遺された手記
語り手:中原千鶴(学芸員)
館長の机を整理していた時、一通の封筒が見つかった。そこには、彼女の筆跡で「真実を知る者へ」と書かれていた。
手記には、特別展の目玉である金色の羽根のブローチにまつわる衝撃的な事実が記されていた。それは単なる美術品ではなく、古代エジプトの呪術に関わる品だったという。
そして、その品には「偽物」が存在するという記述もあった。どちらが本物なのか、館長は追究していたようだ。
第7話:追跡者
語り手:御子柴美咲(警部補)
捜査を進めるうちに、ある事実が浮かび上がってきた。館長の死の一週間前から、美術館に不審な人物が出入りしていたという証言がいくつも集まった。
防犯カメラには、夜間に収蔵庫に向かう人影が映っていた。その人物は、美術館の関係者カードを使って入館していた。
さらに、館長のスマートフォンからは、削除されたメッセージの痕跡が見つかった。
「本物の羽根は、偽りの翼を持つ」
この暗号めいた言葉の意味は何なのか。
第8話:修復師の告白
語り手:川村麗子(修復師)
私は、もう黙っていられない。
金色の羽根のブローチを修復する過程で、私は重大な事実を発見した。展示予定の品は、贋作だったのだ。本物は既に何者かによって、すり替えられていた。
この事実を館長に報告した時、彼女は「既に知っている」と答えた。そして、犯人の正体も把握しているという。しかし、その時の彼女の表情には、深い悲しみが浮かんでいた。
第9話:最後の証言
語り手:中原千鶴(学芸員)
事件の前夜、私は偶然、収蔵庫で館長の姿を見かけた。彼女は一人、金色の羽根のブローチを見つめていた。
「これは、決して世に出してはいけないもの。でも、もう遅いのかもしれない」
その時の彼女の声は、諦めと決意が入り混じったような不思議な響きを持っていた。
私は、その場から立ち去ろうとした。しかし、その時聞こえた足音に、思わず振り返った。そこには——。
エピローグ:羽化する真実
捜査の結果、衝撃的な事実が明らかになった。犯人は学芸員の中原千鶴だった。
事件の背景には、古代エジプトの呪術にまつわる深い闇が隠されていた。特別展の目玉展示品として予定されていた金色の羽根のブローチは、古代エジプトの呪術師が用いた儀式の品だった。伝説によれば、この羽根は持ち主の魂を永遠の命へと導く力を持つとされていた。
中原は10年前、この羽根を密かに複製し、本物とすり替えていた。彼女は考古学の世界では有名な贋作師の娘であり、幼い頃から完璧な複製品を作る技術を叩き込まれていた。美術館の学芸員となったのも、この羽根を手に入れるための周到な計画だった。
羽島館長は、修復作業中に中原の犯罪を突き止めた。しかし、それを告発する前に、もっと恐ろしい事実を発見する。この羽根には本当に古代の呪力が宿っており、それを利用して中原は既に何人もの人々の魂を操っていたのだ。
館長が殺害された夜、彼女は中原に真相を告げ、警察に通報する意思を示した。中原は館長を羽根の力で支配しようとしたが、強い意志を持つ館長には通用しなかった。追い詰められた中原は、館長を殺害。死後、羽根を散りばめて儀式的な演出を施したのは、警察の目を呪術的な殺人に向けさせるための偽装工作だった。
決め手となったのは、防犯カメラに映った中原の不自然な動き。彼女は完璧なアリバイを作るため、羽根の力で別の職員を操り、自分の代わりに映像に映らせていた。しかし、その不自然な動きが、かえって捜査陣の目を引くことになった。
逮捕後、中原は全ての罪を認めた。彼女の部屋からは、本物の金色の羽根と、多数の贋作製造の証拠が発見された。そして、彼女の日記には、人々の魂を操ることで永遠の命を得るという狂気的な計画が克明に記されていた。
羽島館長の死は、美術品の真贋を超えた、人類の限界への挑戦が引き起こした悲劇だった。真実は、羽根とともに永遠の闇の中へと沈んでいった。
『金色の羽根は永遠(とわ)に』 ―美術館ミステリー 贋作か呪いか― ソコニ @mi33x
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